宇部丸山ダム・廃取水塔【1】

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現地踏査日:2010/2/27
      2012/8/31
記事編集日:2012/10/5
丸山ダム湖は小野湖と湖底で繋がっており、両者の湛水面は常に同一レベルである。形式的にはダム湖の水を相互運用するということになっているが、実際には小野湖から丸山ダム湖へ向かう流れに限られる。ダム湖の南西に山陽小野田市の有帆ポンプ場に送水する取水口があるからだ。
この他に丸山用水の供給と薬師川の河川維持放流分があるが比率的には低い

ところが…
注水口、取水口のどちらにも関与していない第3の塔がダム湖の西側に存在する。
その塔の位置を地図に示す。


Yahoo!地図および航空映像でもその姿が明確に窺える。実際そこには注水塔と同じ規格の塔が存在することが判明している。しかし企業局謹製の工業用水経路図にはここから流出する導水路は何も書かれていない。

未だ正体が分からなかった一昨年、初めて現地を踏査したときのことは”謎の廃塔”としてローカルSNS向けに記事公開していた。
最近、図書館で借りた宇部市水道局による書籍で丸山ダムに関する記述を見つけ、この塔の正体がほぼ明らかになった。しかし当サイトでは初めての記事公開となるので順を追い、本編および次編ではまだ予備知識がなかった一昨年の段階の踏査レポートを公開する。現在分かっている状況については更に続編または別途記事で案内する予定である。

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この塔の存在を早くから認識していたのは、地図上で容易に視認できるからだった。


ダム湖を周回する管理道が存在し、野山時代には自転車で一周している。しかし管理道は何とも陰鬱で空恐ろしさを感じる寂しい道で、ゆっくり写真を撮るような状況ではなかった。
この塔に向かう分岐があるはずだが気に留めなかったらしく当時の写真は一枚もない

車でも周回できることは分かっていたので、一昨年の3月上旬のこと、 取水塔や水神社の写真を撮った後に初めて車で乗り入れた。
即ちこの分岐を右に曲がった。
直進すると私企業の管理地に向かうらしい


この先は離合も困難なほど狭くダム湖の見通しも殆ど効かない道が延々と続いた。
いずれ管理道の主要地点を追った記事を作成する予定

管理道が大きく左へカーブする内側に分岐を見つけた。
地図が正しいならここが入口だと思った。


注水口で観たのと同様の紅白に塗られた車止めが設置されている。
自転車や徒歩なら容易に先へ進めそうだ。


取水塔の撮影時みたいに軽トラおじさんが管理道を通りかかっても自分の車が邪魔にならないことを確認し、ポケットにデジカメだけ突っ込んで再び徒歩・自転車隊に変身した。
地図が正しければ、そう遠くはないだろう…
車一台程度なら通れそうな舗装路。
幅広のバリカーが設置され、車は入れないようになっていた。しかし立入禁止などの看板がないのは注水口に向かう管理道と同じだった。柵自体も割と新しい。


アスファルト路には落ち葉が散らばり、夜露か雨に濡れて貼り付いていた。
しかし廃道というほどうらぶれたイメージではない。


確かに注水口のときほど長く歩く必要はなかった。
やがて先の方に広場のような場所を見つけた。塔に向かうものと思われる桟橋らしきものが見えかかっている。いよいよ正体にまみえるとなるといつもドキドキする。


この広場の手前左手の山手に苔生したコンクリート擁壁らしきものがあった。
「ここには何か未知のものがあるはず」という気持ちをもって進攻しているので、小さなものでも見逃さず丁寧に調べた。


コンクリート擁壁はこれから向かう先にある物件とは直接関係はなく、すぐ上を通る宇部興産窒素工場に至る特高線鉄塔の基礎だった。
いずれ特高線の鉄塔もトレースするかも知れない…


さて、まず気になるのはあの桟橋らしきものだ。
この半島部分に向かう管理道はこの場所で終わっており、まるで駐車場のように広い範囲がアスファルト舗装になっていた。


ここに車が転回した形跡があった。泥の付いたタイヤで足跡を遺したらしく見た感じかなり新しい。
バリカーを外して入って来たのだろうか…


その広場の右側、桟橋の先には生い茂る木々の間から異様なものが姿を現しかけていた。
うわぁーっ…
何これ?


ダム湖に向かって水色の作業通路らしき桟橋が伸びていた。注水口で見たのとほぼ同じ規格だ。
しかし明らかに感じが違う。使われている様子がまったくない。桟橋自体が生い茂った雑木に埋もれ、鋼板のペンキは剥げちょろの錆びだらけ。そして先に見える塔らしきものも。
久し振りの廃モノ・ヒットの予感?
これはかなり予想に反する結果だった。地図で見る限り、注水口の塔と同等に見えたからだ。

管理されていないと確信させる要素が続々と見つかった。
部外者の侵入を阻止する門扉。真っ茶色に錆び付いている。手摺りは水色を保っているものの、塗装は剥げちょろだった。


通路の先を窺う。
注水塔に似た感じの塔があり、正面には錆び付いた扉ではなく取っ手のない鉄板が貼り付いていた。開口部のまま放置するのは危険なので塞いだのだろうか。


ズーム撮影。
スプレーを吹いて落書きした上から、錆び付いてしまっている。落書き自体が相当昔に成された証拠だ。
かつて入口には水色に塗装されたシャッターないしは門扉があったのだろう。今はスプレーの文字も読み取れないほど錆びが進行している。


侵入を阻止するための鉄棒が門扉に取り付けられていたものの、殆ど折り取られていた。
この錆び付き具合なら脆くなっていたのだろう。


有刺鉄線もほぼ外され、機能していない。注意すれば上を越えることは容易だし、敢えて上を跨がなくても門扉の向こう側へ下からよじ登ることも出来る位置だった。


桟橋の上部には木の枝が垂れ込めていて、塔の詳細な姿は桟橋を渡らなければ見えない。しかしまずは可能なら他の角度から見たいと思った。取水塔のときもだが、正面からでは一部しか眺められないからだ。

作業道のすぐ脇にダム湖面へ降りていく踏み跡が見つかった。
踏み跡があるということは、釣り客やキャンプに訪れた人々がダム湖面まで水を汲みに降りるのかも知れない。


かなり明確な踏み跡で、容易に湖面付近まで接近することができた。
もっともダム湖の水面は高く、迂闊には寄りつけない。


岩の突端まで歩み出て塔の方に目をやった。
そこに現れたのは、信じられないほどの荒れっぷりを晒す廃塔の姿だった。

(「宇部丸山ダム・廃取水塔【2】」へ続く)

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