厚東川ダム・左岸接近計画【2】

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(「厚東川ダム・左岸接近計画【1】」の続き)

余盛りの段差部分で自転車を抱えた。
災害で護岸に生えていた木も流されたのか、疎らになった木々の隙間から待望のターゲットが見え始めた。


道中、足元の悪い場所はあったものの、工事中はトラックが往来していただけあって藪漕ぎは全く必要なかった。晴天続きだったら昨夜の雨で粘土のじゅうたんと化した一帯も押し歩きせずそのまま乗って行けただろう。

待望の景色以上に私を驚かせたのは、災害の爪痕が残る護岸の破損ぶりだった。拡大対象画像です。
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立木が全くない丸裸な護岸となっているせいで、ダム堰堤はもちろん発電所や工業用水の設備もよく見える。
しかし今の様子を記録する重要性からすれば、まずは災害で破壊された護岸を撮影しておかなければと感じた。
これほど酷く破壊されたダム下の護岸を見ることはもう二度とないかも知れない…そう願うばかり

修復されたのはダム堰堤に近い護岸部だけで、そこから下流側はまだ全く手つかずだった。
剥がされた張りブロックが散乱し、コンクリート張りの天端部分も割れて基礎砕石が現れていた。


元々の構造は、恐らく基礎砕石の上に捨てコンクリートを打ち、張ブロックを並べていたのだろう。
張ブロックは隙間にモルタルが充填されているだけで通常、緊結されない。激しい水流に晒されればまずモルタルが洗い流される。正方形の張ブロックは一辺が30cmの標準品で、大人でも抱えようとすればかなり腰に来る重さだ。その重いブロックですら大半が河川敷へ押し流されているのだった。


古い護岸の間知石まで削られたようで、剥がされた張ブロックとごちゃ混ぜになって河川敷に散乱していた。
いずれは全部撤去しなければ、次にゲート全開での放流を行う必要がでたとき流下の障害になるだろう。


ここまで撮影して、まずは左岸の到達可能な一番奥まで自転車を押して歩いた。

整備が終わった護岸の先端部分。
ダム直下で流下水の影響を受けやすい部分なので、侵食が進まないように修復工事を急いだのだろう。


この観測地点をYahoo!の航空映像でポイントしてみた。
約10年前になる航空映像ではこの場所は未だ汀まで雑木が押し寄せており、護岸の整備がなければこの場所に立つことはできなかっただろう。


自転車を護岸から離れた木の近くに停め(意外に風が強かった…自転車が河川敷に倒れ込まないように)カメラのみ持って河川敷に近づいた。

これが左岸から観たダム堰堤である。
凄い…ワンショットでは入りきらない。右岸の同じ位置は既に発電所の敷地内なので、ここまで接近することは不可能である。


ダム堰堤の右岸に近い側に排砂管が2つあり、そのうちの1つを使って放流している。ジャバジャバと叩きコンクリートを洗う水の音がここまで聞こえていた。
護岸の内側には企業色カラーで塗られた水圧鉄管が見える。


責任放流分として厚東川へ帰されるダム水の先に穿たれた謎の穴。その近くには簡易な梯子が掛かっており、工業用水取水施設の敷地から降りられるようになっていた。

これは一体何だろう?
工業用水関連設備の真下にあることから余剰水を戻すための排出口?


厚東川発電所と企業局の取水設備の位置関係。
雛段状の一番高いところを通っているのが県道で、白っぽいコンクリート擁壁の上が駐車場になる。拡大対象画像です。
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ここから眺めたことのある人は少ない筈だし、ましてネット上に公開されたデジカメ画像はこれが初めてかも知れない。
いや…私が知らないだけで案外先駆者がいらっしゃるのかも…

河川敷の様子。
そう言えば厚東川ダムもエプロンがなく、ダム下はほぼ自然の岩場になっている。


宇部興産(株)の所有する厚東川発電所の建て屋。
外観からしてかなり古い。ここから観るだけでも興味津々になるものであふれている。
何だかもうダム関連と発電所関連のカテゴリを分ける意味が無くなってきたような…^^;


確かに厚東川ダム関連から離れてしまうが、気になるついでに…
発電所の壁にこんな大きな開口部がある。これは何のためのものだろう…


発電所施設内の換気口のようにも思えるが、水力発電なのに排気が必要なんだろうか…

厚東川発電所の変圧設備。
ちょっと遠いがそれでも右岸の門の前から観るよりは全体像がよく分かる。
残念ながら厚東川発電所の独立レポートを書けるほどじっくり見学する機会は訪れないだろう…


