最後の集落を後にして、道は急な登り坂になる。佐波川との高低差がかなり開いたところで、最後のカーブを曲がるとそれが見えてきた。
(分岐点に車を停め一旦歩いて戻って撮影している)
車を停めた場所はダム下とダム事務所へ向かう分岐点になっていた。
ダム下へ行く道も舗装されており、車で近くまで行けそうだ。帰りに寄ってみようと思う。
既に見えているダム事務所を目指して進み、建物の手前にある来客用駐車場へ車を停めた。
まずはダムの写真を撮るべく、全体が見渡せそうな場所まで来た道を歩いて戻った。
さて、この日の踏査の流れとして、佐波川ダム関連の連載記事を公開すると宣言していながら途中で見つけた佐波川発電所や佐波川関水など、寄り道でさんざん引っ張ってきた。
これ以上読者を焦らしたら石が飛んで来そうだから、まずはダムをお見せしよう。
はい、佐波川ダム♪
被写体がダムだから当然そこへ視線が注がれるわけだが、カメラを構えたときから私の視線を奪う2つのターゲットがあった。
左岸の山の険しさと、ダム堰堤の延長上に見られる黒いモノである。
ダム堤体を渡って左岸側に、物凄く荒々しく削り取られた崖があり、六角形の何かが立っている。そして堤体の先は工事用トンネルのようなものが…
あのトンネルを通ってみたい。
だけど、通れるんだろうか。
およそトンネルらしくもない外観からして、作業用トンネルに見える。関係者以外立入禁止のように思えるし、もしそうならここから見えていながら接近すらできない。
(直近に訪れた阿武川ダムは堤体の上を渡って対岸へ行くことはできなかった)
この写真には瞬時に見つけた興味深いもう一つのモノが映っている。
私の思考(嗜好?)回路を熟知なさっている読者ならノーヒントですぐ分かるだろう。
これである。
ダム下のエプロン(流下させた水の勢いを弱め一旦溜め置くプール状の場所)の横に管理道があり、何故か山の方へ向かう分岐がある。
その入口には扉があり、まるでダム堰堤とは無関係な方へ向かっているのだ。
あそこにも行ってみたい。
監査廊にしては奇妙だ。あまりにもダム本体から離れ過ぎている。
何かの目的で設置されているんだろうけど、ちょっと推測がつかない。今回の見学会で行ければ良いのだが…
ゲートをズーム撮影。
その上に乗っかっている操作室の扉が人の背丈程度である。
放水ゲートは2基で、それほど大きな規模ではない。しかし堰堤から放水路までの高さはかなりあるし、周囲の山の険しさは我が市の厚東川ダムとは比較にならない。
(メンテナンス目的で側壁部分まで行けるようなっている…あの縁に立ったらどんな気分なんだろう…)
一連の写真を撮影後、再び車を停めたダム事務所の方へ戻った。
来客用駐車場の横がトイレである。
正面にダム事務所があるが、車を降りてすぐここまで来ていたので、ダム堰堤上を車や人が行けるかまだ確かめていなかった。
車から降りた駐車スペースのすぐ山側に慰霊碑があった。
ダム工事の殉職者だろうか。傍には新しい花が供えてあった。
来客車用の駐車スペースの横がトイレで、その間に水利使用標識が立っていた。
発電と工業用水道が水利目的として明記されている。先ほど見た佐波川発電所にあったものと同じだ。
嬉しいことに、ダム堰堤に向かう道は門扉などなく自由に通れるようになっていた。
ダム管理事務所が設置した「この先 トンネル付近落石注意」の立て札が見える…と言うことは、人はもちろん車ですらダム堰堤上を通ってもいいらしい。
(もっとも後で分かるように車では進攻しない方がいいと思う)
ダム上から眺めるのはもちろん、あの工事用っぽいトンネルにも歩いて行けそうだ。
かなりワクワクしてきた。
そういう訳で、ダム見学会でありながらまだ事務所には寄らなかった。
