「お疲れ様でした。見学者アンケートにご協力頂けますか?」
先日訪れた木屋川ダムや湯の原ダムで求められたのと同じアンケートだった。
再び会議室へ戻ったときも、その間に別の来訪者はまったく居なかった。
今富ダムの見学期間は3日間で、その間は2人の職員がいつ訪れるとも分からない来訪者のために常駐していなければならない。
見学会にはどのくらいの反応があるのだろう…
「今日が最終日ですが、これまでどの位の来訪者がありましたか?」
「少ないですね。あれでも前回開催したときなどは子ども連れのお客様も結構お見えでしたが…」
市街部から離れていてマイカー以外に交通の便がないこと、ダムとしては小ぶりで発電所などの設備がなくインパクトに欠けるのも来訪者の少なさの一因になっているようだ。
木・金・土の開催なら、いくら夏休みとは言っても昼間仕事をしている親が車で子どもを連れて行くなら土曜日くらいのものだろう。
その土曜日でしかも最終日なのに、今のところの来訪者が私一人だけとは…
(あまりに来訪者が少なくなると経費節減のために見学会自体が開催されなくなるのではと心配…)
「記念品です。この中からお好きなものをお一つお選びください。」
アンケートと引き換えに記念グッズを頂けることになった。これも湯の原ダムのときと同様だったが、提供される記念グッズの種類はかなり違っていた。
子ども向けのコモディティーが目立つ。3年位前に開催したときは子ども連れが多かったのを反映しているのだろう。
(この品々は来年の見学会開催時までお蔵入りになりそうだ…)
そこで大人の私でも無難なクール仕様の小さなハンカチを頂いた。
「今日は大変お世話になりました。」
私自身、今富ダムは小ぶりで見るべきものはないと考えていたのだが、やはり普段観られない監査廊へ潜入できることは大きな魅力だった。
木屋川ダムや湯の原ダムは、素直にダム堰堤付近に監査廊の入口があった。ダム事務所内に入口を持つパターンは初めてだった。
(出入りはできないが宇部丸山ダムや厚東川ダムもダム堰堤に監査廊入口を持っている)
有名どころでないということは、逆に言えば見学会にあっては結構な穴場とも言える。来訪者が殆どないので担当者を独り占めしてじっくりと見学できる。
これがもし何人かの来訪者をまとめた形での見学会だったら写真撮影で時間も取れないし、今回みたいに担当者が導かない場所まで積極的に”観てきていいですか?”などとは言い辛いだろう。
そういう訳で、今富ダムに関して、
小粒だけどなかなか面白いスポット
と評しておこう。日程が合えば、探検気分と涼を求めて監査廊見学ツアーの訪問地に組み入れる価値はあるだろう。
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さて、駐車場のアスファルトの上ですっかり蒸し上がった車に乗り込み、ダム下まで立ち寄ってみた。
時間は気になるが、監査廊見学はそれほど時間がかからなかったし引き返す道からすぐなので、ダム下の写真を数枚撮っておこうと思った。
ダム下の駐車場まで来ている。
中央のゲートから白い帯を引いてダム湖の水が流れ出ている。治水が主な役割のダムで、発電用や工業用水に向かう分がないから余剰分は自然の川の如く流下することになる。このため日照り続きで水位が極度に下がっているときでもなければ、殆どいつでもダムから水が流れるのを観ることができる。
制御室は駐車場より一段高くなっていて、ダム水流下の様子を眺められるように柵が設けられている。
(エプロンまでの高度差は相当ある…落ちたらエラいことになるので柵をアテにしてもたれかからない方が良い)
改めて、外から制御室を覗き込んだ。
約30分前はこの内側に居たなどと、何だか信じられない気分だ。
ダム水流下の様子は、3年前に訪れたときパノラマ動画撮影を行っていたのでそのまま掲載しておく。
(これはYouTubeへ掲載を始めた初期の頃の動画)
[再生時間: 37秒]
左岸からのショットが欲しいので、ちょっと歩いてみた。
橋があって駐車場に向かう方と未整備な道とに分岐している。
右岸側にも通路があるものの、柵があって車は乗り入れできない。
まあ歩いて進攻するなら我慢の限度という程度の雑草で覆われていた。
正面からのショット。
落下したダム水はエプロンに滞留し、小ダムの排水口を経て今富川に流れている。
小ダムと言っても人の背丈より遥かに高い。両岸は高低差が8mくらいあるのでエプロン自体に接近する方法はない。
左岸側から撮りたかったもの。
それが先ほど見学した制御室の下部に見えかけていた。
ズーム撮影。
制御室の真下に大小2つの排水口がある。いずれも今は弁が閉じられていた。
大きい方の口径は2m以上ありそうだ。これが開いて排水される光景はかなり壮観なのでは…
これは3年前に訪れたときの写真 である。
小さい方の管から物凄い勢いで放水されていた。多分モロにダム湖の水圧が掛かっている結果だろう。
(柵から身を乗り出しての撮影で大変に怖かった)
シャワーのような軽い音を立てて流れ落ちるダム水。
今は好天時だから平静を保っているだけで、一昨年のような豪雨のときにはまた違った表情を見せていたのだろうか…
ダム左岸への経路はここまででぷっつり切れていた。
周囲を調べると、ここからダム事務所のある坂道まで登る遊歩道らしきものがあった。しかし訪れる人が皆無なせいか、擬木の階段は近寄ればやっと存在を視認できる程度に藪へ埋もれていた。
恐らく今富ダムが造られた同時期にダム下を憩いの場として整備したのだろう。車が10台くらい収容可能な駐車場が整備されているし、その横手には藤棚らしきものも見える。ダムをライトアップするためのスポットライトもあった。
しかしそのいずれもが充分活用されず、時間の流れるままに自然へ還ろうとしているように見えた。
里山で静かに働く今富ダムが今後脚光を浴び、それなりの来訪者が憩う公園に変身する可能性があるだろうか…
当面は一部の愛好家やマニアが訪れ、静かに愛でられるような気がする。それも意外な面白さを隠し持った今富ダムらしい側面なのかも知れない。
駐車場に戻り、私は次なる目的地の阿武川ダムに向かって車を走らせ始めた。
終