宇部丸山ダム・工事用道路【1】

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現地踏査日:2010/2/6
記事公開日:2012/10/8
丸山ダムの堰堤上に向かうには大抵市道薬師堂立熊線に入り、きつい坂を登って左折することになる。
この管理道の中ほど左側に砂利敷きの駐車場があり、花見の時期には恐らく車が押し寄せる。

ところがその駐車場の少し手前右側にダム湖の方へ降りていく舗装路がある。
これが現在のその入口の状況である。


間違って車が入り込まないようバリカーが並べて設置されている。間違うも何もこの方向はダム湖なので行き先などないのだが、何故かきちんとアスファルト舗装されており気になっていた。
以下は一昨年の2月、初めてこの先を辿ったときのレポートである。

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一昨年の2月上旬、ハイブリッド方式で自転車を漕いで訪れている。この場所は知っていたが先を偵察したことは一度もなかった。
まだ入口のバリカーが古びている。


間違って車が入り込まないよう対策されているだけで侵入禁止にはなっていない。
バリカーの間もチェーンは張られておらず自転車で乗り込むことができた。
現在はすべてチェーンが張られている


自転車はここに留守番させることにした。
先はかなり急な下り坂になっているので帰りは漕いで登るのが大儀だし何よりもここから既に結末が見えかけていたからだ。


そう…
多分こうなっているだろうとは思っていた。


しかし予想された通りの結末を得るために、カメラだけ持って下り坂を歩いた。

道路がダム湖の中に消えている!!


アスファルト舗装の先端には何もなかった。本当に何も。
柵も案内板もなくいきなりアスファルト路そのものがダム湖の水に洗われていたのだ。
しかも水を被っている地点で終わっているのではなくまだ延々と続いているらしかった。


それにも増して驚いたのは、このアスファルト路の酷い荒れっぷりだった。
ダム湖の水位が上がったとき道路の側面を波で洗われるらしく、路盤や路体まで侵食されていた。


貯水率100%に近い高めの水位も侵食が加速する原因らしかった。
縁に土嚢が築かれているものの既に相当削られている。


目を凝らして舗装路の前方を観察した。
まだ真っ直ぐ湖底に続いているように見える。


それほど透明度の高くないダム湖なので、先の方はさすがに見通せなかった。
ただ、進行方向に沿って水の色が次第に濃い緑色に変わっていることから、今までと同じ下り勾配で道路が続いているらしいことだけ想像された。


これに比べて土嚢の築かれている側面はもう少し傾斜がきついらしかった。
緑色のグラデーションが変化する距離が短い。すぐ深くなっているようだ。


これ以外に撮影すべきものはなく、結末だけを確かめて自転車の元へ戻った。
駐車場が近いことから、入口のバリカーは必須であることは理解できた。普通に考えればこの先はダム湖底に向かうと分かるものの、入口が開いていれば帰り道だと勘違いして車を乗り入れかねない。まして花見で一杯引っかけ飲酒運転上等だ!などというドライバーなら、一気にここを下ってダム湖へ突っ込む事態も有り得るだろう。
鉱油や燃料でダム湖の水が汚染されることの方が心配…

そんなダム湖へ下る道路が管理道に接続されていて、しかもきちんとアスファルト舗装されているというのが疑問に思われるかも知れない。下った先に企業局の管理する何かの設備が存在するのではなく、本当に何もないからだ。何のために舗装路を造ったのだろうという疑問は当然起きてくる。

この答は過去にタイムスリップすることでビジュアルに得ることができる。
昭和49年度までタイムスリップしてこの場所を上空から眺めてみよう。
「国土画像情報閲覧システム - 宇部丸山ダム付近(昭和49年度)の航空映像」
http://w3land.mlit.go.jp/cgi-bin/WebGIS2/WC_AirPhoto.cgi?IT=p&DT=n&PFN=CCG-74-12&PCN=C12&IDX=48
別ウィンドウで開いたページ右上にある400dpiのリンクをクリックすると高解像度の画像が表示される
ダム堰堤は既に完成しているが、まだダム湖には僅かしか湛水されていない。肌色の地山が剥き出しになっている場所が多く、至る所工事車両の通った跡が見えている。

このことからほぼ解答が得られる。管理道からダム湖へ下っていくこの意味不明な道路は、かつての工事用道路の一部だったと推測される。
航空映像では既に現在の急坂を登り詰める市道や右カーブする管理道が見えている。そして確かにその途中から北を向いて沢に降りていく道が見られるだろう。

航空映像の工事用道路はどれも舗装されていない。しかし先端がダム湖に消えているこの道路はすべてアスファルト舗装だ。航空映像撮影後に舗装されたことになる。
どのみち使われず廃される通路を舗装したことになるのだが、その理由は工事用車両がタイヤに泥をつけて市道に持ち出さないようにするためか、降雨時に工事用道路を雨が流れて土が削られダム湖に流れ込むのを抑えるためではなかろうか。

工事区域内全体を見渡すと、他にも遺っていそうな工事用道路が至る所に見受けられる。入口付近からダム堰堤方向に降りる道があるし、市道のダム管理道入口から左右どちらにも曲がらず真っ直ぐ降りるような道も見えている。
これらのすべてが痕跡を持つものでもなく、護岸に置き換えられたり盛土した後に木を植えている場所もある。しかし湛水域となる場所にこれほど工事用道路が造られたダムの例は少ないかも知れない。これには堰堤を造り単に水を湛えて完成するダムではなく、ダム湖となる場所に取水塔・注水塔および連絡する隧道を掘削する工事車両の往来需要があったからだろうと想像される。

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工事用車両が出入りするスロープであるだけに道路面は通常の汀よりも緩やかであり、水位の低下によって周囲の光景がかなりドラスチックに変化する。
ここを観察基準点として先月より数回訪れ、ダム湖の水位低下とそれに伴う景色および環境の変化を調査した。
元は低水位シリーズという旬モノ踏査がモチベーションだったが、思いがけぬ社会的問題提起を内包していることに気付いた。
後続の記事で詳細にレポートしよう。

(「宇部丸山ダム・工事用道路【2】」へ続く)

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