宇部丸山ダム・工事用道路【2】

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現地踏査日:2012/8/31
      2012/9/23
記事公開日:2012/10/10
(「宇部丸山ダム・工事用道路【1】」の続き)

本編からは主に低水位踏査がメインだが、対比用の写真を含めて一部8月末撮影のものを含んでいる。

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時系列としては取水塔を観に行った帰りのことになる。
仕事が終わってから行動開始したので時刻は既に午後5時半を回っていた。デジカメ撮影はできるが夕刻時や曇天で光量が少ないとピントが甘くなって遠景がきれいに撮れない。今日のところは撤収する積もりでいた。

工事用道路として知られている入口前を通ったとき、ある小さな変化に気付いたのでちょっと車を停めて撮影のために降りた。


侵入防止のバリカーが新しくなっていた。ペンキを塗り替えたのではなく新しいタイプのものに更新している。
「許可のない車両は進入禁止」と明記された企業局謹製の表示入りだ。
許可されようがこの状態では強行突破できないと思う…^^;


自転車も一応は車両である。乗り入れて欲しくないという意図からか、高さの違うバリカーの間にはチェーンが張られていた。
もっとも立入禁止とは違う。歩いて柵の向こう側へ入るのは標示としても物理的にも禁止はしていないようだ。

せっかく車を降りてここまで来たので、汀に到達するまで工事用道路を下り、周囲の写真を数枚撮ってこの日はそのままアジトに戻った。

9月に入ってからまとまった雨がない。それまでに日本列島は数回台風に脅かされ、西日本も一時は直撃が懸念される状況になりかけたが、台風のコースが逸れたため風は元より期待されたほどの降水量もなかった。その後天候が極めて安定し、カラッと晴れ上がって湿度も低い過ごしやすい日々が続くようになった。屋外での活動は確かに快適なのだが、長いこと雨がまったく降らないことへの懸念も少しは感じていた。
9月の下旬にさしかかろうというある日曜日、この方面へ来る用事があったのでダムの貯水量も気になって同じ場所を訪れた。
このときは車は駐車場に停めて歩いた

工事用道路の坂を半分下らないうちに8月末とは状況が違うことが理解できた。
汀がかなり後退しており茶色い地山が見えかけていた。


水位が背丈くらい下がっている!!
湖底に向かう工事用道路が更に先の方まで見える状態になっていたのである。


以下の2枚は8月末に来たときの状況だ。
今から思えばこの場所の写真を撮った中でもっとも水位が高い。


工事用道路が水没するすぐ右側に小さな入り江があった。道のように奥まで続いていたので興味を覚えたがこのときは湖水に満たされ接近できなかったのである。


それが今回訪れたときには汀が退いて入り江部分は乾いて普通の砂浜のようになっていた。


昭和49年度版の航空映像ではこの場所もダム湖に降りる工事用道路だったように見える。本当にそうなら何かそれらしい痕跡が遺っているかも知れない。

今なら全く足を濡らさず歩いて行ける。
8月末のときからあの壁のように聳える何かが気になっていた。


コンクリート製の垂直壁だった。両袖が階段状になっておりダム堰堤のミニチュアのようだ。
確かこの場所にも工事用道路の入口があったようだが…


壁に背中を向けて撮影している。
両側が露岩の半島でここだけ通路のようになっている。単なる入り江なのか工事用道路として両側を削ったのかは分からない。
航空映像を見る限りは人為的に削ったように思う


通常水位では吹き溜まりになるせいか、枯れ木の堆積がもの凄い。


この入り江部分から振り返って撮影。
8月末より水位が下がったとは言っても垂直高では精々1m程度だ。しかし工事用道路の縦断勾配が周囲の汀よりも緩やかなのでかなりの広い範囲が砂地に変わっている。


8月末の時点では眺めることしかできなかった入り江部の奥も普通に歩いて行けた。
さざ波の影響を受けるのか汀は細かな真砂土だった。


こんな場所まで踏み込むのは酔狂な人物のみに思えるようで、チャレンジャーは何処にでも居る。
乾ききった真砂土の砂浜に新しい靴の跡がついていた。
釣りスポットを求めて歩き回る人々のものである


それから工事用道路が水没している先端部分まで近づいてみた。


前回より水平距離で10m以上進攻可能になっている。
しかしまだ先の方まで伸びているらしい…湖水に没しながらもアスファルト舗装の縁が先の方まで続いていた。


ここで足元のアスファルト舗装の端を詳細に撮影しようとして踏査レポートは思わぬ展開を迎えることになる。

アスファルトの上に二枚貝が見つかった。
指に対してこの位の大きさだ。こんな場所に貝など棲み付いているものだろうか…


最初、海砂に混じって運ばれた貝殻だろう…と思った。しかし念のために拾い上げてざっと近くの汀で洗った。
二枚貝の殻はぴったりくっついている。持ってみても中身が詰まった感じで、明らかにまだ生きていた。


陸に住むこのような二枚貝と言えばシジミが連想される。しかし自然の河川ならまだ分かるとして、アスファルト剥き出しなダム湖に棲むものだろうか…
何を餌にしているのだろう…

