宇部丸山ダム・廃取水塔【3】

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現地踏査日:2012/10/8
記事公開日:2012/11/8
(「宇部丸山ダム・廃取水塔【2】」の続き)

前章では、
> 塔の正体がほぼ判明した上で、秋口以降の与しやすい時期を見計らって廃塔を再訪する予定である。
> 追加の写真が採取でき次第、記事を案内しよう…
…などと書いたのだが、大坪ダム計画の書籍に接してからは、記事向けの最新の写真を確保するためにもすぐに現地へ訪れたい気持ちが強まった。
そこで10月上旬のこと、久し振りに車の後部座席へ自転車を積むハイブリッド方式で丸山ダムを訪れた。ダム管理道を周回し主要な場所で写真を撮る過程で、例の廃塔を訪れた…

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前回、犬を連れた2人連れの姿を見つけて退散してから2週間しか経っていない。
この日も雨とは全く無縁な晴天で、ダム湖の汀のあちこちでルアー釣りを楽しむ人々の姿が見えた。

さて、いきなり現地へ飛んで…
今回は自転車なので、柵の内側まで押し歩きした。


安い自転車とは言っても勝手に乗って行かれると踏査生命にかかわってしまう…
柵の内側まで押し歩きし、茂みに隠すように停めて施錠した。


それにしても荒廃が酷い。

初めてここを訪れたときの廃塔へ至る管理道はこんな酷い状況ではなく、アスファルト路面の両端が見えるほど草刈りされていた。それがどうだろう…夏場とは言え今や両側は藪の海、両側からは木の枝が無秩序に伸び倒木が道を塞ぐ場所さえあった。

特に荒れ方が酷かったのは入口付近で、奥は普通に歩いていくことができた。
それにしても藪の進出で道幅は狭く感じられ息苦しい。真っ当な目的で進攻する人がまず居ない場所柄、藪からイノシシでも飛び出て来るのではないかと心配だった。
それ故に前回は誰も居る筈がないと思われた場所に先客を見つけたときの驚きったらなかった

まさか…今回はルアー釣り組は居ないだろう。
背中が寒くなるような廃道で、足早に先を求めた。


お馴染みの場所にやって来るまでに誰も居ないことが確認できた。
管理道の先に廃塔へ向かう桟橋があり、道はこの広場で終わっている。


この広場の左側には何処に向かうのか分からない小道があるようにも思える。前回も気になっていたが詳しくは調べていなかった。

後で検証しよう。


初めて来たときより桟橋周囲の木々が大きく伸びており、眺めを遮っていた。


桟橋前の錆び付いた鉄扉に有刺鉄線など、初めて来たときと変わっているものは何もなかった。


桟橋の鋼板に足跡などは見つからない。前回来たルアー客も純粋に釣り目的だったようで、廃塔には向かっていなかったようだ。


なお、今回も桟橋を渡ることは当初からまったく念頭に置いていなかった。興味はもちろんあるが、どのみち塔の内部には入れない。そして立入禁止になっていないことがむしろ何よりも怖い。
近くを人が訪れるような場所なら、まず取水塔に至る桟橋前の門扉同様、有刺鉄線を巡らせて立入禁止の札を掲示するだろう。この場所の危険度は明白ながら、それすら成されていないほど人の管理の手から離れている。桟橋が渡橋に耐えられるか、手すりは朽ちていないかなど安全性を知る人は誰もいない。

しかしこれでは以前と同等の眺めしか得られないので、前回もしたように桟橋から右下へ向かう踏み跡を降りてみた。


踏み跡は極めて急で、草木の繁茂が著しく足元の地面が分からない。用心しないと一気にダム湖まで転落しそうだ。


下る途中から廃塔が正面に見えるようになる。
それにしても草木が伸びているせいで前回よりは眺めが制限された。


到達した先は岬の突端のような場所で、コンクリート吹付けが施されていた。
正面に有帆向けの取水塔が見えている。


一般に、ダム湖の深いのと浅いのとでどちらが怖く感じるかは明白だろう。
しかしこの場所は違った。初めてここを訪れたときはこんな感じでほぼ満水位だった。現在はかなり水位が下がっている。そして水位が低い今の方がずっとゾクゾクするものがある。