見学会とは言っても来訪者への個別対応なので決められた時間は特にない。自分のペースでじっくり観察し写真を撮るのなら、一人が最適だからだ。いつでも自由に観られる部分は、事務所へ立ち寄る前に時間をかけて観ておこうと思った。
(見学の後に「トンネルを歩いて通るのは危ないから止めた方が良いですよ」なんて忠告されても困るので…)
一旦事務所を通り過ぎ、ダム堰堤上を歩く。
ゲート操作室の向こうに黒々とした正方形のトンネルが見えかけている。間違いなく行けそうだ。
堰堤の縁に設置されたダム水位計。
太陽電池で駆動しているのだろうか…格納庫の上にパネルが設置してあった。
ゲート操作室はダム堰堤の縁を利用して設置され、そこで若干堰堤は屈曲している。
現に通行する車もあるようで、タイヤの跡も見えている。
操作室は両端の階段から入るようになっている。
そうでありながら、2箇所ほど意味不明な扉が設置されていた。ダム下へ転落する恐れはないが、堰堤からは上がれないし扉を開けて飛び降りるというのも…
操作室の中が気になった。
覗き見たいなら、あのコンクリート部分へ昇ってカメラを構えることはできた。
しかし現地での私はそんな妙な素振りさえ見せず、借りてきた猫のように行儀良くしていた。
これから向かおうとしているトンネルの方から、何やら談笑する声が聞こえていたからだ。
(写真でもトンネルの内部左側にうっすらと人影が見えている)
ヘルメットを装着した2人組がトンネルから出てきた。
出で立ちからしてダム事務所の人かも知れない。
単なるメンテナンス業者かも知れないが、私は恰もダムの写真を撮って各地を回っているんです的な表情と素振りを見せつつ、カメラを構えていた。
ゲートの間から真下を撮影。
うぅっ…怖い。頭から血の気が引くのを感じる。
下流側を撮影してみた。
はじめに車を停めた分岐点が見える。どこかに車止めがあるかも知れないが、右岸の管理道は舗装されており、ダムの真下まで安全に行けそうだ。
左岸側にも管理道が見えている。しかし右岸からあの気になる扉付きトンネルの入口にはどう見ても行く方法がない。
そうこうしているうちに、ヘルメットを被った二人組が私とすれ違った。
私は「ダム見学者ですか?」と呼び止められるかも知れないと身構えていた。
(トンネルを歩いて通るのが危険なら「事務所まで案内しましょう」などと間接的に制止されると思ったので)
しかしそこまで追及されることはなく、こんにちはと挨拶だけ交わした。
見たところやはりダム事務所の方らしいので、後でお世話になることだろう。
今はもうちょっと時間が欲しい。もちろん監査廊は見学させて頂くが、今は目の前にあるこいつらが気になって気になって仕方がないのだ。
これである。
正方形の坑口をしたトンネルと、何で六角柱なのか不明な鋼構造物。
凄い…
何が凄いかって言われて、この景観だ。山の”斜面”ではない。もはや垂直壁。削り取られたのかそれとも補強されたのか、まるでサッポロポテトバーベQ味のかけらみたいな模様(何ちゅう喩えだよw)の現場打ちコンクリートが垂直壁に貼り付いている。そこへぴったり寄り添うように緑色の六角柱がダム湖の中に建っている。
ダム堰堤の延長にあるのは、山腹へ突き刺さるように穿たれたトンネル。それもまるで整備されておらず、見たところ工事現場のような様相。トンネルの長さも相当ありそうだ。そのことは土被りからも分かる。トンネルの真上を写真に収めようにもアングルが取れないほど高い。
久し振りにまた萌えられる物件にまみえることが出来て、遠いのにここまで無理して来た甲斐があったと感じた。
この先はどうなっているのだろう…
私は魔力によって吸い寄せられるようにトンネルの方へ歩んでいた。(「佐波川ダム・平成23年度見学会【2】」へ続く)