右岸からも見えていた古い護岸の痕跡。
3年前の写真にもこれと同じ状態で写っており、もしかすると初代の護岸ではなかろうか。


このようにダム関連の主要な設備はすべて右岸の堰堤付近に集中している。
そのすべてが関係者以外立入禁止となっていて、敷地の外からでも容易には観察できない。ここは対岸からの眺めではあってもまだ詳細に観察できる場所だった。


それでは、河川敷に降りてみようか…

降りられそうなことは、先ほど張ブロックが流されている場所で確認できていた。崩れ落ちたブロックや間知石が堆積していたので、足元さえ気をつければ大丈夫そうだ。護岸からでも充分観察できるが、ダム堰堤の偉容を真正面から撮影したいと思っていた。

護岸から一枚の写真を撮った直後、バッテリー残量サインが点滅した。
ここを訪れる前に市道を1本ほどレポート向けに走破し、駒の頭の遺構を訪れ写真を沢山撮っていたので、バッテリー切れ間近のサインは想定の範囲内だった。
慌てることはない。予備のバッテリーをカバンに入れてある。

経験上、バッテリー警告が出ても数枚撮影できることが分かっていた。まだ護岸からのパノラマ動画撮影を行っていなかったので、使い切った後にバッテリーを交換しようと思った。

[再生時間: 17秒]

上の動画ではかなり粗雑なカメラワークになっているだろう。
ファインダーを覗きながらカメラを回しているうちに、残量サインが1個に減ったのだ。撮影中にバッテリーが切れると保存されないので、全体像を収めようと慌てて早回ししている。

完全に動画を撮影し終えて待機画面に戻った直後「バッテリーを交換してください」のテキストメッセージが現れシャットダウンした。

予備のバッテリーを入れたショルダーバッグは、待機させている自転車のハンドルに掛けていた。河川敷へ降りる前に一旦自転車の元へ戻ってバッテリーを入れ替えた。

さて、降りる場所を記録しておこうと護岸の端に立ってカメラを構えたときのことだった。


フル充電したはずのバッテリーも
殆ど容量が残ってない!!
一瞬、何故だ?と訝った。何かの間違いじゃないかと思いつつも次に失意の余りメマイを起こしそうになった。

どういう理由であれ、昨晩コンセントに差して充電終了の緑ランプが点灯した筈なのに、たった一枚の撮影をこなした直後に残りバッテリー容量がサイン1個状態になったのだ。

もしかして最後の一枚になるかも…と思い、河川敷からベストアングルを目指して撮影した。拡大対象画像です。
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残念なことにサインの表示は実に正直だった。
この画像が保存された後、カメラのレンズが沈胴し「バッテリーを交換してください」のメッセージに変わってしまったのである。

これにて、本日の踏査終了…(>_<);

記録できないのなら、もはや踏査ではない。

充電器を持ってきていれば、バッテリー充電できそうな場所はいくつかあった。昨晩から今朝にかけて充電し、バッテリーランプが緑色になったのを確認してショルダーに入れたから、当然フル充電されているものと疑わなかった。

デジカメのバッテリーは、従来タイプの乾電池ではなくリチウムイオン電池だ。家電店に行けばすぐ手に入る。しかしここから一番近い家電店まで車を走らせるのとアジトに帰るのが殆ど変わらない辺鄙な場所なのだ。

それより何よりもうテンション、ダダ下がり。

完全に戦闘意欲を喪失した。

これからどうするかも何もない。踏査自体もう進めたくなかった。仮に今、驚くべき物件を見つけたとして、それを誰にでも分かる客観的な形で持ち帰れなければ何の意味もない…

撤収…。・゜゜・(>_<;)・゜゜・。
こうして無事に左岸アクセスを達成し、初めての映像を持ち帰ることはできた。しかし不完全な形で…

もっともこのままで終わるわけがない。
このまま終われる筈がない…
次回は…

(「厚東川ダム・左岸接近計画【3】」へ続く)
出典および編集追記:

* マル一夜コンセントに挿していながら充電できていなかったのはバッテリーと充電器の接触不良と思われる。サードパーティーのバッテリーは純正のものに対してごく僅か小さいため充電器にセットしたとき接点部分のバネが充分に接触しないのが原因と思われる。その後も同様の現象が数回起きたためリサイクル処分された。(2016/8/14)

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