こんな場所なのだ。
足元から下はほぼ垂直なコンクリート吹き付けの崖。水面まで優に5m以上ある。しかも崖は水面下まだ続いているようで、一体どの位深いのやら想像もつかない。
カメラを構えるために両手を空けて立つだけでも目眩がしそうだった


この突端まで踏み跡があることから、初回記事では「釣り客やキャンプに訪れた人々がダム湖面まで水を汲みに降りるのかも知れない」と書いていたが、とんでもない…まずあり得ないだろう。こんな寂しい場所でキャンプなんて一体どんな罰ゲームなんだろう?と思ってしまう。
山歩きする人が野生動物に襲われる被害が続いてからは以前ほど道無き道を歩く度胸がなくなった

前回は水位が高かったから見えなくてむしろ気にならなかった。やはりこの場所は途方もない崖だった。
しかし浅い場所もあるようで、突端から右下には土砂の堆積した場所があった。コンクリート吹付け斜面は殆ど垂直だし高低差が大きく、ここから直接降りることは絶対に不可能。


水位が低い現在の廃塔の姿である。
動ける範囲が狭く左から伸びる松の枝は避けようがなかった


屋上には煙突のような小塔が突き出ている。庇が見えるので反対側に出入口があるのだろう。
そうなれば塔の内部には屋上へ登るための階段があるはずだ。


落書きに満ちた入口の鋼板は、仮置きしたものではなく開口部を恒久的に塞ぐ目的で設置されたらしい。
どのようにして固定されているのか分からないが、鋼板と塔の間に隙間がなく、完全に進入阻止を意図して置かれている。


桟橋の躯体やコンクリートの土台部分に変化は見られない。元から風雨に晒される部分なので、落橋するほどの危険は多分ないと思われるが…


廃塔の下部。水の跡から推測して満水位よりも3m以上は水位が下がっている。
それでもあの塔の付近は今なお少なくとも5m以上の水深があるだろう。


言葉で説明すると長く感じるが、実際には背筋がソワソワする気持ちが何とも言えず、手早く撮影してすぐに復帰した。

それから初回踏査時に詳しくみていなかった広場の先の方を調査した。
感じとしては何処か別の場所に出る管理道を造ろうとして頓挫したように思われた。


先の方でアスカーブが内側に曲がっており、舗装はそこで終わっていた。その先には獣道程度の踏み跡すらなく、当初からここで行き止まりだったようだ。


時期柄、この近辺には山栗が大量に落ちていた。
誰にも拾われることなく結実しては自然に還るプロセスを繰り返しているのだろう。
栗には変わりなく茹でればもちろん食べられる…しかし栽培用の栗に比べて小粒で甘みも少ない


水位が低いという以外廃塔は前回とまったく変わった部分はなく、新しい発見も皆無だった。
まあ、こんなものだろう…
管理道が酷く荒れている以外、初回踏査時と変わらないことだけが写真で採取された。まあ、新しい成果など期待していなかったので、大人しく来た道を引き返すことにした。

管理道を戻る途中、藪の切れ目から斜面を降りたような跡のある場所を見つけた。
釣り客が辿った跡だろうか…明らかにその部分だけ草木が押しやられていた。


斜面の下には入り江が見えており、水の色が限りなく妖しい緑色を呈していた。
降りた先に何かがあるとも思えなかったが、妙に目立つ踏み跡だけに気になった。水位が低い今であるだけに、何かルアー釣り客ですら惹き付ける物件が潜んでいるのかも知れない…

ある程度の危険が伴うのは承知で、ここから下降を試みることにした。

(「宇部丸山ダム・廃取水塔【4】」へ続く)

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