宇部丸山ダム・灌漑用設備(噴水非動作期)

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現地踏査日:2010/3/3
記事公開日:2012/9/30
(「宇部丸山ダム・灌漑用設備(噴水動作期)」の続き)

前章で解説した通り、宇部丸山ダム下にある派手な噴水は行き交う人々の目を楽しませるのを第一目的にしているのではなく、灌漑用水の温度を上げるためであった。したがって灌漑用水需要のない秋口以降は動作を停止する。
勢いよく水を噴き上げない噴水設備なんて寂しい限りである。少なくとも眺めていて和める筈もないのだが、水が噴き上げないので逆に周囲の設備を観察できるという全く小さなメリットがある。また、雑草の繁茂が止まる秋口に草刈りされるので、翌年の春先前までは接近も容易だ。
用水需要期も草刈りされないので一番噴水の見応えがある時期に接近しづらいという状況になる

用水が噴き上げない時期にも写真を撮っている。私同様「噴き上げない噴水」を観たいという奇特な方にこの記事を楽しんでいただこう。

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入口の様子。
噴水の音がないので極めて静かである。また、後ろに聳える堰堤も噴水に隠されずよく見える。


バリカーの設置されている真横に工業用水の鋳鉄蓋があった。
周囲が草刈りされていない時期には分からなかった。


この桝は恐らく灌漑用水とは無関係で、1期導水路関連のものと思う。
排砂用の経路ではなかろうか

刈り取られた後の雑草も集積され片付けられるので、踏査するにも進攻が容易になるだけではなく撮影したい対象が藪に邪魔されることもない。一般的な踏査のシーズンが冬以降になる所以である。


振り返って撮影。
バリカーの内側にタイヤ痕が見えている。恐らく刈り取った草を搬出するトラックのものだろう。


写真からは外れているが、緩衝池は噴水が動作しない時期は水位がやや低下するものの干上がることはない。ここに取り残された水は翌年の春まで待機することになる。
このため噴水が動作していないときの緩衝池の水は傍目にもおどろおどろしい色を呈している。

雑草がないので噴水を造る建屋の接近も幾分容易だ。
もっとも噴水がないのでわざわざ苦労して登るメリットは殆どない…


これは初めて停止された噴水を訪れた4年前の写真である。時期は10月なので停止された直後くらいになる。
5本のノズルがあの噴水を形成していた。


これは最初に掲載している写真と同時期、3月のものである。
草が生え始めている。


去年4月下旬の写真。
まだ噴水は稼働していないのでかなり草が伸びていた。


清掃用などの目的で噴水部分に向かうフェンス門扉がある。しかしそこから入ることがあってもシーズン始めの噴水動作前の清掃くらいだろう。

灌漑用水の流出が停まっているので、国道に面した分水槽も当然空っぽになる。
なるべく溜まり水を造らないように堰板は外されていた。


堰を流れ落ちる水も停まっている。
分水槽は思ったほど深くはなかった。また、水槽の底にバルブが取り付けられていることが分かった。
排泥用だろうか…


噴水非動作期の記事は写真も記述も少ないので、灌漑用水についての成り立ちを追記しておきたい。
実は噴水の存在理由も含めて最も重要な部分なのだが…

ダム関連の本編でも書いている通り宇部丸山ダムの完成は昭和53年なので、それ以前はこの噴水をはじめとする灌漑設備は存在しなかった。厚東川ダム以降は厚東川1期導水路が整備されたので、二俣瀬村の慣行水利権を保護すべく工業用水隧道から取水し、かつての丸山溜め池に貯留していた。
しかし丸山ダム竣工により丸山溜め池が湖底に沈むこととなったので、以後は企業局の責任で丸山ダム湖から直接灌漑用水を供給するようになった(丸山用水)とされる。[1]

宇部丸山ダムは昭和50年代に造られた今となってはやや古いダムのため、灌漑用水の取り出しに選択取水機構が存在しない。ダム湖の水位にかかわらず水温の低い深層部の水が取り出される。低温の水は稲の発育に悪影響を与えるので、噴水によって大気中に晒し、なおかつ太陽光で温められるようにゆっくり流れる緩衝池を造ったのである。噴水は純粋にダム湖との高低差を利用して自噴していると思われる。噴水よりダム堰堤側にある建屋はバルブ室だろう。

宇部丸山ダムに発電所を新設する計画が発表されたとき、他のダムと同様に堰堤下へタービンを設置する形態かと思い噴水がなくなるのではと考えていた時期がある。しかし発電所は有帆ポンプ場向けの工業用水取り出し落差を回収するシステムで、丸山ダム湖の取水塔内部に設置されている。したがって今後も噴水がなくなることはまずないだろう。
1.「宇部の水道」宇部市水道局 p.75

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