佐波川ダム・平成26年度見学会【3】

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(「佐波川ダム・平成26年度見学会【2】」の続き)

天井に蛍光灯は設置されていると思うけれども多分球切れしている区間。真っ暗闇である。
足元の地面の状態が見えないのでさすがにちょっと心許ない。


もっとも真っ暗なトンネルをずんずん歩くというのは初めてのことではない。これよりもっと怖く感じた例として萩往還の鹿背隧道がある。国の登録有形文化財で車も人も自由に通れる。182mの隧道ながら現状保存を最優先しているため内部には明かりがまったくない。歩いて通り抜けたが、中央付近では目を閉じても開けても見えるものが同じという程度の暗闇を体験した。
写真は撮ってあるがまだ記事化されていない

天井に明かりが見えてくれば、その近辺の地面や壁の状態も分かる。
したがってここまでの区間の壁に何か変化があっても現状分からない。


コンクリート吹き付け部分にペイントされた33の数字。
どうやらトンネルの測点に関するもののようだ。


上流側の出口付近には37の文字が見える。
測点=10mと考えると370mの延長ということになる。そんなに長いとも思えないのだが、地理院地図でトンネル近くを表示させると明らかに200m以上ある。[1]


上流側のトンネル入口。
前回来たときと何も変わっていない。


上流側は断崖絶壁ではなく上部は地山へ斜めに入っていく形になっている。


上部に高さ制限のバーが設置されている。
ポータルはコンクリート製で、こちら側にも扁額はない。
しかし写真では何か長方形状のものが見えている…精密には調べなかった


トンネルの名称や竣工時期などを示すものが周囲にないかちょっと横へ回り込んでみた。
落石を防ぐために屋根を付けたような格好だ。


このトンネルを通らずに山裾を通る道があるかも調べたが、まるっきりなさそうだった。ダム以前はまったく道がなかったらしい。この辺りの事情は小野区一の坂にある小野隧道と同様だ。
したがって上流側からここまで徒歩でやって来た人が「真っ暗なトンネルは怖いから嫌だ」と言ってもダム管理事務所まで行ける道は他にない。
まあそれほど暗いトンネルを恐れる人ならこういう人里離れた道を歩くこと自体がもっと怖いだろう

前回もここから先へは行かずに引き返している。自転車を積んで来ていたなら上流の橋があるところまで進み、対岸を渡って戻って来るのだが…

外は暑い。ただちに引き返し再び暗闇の中のウォーカーとなる。
明かりが見える地点までもの凄く遠く思えるだろう。


実際歩けばなかなか蛍光灯のある場所へ近づかないので足早に進んだ。慣れたら大したことはないとは言えやはり真っ暗で前方の明かり以外何も見えない場所というのはちょっと身構えてしまう。

そうそう…
佐波川ダムと言えば県内の特異な心霊スポットのように考える人々が未だにあるようだ。元からダムはそういう目で見られやすいし、人里離れた山奥でもの凄い絶壁に穿たれた素堀り風トンネルを目の当たりにすれば、その手の人の反応は二つに分かれそうだ。即ち「このトンネル内からは強烈な波動を感じる」という根拠薄弱な肯定派と「自縛霊が取り憑くから歩いて通るのは避けるべきだ」という意味不明な否定派に…

一般的にこの種の科学では説明できない現象について、私は心情的にまで全面否定はしない。ポジティブな効果を与えるものならむしろ肯定する。しかし基本的にはまったく否定派だ。得てして不運とか不幸などネガティブな現象に結びつけられがちだからだ。暗闇なので足元が見えず躓いて怪我をするとか野生動物が隠れているかも知れないという現実的な警戒はすべきだが、有りもしないものがこの場所に存在するなどと真顔で語るなど私には到底出来ない。
何故できないかと言うと…「恥ずかしくてとても出来ない」

後者の現実的な危険についてはむしろ積極的に理解しておくべきであって、それ故にこの道が誰でも通れる市道であることをさておいても、足元が見えないことに起因する怪我には注意されたい。この素堀り風トンネル内で暗闇が災いして平衡感覚を失い転んで怪我をしても、それは霊のしわざではなく単純な不注意が原因だ。歩いていて寒気がした後に具合が悪くなったら、それはトンネル内が冷えていて外が暑いために急激な気温差に晒され身体が変調を起こしたからだ。

蛍光灯が等間隔で整備されている場所まで戻ってきた。
永遠に太陽の光から遮断された空間ながら、蛍光灯が当たる近くは苔が生えているように思える。


15というペイントが見えているので堰堤側から150m地点ということだろう。
この辺りからカーブがきつくなる。


蛍光灯の光が届く場所で壁面に近づいて撮影してみた。
ゴツゴツした岩肌にコンクリートを吹き付けている。表面は軽く湿潤していた。湧水があってトンネル内の湿度が高いところに地山の温度が低いからだろう。


再び洞内分岐部分。
高さも幅も本線の半分程度なので、当初から点検用の作業員通路として同時期に掘られたのだろう。


通常のトンネルなら覆工を施すものだし無造作にこのような枝トンネルは掘らない。それが問題なくできているのは、相応な地耐力のある岩盤だからだろう。ダムが造られたのは昭和30年代なので、トンネルの掘削にも現代のような優れたマシンが無かった。素朴に削岩機などを使って人力で掘り進んだのだろうか。

出口付近の天井の様子を外から入る自然光を利用して撮影してみた。
人も車も通れる公道としてのトンネルでこの仕様とは…素晴らしいではないか。


再び日の光を浴びる空間へ出てきた途端、モワッとした空気が顔に貼り付く。


前回撮ったショットでも今回からはカメラが新しい。比較対照用に主要な場所からの撮影は一通りしておいた。

ゲート真上から下流を撮影。
ダム下の佐波川は若干左へカーブしている。


真下へ向けて撮影。前回はここまではやっていなかった。
このゾワゾワ感が何ともたまらない。


ダムによって堰き止められた大原湖。
右岸寄りに小さな島があることに気付いた。


地理院地図にも記載されていたので存在自体は知っていた。
島と言うよりは単体の岩山のようである。


ここはズームの本領発揮だ。島全体がちょうど収まる倍率まで調整して撮影した。

最高地点が標高191mのこの島[1]は羽根の生えた生物のみ宿ることのできる楽園となっていた。
人工物は何もなさそうだ。


岸辺がかなり急斜面だから、水位が下がっても陸続きにはならないだろう。ダムが出来る前は小さなピークの一つだったのだろうか。

撮影しながらも足は少しずつダム管理事務所の方へ向いていた。堰堤上は日差しが強く、カメラを持って歩き回るだけでチリチリになりそうだ。
そして私の行動を先読みしているかのような視線の存在に気付いたのはその直後だった。

(「佐波川ダム・平成26年度見学会【4】」へ続く)
出典および編集追記:

1. 縮尺を100mに設定した状態でのトンネル付近の地理院地図

2. 地理院地図の表示による。

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