厚東川ダム・平成23年度見学会【1】

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現地踏査日:2011/07/24
記事公開日:2011/12/12
昭和から時代を跨って私たちの最も身近なところにありながら、容易にベールを解いてくれようとしない…
他の方はともかく、私にとって厚東川ダムに対して抱く率直な気持ちである。
あまりにも自由に観られる場所が少ない。
ダム自体も公開されている部分が少ない。
例えばダム堰堤を通って両岸を行き来することが出来ないし、ダム下には発電所などの重要設備が占めているために下から接近することもできない。これにはダムの構造的な仕様、立地に起因することなのだが、県営ダムでありながら一般来訪者への処遇は電力会社の所有するダム並みに制限がきつい。

こうした事情があったので、ダム見学会に対する期待は当然高まった。
しかしここでも見学会の要項発表の時点で、些かがっかりさせられる特記事項があった。

監査廊の説明見学はありません。

ダム見学の一番面白い部分が、当初から一般公開されないと宣言されていたのだ。

今年度のダム見学イベントで監査廊が公開されないのは他に真締川ダムと阿武川ダムだけである。このうち真締川ダムはロックフィルダムという構造上、監査廊がないから当然だ。阿武川ダムは監査廊は存在するが、現在内部の補修工事(手摺り設置など)を行っているため公開されないと現地で説明を受けた。
見学者の安全を確保するための手摺り設置工事なら来年度は公開される可能性がある

何故、厚東川ダムだけ監査廊が公開されないのだろう?
この疑問が起きるのも当然で、実は今回の見学会より前に回答を得ていた。
ダム自体が古く、監査廊も階段の勾配がきつかったり踏み代が少なかったりで見学者の安全が確保できないから。
ここでも厚東川ダムの歴史的成り立ちと構造に一般公開の難しさを提示された格好だ。
もし監査廊を見学可能にするなら、内部に手摺りを設置したり幅狭な階段の踏み代をコンクリートで打ち直したり補強するなど、安全対策が必要になる。それも手摺り程度なら良いが、監査廊の階段を全面改修などしたら、それだけで昭和初期の貴重な構造物があるがままの姿を失ってしまう。痛し痒しの状態なのだ。
思うに現状は一切手を加えず、その代わり監査廊の見学希望者全員に危険性を充分説明し、”現地で起こした怪我などについて主催者側への責任は一切求めません”の誓約書提出を条件に見学させれば良いと思うのだが…
安全上の問題だけでなく、ダムを管理する側としては、見学者に良い状態のものを見せたいという考えもあるようだ。
佐波川ダムの見学時では、担当者が”こんなに欠けや傷みが放置されている階段を見学者にお見せするのは恥ずかしい…キチンと整備してから公開したいんですけどね”と言っていたのを思い出した。

私たち見学者も秀麗な姿を眺められるに越したことはないが、年月を経たダムなら相応な傷みがあって当然だし、それもまた歴史的な価値の一つだ。何十年もの間風雨に耐え、満身創痍となって水供給という任務をこなしている姿に感動を覚えるのである。単なる外観重視のために、コアな見学者が一番求めている”あるがままの姿”に手を加えてしまうのなら本末転倒だ。
安全が確保される最小限の改変に留めておいて欲しいと思う

いずれにしろ今回見学の厚東川ダムにもこういう事情があるので、見学会レポートとしても監査廊内部の映像は一切なく、ゲート室とダム事務所内にあるコントロールパネルのみという内容になる。他のダムに比べて些か食い足りないだろうが、ご了承頂きたい。
大丈夫…心配しなくたってそれなりにコアで興奮を呼ぶネタが待っているからさ^^;

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厚東川ダムの位置図については最近公開した「右岸接近計画」およびそれ以前の記事で明らかにされる予定なので、今回は上空からの航空映像のみ添付する。
中心点はダム事務所の玄関にある。ダム堰堤部に水色屋根のゲート室が載っているのが分かるだろう。


