厚東川ダム・左岸監査廊入口

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現地踏査日:2012/2/12
記事公開日:2012/2/22
平成23年度の見学会の記事でも触れている通り、厚東川ダムの監査廊は一般見学会の対象から外されている。設備が古く見学者の安全が確保できないというのがその理由とされている。

監査廊の存在を確認するだけなら、右岸側に限っては容易に行うことができる。ダム管理所の手前に来客者用の駐車場があり、そこからダム堰堤に監査廊の入口を見ることができる。


ダム堰堤の横に下り階段があり、その途中に監査廊入口があるのだが、堰堤部分を含めて立ち入り禁止となっている。
監査廊の入口自体も施錠された鉄扉となっていて、酔狂な来訪者が迷い込む余地はない。


したがってこの先は想像を巡らせる以外ないのだが、この鉄扉から先は監査廊独特な下り急階段があり、ダム堰堤内部に薄暗い通路が伸びていると思われる。
その通路の先がどうなっているかについて、私は次のような仮説をたてていた。
全く人目に触れないだけであって、実は
右岸側にも監査廊の入口があるのでは?
去年はダム見学会で県内のいくつかのダム監査廊を見てきた。そして監査廊を持つダムはどれも例外なく物理的な出入口を両岸に持っていることを理解した。ダム管理上使われていない出入口があったり、ダム堰堤とは独立した建て屋や管理所の内部にあって見かけ上出入口が無いように思える場合はあっても、片側にしか物理的な出入口を持たないダムは一つもなかった。

厚東川ダムでは発電関連および利水関連の設備はすべて右岸に集約されており、左岸にはまったく何もない。見学会で案内役を務めた担当者自ら、ダムのゲート室から扉を開いて左岸側へ出たことが殆どないと言っていた。
それは管理すべきものがないからというだけであって、監査廊の出入口自体が存在しないとは思えなかった。

左岸堰堤接近計画【1】」で次のようなことをほのめかしている:
ダム直下は恐らく厚東川ダムが完成してから何十年もの間、誰も足を踏み入れたことのない空間になっているのが確実で、私はここに誰の目にも触れたことのない物件が眠っていると強く確信している
これは他ならぬ厚東川ダムの左岸監査廊入口の存在を示唆していたのである。私が厚東川ダム左岸に関する接近計画でこれほど執心していた理由の一つがここにあった。

そして仮説から3ヶ月後…
やはり、そうだった。

県道が通っている右岸に比べ、ダム左岸は国道2号の二俣瀬橋袂から砂利道を延々と走り、途中からは車での進行も不可能で歩いて行くしかない。更には歩行すら困難な藪をかき分け、危険な急傾斜地をやり過ごした先に眠っていた。

2月の連休となる12日の午後、私はダム左岸堰堤計画として3度目のアプローチを行っていた。
時系列では「厚東川ダム・左岸堰堤接近計画【4】」の続きになる。現地の詳細な位置や到達経路などについては、上の記事を参照して頂きたい。

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それは何十年もの間、訪れた人が居ないのでは…と思えるほど自然に還りつつある傾斜地の先に見つかった。


斜面滑落の危険を承服しつつ、遂にその前に到達することができた。
ダム堰堤の中腹にトンネル状の坑口があり、フェンス門扉が設置されている。紛れもなくダム監査廊の入口だ。


この場所を地図で示しておこう。


フェンスの網目越しに中を覗く。当然内部は暗いのでうっすらとしか見えない。取りあえずフラッシュ動作と共に撮影し、その場で再生した。


監査廊は、入ったすぐ先で左に折れ曲がっていた。奥からは水のしたたる音が聞こえている。

少しでも奥を覗けないものかと入口の右端に立ち、カメラを持った腕を伸ばした。奥をのぞき見るのもこれが限界だ。拡大対象画像です。
画像にマウスをかざすと拡大、ダブルクリックで最大化します。
クリックすれば元のサイズに戻ります。


見学会のとき担当者に”老朽化が酷い”と言われていた通りで、内部の至る所でコンクリートの白化が進んでいる。天井は部分的に剥がれ落ちたらしく、骨材が見えかけていた。

フェンス門扉はアルミ製で、入口のサイズに合わせて誂えてあり隙間から侵入できる余地はない。
何処からフェンス部材を搬入したのだろうか…


ともあれ、最初に抱いた感想は、
やはり、あったのか…
この成果をいち早くメンバーに届けるべく、別途携帯のカメラで撮影した。


監査廊の周囲の状況を撮影したいと思うも、入口周辺は狭いし木々の繁茂が酷く撮影できるアングルが見つからない。
坑口前の背後はすぐコンクリート擁壁になっていて、撮影するにも充分な距離を取れないのである。


