宇部丸山ダム・廃取水塔【2】

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(「宇部丸山ダム・廃取水塔【1】」の続き)

釣り客がつけたと思われる自然の踏み跡をたどって汀に接近することができた。
そこで目にしたのは異様にうらぶれた取水塔の姿だった。


カメラを縦に構えて両腕を差し出して撮影。
もうこれ以上一歩も踏み出せない。


ここは川岸ではなくあくまでもダム湖の汀である。
湖水で埋められているから恐怖感を覚えないだけであって、ダム湖の水がゴッソリ無くなれば、もしかして自分は断崖絶壁の縁に立って下を覗き込んでいる状態なのかも知れない。

踏み台にしている岩のすぐ下は深緑色を保つ湖面で底はまったく見えずゾクゾク来る要素があった。


同じ位置からのパノラマ動画撮影である。
カメラを構えたまま動かすのも怖かった

[再生時間: 30秒]


塔を軽くズームする。
屋上に四角い煙突のようなコンクリート柱が見える。手すりが四方にあることから、内部に昇降用梯子があるのだろう。


開口部を塞ぐ鉄板の右横には、かつて排水管が設置されていたらしくそこだけコンクリートが日焼けせず跡となって残っていた。
側面には明かり採りの窓があったようなのだが…


窓ガラスが打ち割られている。サッシ枠にはまだガラス片が残っていた。
外側からだと何か長い棒を使わなければ無理で、内部へ侵入して割ったのだろう。


扉ではなく開口部を塞ぐための鉄板、割られた明かり採りの窓ガラス、錆び付いた桟橋…どれをとっても廃物の色を呈していた。特に窓ガラスがなければ内部へ容赦なく雨が降り込むだろう。現役の施設なら、このままの状態で放置されている筈がない。

踏み跡を戻るとき、下から作業通路を撮影した。
支障する木々の枝打ちなどは、全く行われている形跡がない。藪がおとなしい今の時期でこうだから、春先から夏場は寄り付きならないだろう。


桟橋の側面にも悪い兄チャン連中が遺したと思われるマーキングがあった。
車かUFOが逃げているような図に見える。上書きされた黒いサインはまったく意味が分からない。
むしろ仲間内にだけ分かるようなマーキングを使っているらしい…


あの位置にマーキングできたのだから、先へ進んでやろうという猛者ならこの鉄棒など回避してしまうだろう。


滅多に人が近づかないことに乗じてバイクか何かでここまで乗り付け、度胸試しも兼ねてこの門扉を乗り越え、塔まで近づいてスプレーで落書きしたものだろう。それも今から何年も前に…

現地の徒歩・自転車隊もこの先に見えるものに興味を覚えたものの、敢えてリスクを取ることをしなかった。
別にマーキング族と同じ行儀の悪いことを避けたかったからではない。立入禁止にはなっていないし、その気になれば入口の門扉を回避してあの開口部を塞ぐ鉄板の前まで進攻することはできた。
しかし恐らく鉄板を取り除いて内部には入れないだろうし、何よりも桟橋渡りを自重したのは、どの位長いこと放置されていたか分からない桟橋なら、不用意に渡れば足元の鋼板が朽ちていて踏み抜くかも知れないと感じたからだ。

何処の踏査をするにしても、絶対に無傷で事故なく帰還するのが至上命題である。桟橋もろとも落橋するなんてことは考え難いが、錆びて朽ちまくっているあの部材なら私の体重を支えきれず踏み抜いてしまう危険が予測された。何よりもリスクを取ってここを渡るメリットが感じられないので、門扉前からの撮影にとどめた。

実際、この廃塔が何のために設置されたのかを知る手がかりがもっと欲しいなら、この場所から得られる。
それは屋上に見つけることができた。


屋上に放置されているものをズーム撮影。
鋼線がグルグル巻きにされているのは、巻き上げ機だろうか。その奥には何やら計器らしきものも見えている。


巻き上げ機の存在から連想されるのは、可動ゲートである。すぐ傍にある計器らしきものも、ゲートの高さを表示するタイプの機器に似ている。しかしここには樋門が必要になるような導水路はなく、恐らくはかつて存在していた形跡もない。
可動ゲートを操作する鋼線にしては長すぎる気もする。あのドラムに巻かれている状態からすれば、流木などがダム湖上を散逸するのを防ぐ目的で仕切るネットや浮きを結わえたロープを操作する設備かも知れない。もっともこれも憶測の域を出ない。

現地ではこれ以上の情報を得られるとも思えず、引き返した。
この日は風があって異様に寒かった…お手洗いに行きたくなったのも現地の退散を促した


あの荒れっぷりからして、私もマーキング族と間違われて管理道入口のところに誰か張っているのでは…という感じがした。


ダム湖の半島に見られる、一見うち捨てられたように見える謎のコンクリート塔。
徒歩自転車隊はローカル探索隊であり、施設を荒らす青少年の悪行を啓蒙する意図はなく、危険なまま放置されている構造物の指摘も目的ではなく、まして使われず放置され荒廃していく施設に関する行政の無駄を云々する積もりもない。それよりも興味の向かうところは、
それは真に廃物となってしまったのだろうか?
一体、当初は何を目的に築造されたのだろうか?
という点にあった。