さて、いきなり現地へ…

ダム堰堤の下流側に来客者用の駐車場がある。デジカメを片手に、替えのバッテリーをポケットに入れて車を降りた。
駐車場近辺にはお約束の幟が立てられていた。


ダムの全容は今後書かれる予定の概説記事に載せると思うけど、ちゃんと今日の写真も撮ったので早速拡大画像でどうぞ♪
ダブルクリックで表示される最大画像のサイズが超デカになったけど SkyDrive 仕様変更の影響です^^;拡大対象画像です。
画像にマウスをかざすと拡大、ダブルクリックで最大化します。
クリックすれば元のサイズに戻ります。


駐車場の真下には工業用水道の設備群が見える。
ここに来れば必ずカメラを向けてしまうお気に入りの物件である。工業用水関連はダム事務所ではなく企業局(厚東川工業用水道事務所)の管轄であり、残念ながら一般公開の対象外だ。
入場料を支払ってでも観たいって人間が少なくとも2名居るんだけどなぁ…


ダム駐車場の背面は発電所や工業用水関連の設備がある。立ち入るも何もここは垂直壁で降りられるわけもないのだが、念を押すが如く”関係者以外立入禁止”の立て札があった。


ザワザワして気持ちが良くないのだが、フェンス柵から少し身を乗り出して撮影している。
厚東川ダムの左岸監査廊入口は、このすぐ下にある。先にも述べた通り、特別公開される見学会の今日ですら外から眺めるだけだ。


ダム堰堤と駐車場の間に小屋があり、その壁に水利使用標識が貼り付けてあった。


お馴染みの水利使用標識。
以前はダム事務所真向かいにあるトイレの横に建てられていた。


ダム堰堤の端から監査廊入口へ降りる階段がある。
その階段からして立入禁止だし、監査廊の入口は当然ごつい鋼製の扉が控えていた。


未練がましく監査廊入口の扉をズームする。
扉は意外に新しく見えるし、その奥のコンクリートも傷みが酷いようには思えない。


あの奥はどうなっているのだろうか…
踏み外しそうな位に足掛かりの狭い急な階段、それも至る所経年変化で欠けまくっていて、漏水でジャブジャブになっているとか…妄想してしまう。
いつか内部に手摺りが設置されるなどして見学対象になる日が来るのだろうか…

県道側に開いているダム堰堤入口。両側の親柱が重厚さを醸し出している。通路部分はアスファルトが被せられているが、両側にある意匠付きの袖壁はダムが出来た当初からのものだろうか。


何度も来ている場所だから、見学会で公開される以外は殆ど撮影し尽くされている。ゲート室の公開も見学者が来訪する都度随時行われているので、すぐにダム事務所を訪ねた。
無人が通例なダム事務所には珍しく、厚東川ダム事務所は平日でも職員が常駐している。これまでも数回入ったことがあるので、特に未知の世界という感じはしない。

事務室には3名程度の職員が居て、そのうちの最も若手と思われる職員が応対した。見たことのある担当者ではなかったし、相手も当然私のことはご存じでなかった。
何年も経てば異動するのだろうと思う

これまでにもしてきたことだが、私は単刀直入に自分の希望を述べた。
「普段観ることのできない部分を見学したいです。」
その要望に担当者も感じ取ったのだろうか、返答を先取りされてしまった。
「残念ですが監査廊はお見せすることができないんですよね。」
見学の対象外とされているのも既に私が聞いている理由と同じだった。8門あるゲート室の内部とコントロールパネル(事務所内にある)のみが公開対象だった。それでも普段観られないゲート室内部を見られるのは嬉しい。もちろん全くの初めてだ。
「それではご案内します。」
担当者はまずダム堰堤入口の黄色いプラスチックチェーンを取り除いた。

工業用水と厚東川発電所を見下ろす。
堰堤上は通常一切立ち入れないから、この場所からの撮影もそう簡単には行えない。


担当者が扉を解錠し、ゲート室の扉が開いた。
撮影がフライング…担当者が写り込んでしまったので画像処理しています


自分の目に触れる興味深いモノの一つさえも見逃すまいと、私はカメラをスタンバイしつつ目を皿のようにして担当者の後に続いた。

(「厚東川ダム・平成23年度見学会【2】」へ続く)

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