こういう場所を記録するには断片的な制静止画像よりも動画の方が分かりやすいだろう。
周囲も含めて撮影してみた。
画像だけでは表現できないと感じて実は一番始めにこの動画を撮影している

[再生時間: 22秒]


内部も同様に動画撮影した。
静止画像ではフラッシュ無しだと真っ暗にしか写らないものも動画だとかなり実際の状況に近く写っている。

[再生時間: 21秒]


この後、現地では一旦当初のターゲットである左岸堰堤を目指して急斜面の登攀を開始した。
派生記事: 厚東川ダム・左岸堰堤接近計画【5】
左岸堰堤到達ミッションを完遂し、充分に撮影を終えた後、同じ急斜面を下って再びここに戻ってきた。


逆U字型にくり抜かれた坑口。フェンス門扉があるだけなので常に外気と入れ替わっている。
入口の前まで斜面を崩れた土砂や木の葉が溜まっていた。


フェンス付近の壁もコンクリートが一部剥落している。しかし入口部分を含めて大きなクラックなどは見あたらない。フェンス設置以外何も手を加えられた形跡がなく、戦時中の物資不足を経て造られた構造物にしては状態は良好と言える。


カメラをフェンス越し近くに構え、フラッシュなしで撮影してみた。実際の見え方はこの方が近い。


ここも左岸堰堤同様、一般人が容易に来れる場所ではない。しかし勝手に監査廊内部へ入られるのは何としても拒絶したいらしく、フェンス上部と半円形の天井部分に出来た隙間も金網できっちり塞がれていた。金網が外せないように数ヶ所アンカーで留める念の入れようだ。


入口を護るフェンス門扉。
さすがにこれは昭和中後期以降になって設置されたものだろう。


既に述べた通り、厚東川ダムの監査廊は夏期に開催される一般見学会にあっても(少なくとも平成23年度の開催までの時点では)公開されていない。
今後監査廊の整備が進み、公開される可能性はあるかも知れないが、それまでは一般人がこの監査廊を通って私の居る場所へ立つことはあり得ない。この扉から内側は一般人にとって未知の世界であり続けることだろう…

ん?
このフェンス門扉の取っ手部分を撮影するときに気がついたのだが…
取っ手が固定されていない。
もしかして…鍵が掛かっていないのでは?
かなりドキドキする。
錠前がぶら下がっていないなら、ひょっとして取っ手を操作すれば開いて中に入れるのでは…

取っ手は扉に取り付けられた2本のバーに繋がっていて、固定された柱を挟む形になっていた。かなり遊びがあり、前後にガタガタ動いた。


何処か複雑な構造になっていて、回したものの何かが当たるようで開かない。この突き出たアルミの細いバーが上がる操作方法があるのかも知れない…と暫く頭を悩ませていた。鍵がないから簡単に開くように思えて、何かが扉に当たっていて開かない。

カメラだけフェンスの網目越しに突っ込んで偵察させることで答えが出てしまった。
内側に南京錠が取り付けてあった。


外からは鍵が見えず、施錠されているように見えなかった。
この施錠方法から分かるように、どうやらダム管理者も右岸の監査廊入口から歩いてここに到達する以外の方法をまったく想定していないということらしい。この取り付け方では、私の居る外側から解錠することは出来ない。

まあ…施錠は当然だろう。
施錠されておらず一般人が自由に来て立ち入れる監査廊があるダムの例を知らない。地下道並みに整備されている有名どころのダムなら別として、普通はあり得ないだろう。

仮にもしこの扉が施錠されておらず、内部に入れる状態になっていたら自分はどうするだろう。
当然中へ入り、最初の左折れ点のところまでは進んでカメラを構えるだろう。だけどそこから先は自重すると思う。明かりを持たなければ何も見えない。整備されない急な階段で転んで怪我をするのが関の山だろう。

天井から突き出ている長い鉄棒。通路を照らす電球か、そのための電線を吊っていたのではなかろうか。この古さからして監査廊が造られたのと同時期と思う。


坑口の真上を撮影。
袖壁が遙か高い位置に見えている。
平板な斜面ではなく湾曲していることが分かるだろう


建設当時のままの厚東川ダム堰堤下部に坑口が穿たれ、侵入防止のネットフェンスがある…しかし現地にみられた監査廊関連の情報はそれだけだった。先に訪れたダム左岸堰堤接続部と同様、これが何であるかを示す案内板や扁額はもちろん、立入禁止の立て札や表示板なども一切なかった。
存在が関係者によって知られているだけで、ダム管理者さえも殆ど接近することがない隔絶された空間になっていたのだった。

先に述べたように、平成23年度以降の一般見学会で監査廊が見学対象にならない限り、この場所を再度訪れることはないだろう。
もし来年度以降の見学会で監査廊も対象となり、ここに出て来られるときが来たなら、本編の続編を書くことになるだろう。それがいつになるやらまるで見当もつかないが…

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