風で軽く寄せては引き返す汀を観察する。
真砂土に混じって真っ黒に変化した木の葉が沈んでいた。これが餌になっているのだろうか。


手の届く範囲で砂に埋もれかけている二枚貝を拾い集めてみた。こんな山沿いのダム湖で潮干狩りならぬ湖水干狩りができようとは…

死んで貝殻だけになっているのも混じっていると思うので、拾った分を汀で濯いだ。
驚いたことにすべてが生きていた。小さな巻き貝も生きている。つまみ上げるとニューと殻の奥に足を引っ込める元気な奴もいた。


この事態を前にしたとき私の最初の反応はこうだった:
ここってシジミ貝の宝庫じゃん!!
もしかして食べられるんだろうか…
シジミ汁が美味しくて栄養価も高い料理であることはよく知られている。買えばそれなりに根の張るものなので、干潮のときなど趣味と実益を兼ねて厚東川の干潟に繰り出してシジミを漁る人々の姿を見かける。数匹程度ならみそ汁の具にもならないが、ここには貝汁を作るにも不自由しないくらいの個体が棲んでいた。

貝掘りに来たわけではないから当然容れ物を持ってきていなかった。しかし見た目間違いなくシジミだとして、食材にするのには抵抗があった。

アスファルトの上に転がっている貝を持ち帰り
みそ汁の具材に使うってのも何だかなぁ…
ダム湖水だからそんなに水質が悪いとは言えない。しかし如何にも棲んでいる場所が悪い。かつては工事用道路として使われていたアスファルト舗装が水没し、その上に真砂土や枯れた木の葉が堆積する中に潜むシジミだ。アスファルト成分に含まれるコールタールは発ガン性物質だから、それを体内に取り込んだシジミを食するってのも…
もう一つ気になったのが、私たちがシジミ汁の具としてイメージする個体とは違った色をしていたことだった。ざっと見る限りどの個体も薄茶色の貝殻である。普通シジミと言えば黒か黒紫色の貝殻を想像する。食用にならない種ではないだろうかと思ったのだ。

まあ、今日獲って帰らなくてもすぐ居なくなることはないだろう。
週間予報では当分、雨が見込めない状況となっている。海と違って降雨がない限り「潮が満ちる」ことはないのだから、更に水位が下がれば掘りたければもっと効率的に「貝掘り」できるだろう…

水位の目安として、現在の汀に木の枝を立てておいた。
次にここへ来るようなことがあったとき水位がどの程度下がっているかを知るためだ。


こうして現地の踏査は終了して車に戻った。

アジトへ帰ってあの黄色いシジミが気になり、調べたところ大変なことが判明してしまった。
正体は紛れもなくシジミの仲間だが、お店で売られているマシジミとは違うタイワンシジミと呼ばれる亜種らしい。
「Wikipedia - タイワンシジミ」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%AF%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%82%B8%E3%83%9F
上の記事によれば店で普通売られているマシジミに比べて味は劣るものの一応は食べられるという。しかしマシジミより汚れた水でも繁殖可能であり、食用に捕獲するのは止めておいた方が良さそうだ。

しかし食べても美味しくないだけの問題ではなかった。タイワンシジミの名前から推測される通り、いわゆる外来種のシジミであった。繁殖力が極めて強く、それほどきれいでない水場でも棲みついて猛烈に数を増やす要注意外来生物種という。
単に生命力が強いばかりではなく、在来種のマシジミと交配すると全部タイワンシジミに置き換わってしまう遺伝上の特性があるようだ。こんなものが爆発的に殖えてしまったら、国産のマシジミは居なくなってしまう。そして現に駆逐されタイワンシジミに置き換わってしまった河川が相当あるらしい。

もし何匹か採取し持ち帰ったものの食べても美味しくないと知れば処分するだろう。しかし殺すのも忍びない…と思ってゴミ箱に捨てるのではなく近くの水路へ還してやったとしよう。自分は二枚貝の命を救ってやったと満足し、そしてタイワンシジミはそれ以上に喜んで放された水路に新天地を求めるだろう。それが元から水路や川に棲む在来種には深刻な脅威になり得る。

生活排水を川に垂れ流していた昭和中期は見る目もない程に汚れた河川や溜め池が多かった。そこで「故郷の川を美しく」をモットーに河川清掃など努力を払って水質改良に努めた。
そこまでは良かったが、更に別の場所で飼育して殖やした稚魚を川に放すことが頻繁に行われてきた。幼稚園児たちが先生の指導で水槽の小魚を近くの川に放流し、元気に育ってね〜♪と魚たちに手を振って別れを告げるシーンはテレビで何度も見かけただろう。かつては誰もが疑いなく環境美化に貢献する微笑ましい一幕と思われていた。そのすべてとは言えないまでも、実は環境保護とは真反対のことをやっていた可能性があったことに気付かなければならない。

タイワンシジミが丸山ダム湖で繁殖していれば、丸山用水を灌漑用水源としている田畑や河川を含めた下流域は影響を受けるのではないかと思う。
水位の低下より気になったこの外来種の繁殖に加えて、その後の踏査でもう一つ新たな別の問題に接することになったのだった。
何だかテーマ踏査を離れて社会問題の告発記事みたいになっていく気が…^^;

(「宇部丸山ダム・工事用道路【3】」へ続く)

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