何かの遺構となってしまったように見える大きな構造物を見つけたら常にすることだが、過去のある時間にタイムスリップし、当時はどうだったかを見る手段がある。例によって、昭和49年度の国土画像情報を参照してみよう。
「国土画像情報閲覧システム - 瓜生野付近(昭和49年度)」
http://w3land.mlit.go.jp/cgi-bin/WebGIS2/WC_AirPhoto.cgi?IT=p&DT=n&PFN=CCG-74-12&PCN=C12&IDX=48
この映像によると、既にダム堰堤は完成しているもののまだ湛水されておらず、例の腰が曲がった伊勢エビ状のダム湖もない。丸山溜池を含む小さな湖沼が2つ見えるだけである。
そして廃塔のある付近を含めて、まだ取水口・注水口なども地図には見えていない。このことから廃塔とは言っても昭和50年代以降の構造物であり、比較的短い運用期間を経て現在のうち捨てられた状態に至っているようだ。

それが造られた目的、そして短期間で廃されてしまった理由…
いずれについても、丸山ダム湖を管理する厚東川工業用水道管理事務所が答を持っている筈である。何か詳しい情報が得られ次第、ここに編集追記しようと思う。詳しい情報をお持ちの方がいらっしゃれば、提供頂ければと思う次第である。

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この記事作成のために追加の写真を撮ろうと思い、先月下旬のこと久し振りに車で管理道を一周した。
踏査は以下に述べるような理由で中断を余儀なくされた。この経緯を語っておこう。
現地踏査日:2012/9/23
記事公開日:2012/10/6
低水位に乗じて取水塔の撮影に成功後、あの「第3の廃塔」の写真を撮ろうと管理道を進んだ。

以前訪れているので場所は覚えていた積もりが、季節柄周囲の藪が酷くて見落としかけた。
カーブの内側へバックで車を寄せて停めている。


廃塔に向かう管理道入口。
もの凄く荒れている。まるっきり草刈りされた形跡がなく枯れ木が倒れかかっていた。


奥の方もそう安泰には見えない。自転車ならこの場所は押し歩きでないと通れないだろう。


振り返って撮影。


道中も荒れ方が酷い。至る所倒木が管理道を塞いでいる。以前は車が乗り入れた形跡もあったのだが、この状態からして相当長いこと車の出入りはないらしい。


元々廃物件に向かっているのだから管理道の荒れは想定範囲である。しかし気持ちの良いものではない。こんな人目につかない荒れた場所にもし自分以外の誰か居たなら…などと考える。

そして実際、その通りの一番つまらない結末になってしまった。
先客の釣り客がいる。
いや、釣り客とは断定できないかも知れない。しかし釣りでなければ私のような先客かさもなければまたマーキング族か…いずれにしても私と同等かそれ以上に普通でない人々だろう。
これほど荒れた場所なので、いくら今は釣り客が目立つ時期と言えどもまさかこんな場所まで入り込んでいるとは思わなかった。第一、車が停まっていなかった。

まあ、別に釣りくらいやってもいいと思うんだが…とにかくタイミングと状況が最悪だった。
若い2人連れの男衆。そしてこういう場所ではお約束とも言えるのだが、ペットの犬を連れていた。私の接近に気付き、さっそくワン公がけたたましく吠えはじめた。その声に気付いて2人組が振り返ったという訳だ。
ダメだ、こりゃ…
ワン公がこちらに走って来る前にさっさと退散した。トラブルの元だ。
犬が追いかけてくる様子はなかった。しかし柄の悪い連中の手なずける用心棒犬なら全速力で襲いかかってくるだろう。もしそうなったら噛み付かれる前にほぼ間違いなく 蹴り殺す 成敗を加えてしまう。今度は犬と人間から人間同士の抗争になるのは避けられない…この記事が日の目を見る前に私は全身を殴打された状態でダム湖へ投げ込まれ、数ヶ月後に白骨化した遺体となって発見されるかも知れないわけで…^^;

まあとにかく藪の酷い時期でもあり、もう少し接近が容易になる寒い時期まで待ってもいいかなと思いつつ退散したのであった。

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更にそれから時間が経ち、9月末に入ってからのこと…
包括的記事を書くにあたって出典が必要となったので、図書館で上水関連の書籍を数冊借りてきた。そのうち水道局発刊による書物に、この塔の役割を指すと思われる解答が見つかった。
これは本編ではなく以下の派生記事を一読頂ければと思う。
派生記事: 大坪ダム
塔の正体がほぼ判明した上で、秋口以降の与しやすい時期を見計らって廃塔を再訪する予定である。
追加の写真が採取でき次第、記事を案内しよう。

(「宇部丸山ダム・廃取水塔【3】」へ続く)

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