湯の原ダム・初回踏査【2】

インデックスに戻る

(「湯の原ダム・初回踏査【1】」の続き)

そろそろクラブへ向かう時間が近かったので、左岸にあって撮り残しになった工業用水関連の施設は次回送りにして、駐車場周辺で撮れるものだけをカメラに納めにかかった。

ダム事務所の横、駐車場のほぼ正面に案内板があった。


ダムの概要。
こういう看板類は大概文字が汚れて読めなかったり、苔や雑草に侵食されていがちだが、さすがは平成のダムは違う。しかもカラー表記だ。


ダムの断面図と諸元表。
外観は今まで見てきたものとかなり異なるが、型式は同じ重力式コンクリートダムである。監査廊も備わっている。


周辺の案内図もあった。
木屋川はゲンジボタルの飛び交う川としても古くから知られる。この案内図にも至る所にホタルのマークが描かれていた。


ダム事務所の全景。
湯の原ダムの管理だけではなく、西部利水事務所として木屋川ダムの制御や工業用水の管理なども行っているので、職員が常駐している。
だからこそ平日の今日やって来たのだ


ダム事務所の入口横に立っていた表示板。
ちょっと分かりにくいがこの地図の左上が下流側になる。事務所の裏側で木屋川の右岸に沿う道は管理道になるようだ。
私道や市道などではなく企業局が管理する道ということだろう…ここに工業用水が通っているという訳ではない


できれば河川敷へ降りて正面から撮りたかったが、階段などは見当たらなかった。
そこで若干斜めからでもダムの全景が得られるまで管理道を少し進んでみた。


減勢部分の造りが面白い。大抵のダムはゲートを過ぎた部分が一番きつい勾配で、高度を下げるにつれてカーブが緩くなり叩きコンクリート部分に摺り付けられる構造をしている。
湯の原ダムの場合は逆でカマボコ型になっている。エプロン部分に常に水が溜まっているからそれほど衝撃を受けないということだろうか。


さて、そろそろダム事務所へ寄ろう。ダム来訪者だけが手にすることのできるあのアイテムを頂きに上がらなければなるまい。平日の今日、時間を割いて湯の原ダムを訪れた一つの理由でもあった。

全国の主要なダムの写真や諸元を一つにまとめた”ダムカード”なるものが作られており、現地を訪れた見学者に無料で配られている。湯の原ダムは今のところ最も近い場所にある配布対象ダムなのだった。

「Wikipedia - ダムカード」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%80%E3%83%A0%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%89
当初は県営ダムは対象でなかったので、厚東川ダムや今富ダムにはダムカードはまだない。しかし思いの外好評なせいか、県営ダムでも製作・配布を開始する動きがある。そしてこのほど湯の原ダムでもダムカードを作成し、配布を開始したというニュースを入手していた。
「山口県/企業局総務課/湯の原ダムのダムカードを作成しました。」
http://www.pref.yamaguchi.lg.jp/cms/a40100/topic/20090608001.html
現在のところ、別にダムカードを持っているから何かの特典が与えられるというわけではない。純粋なコレクションとして楽しむアイテムである。しかし容易に入手できるとなるとプレミアム性は薄れるので、現地へ足を運んだ人に限定して一枚だけ配られる決まり事になっている。郵送で取り寄せることはできないし、当然販売もされていない。
ただし2回以上訪れて重複してしまったカードを交換するなんて人はあるかも知れない
このため、ダムカードは「現地まで見学に行った証」としての価値があり、それだけでダム好きな方には充分だ。役所がカネをかけて行うイベントなどは大抵が無駄遣いと批判されがちなのだが、なかなか面白い企画を考えたものである。
本気になってコレクションを考えるのは子供よりむしろ大人かも知れない

さて、平日の午後1時なので当然事務所は職員が仕事をしていた。まあ、自分は仕事の形態から平日の昼間でも来ることができるのだが、皆が仕事をしている中にツカツカと入って”ダムカード下さい”って言うのも気が引けると感じていたら…たまたま玄関に出てきた職員に声を掛けられた。
「いらっしゃいませ♪」
何だかお店みたいなノリだなーと思ってちょっと気がラクになり、そこで単刀直入にダムカードの件を伝えた。
配布を開始したばかりだから職員には一通り周知されていたようで、詳しい説明をする必要もなくすぐ別の担当者に伝えられ、隣の応接室らしき部屋に通された。

「こちらにお名前とどちらの方面からお越しかお書きいただけますか。」
配布実績の統計をとるためだろうか、いつ誰に払い出したか管理しているようだ。
氏名はそのままを書いたが、住所はキッチリと書く必要はなく、市町村までの表記で良いですと言われた。それらの記入と引き換えに、ダムカードを一枚だけ頂いた。

話には聞いていたが、湯の原ダムが初めて手にしたダムカードとなった。
それは紙製で、容易には折れ曲がらないように表裏がラミネート加工されていた。サイズは銀行や郵便局などで使うカードとほぼ同じだ。

私みたいな感じで貰いに来る人ってどの位居るものか尋ねてみた。
「ダムカードって結構もらいに来る人多いんですか?」
「そうですね。今まで数百枚配布しています。そのうちの半分くらいは小学校の社会見学ですね。一般の方向けでは100枚程度払い出しています。」
さすがに一般人はそう多くないらしい。現地へ行かなければ貰えない上に、湯の原ダムの場合は西部利水事務所が窓口なので平日の職員が勤務している時間帯でなければならず、難易度が高い。
土日や時間外に宿直が常駐しているかどうか分からない…居たとしてダムカード配布に応じてもらえるかは不明

年金生活者でもない私が平日にカメラ持ってのんびりと写真を撮って回っているので、担当者もちょっと不思議に思っただろう。私は平日でも時間の融通が利く仕事をしていて、ダムや工業用水に興味があり写真を撮ってはブログで記事を書いていると話した。
そろそろ行かないといけない時間かな…という頃合だったが、私がダムや導水路などの話を持ち出したものだから担当者も感心されたのだろう。こう言われた。


「あれでしたら、工業用水の制御室をお見せしましょうか?」
時間がそんなにないのに、殆ど反射的にハイと即答してしまった。時間はない…確かにないけど、まあこの後のスケジュールも遊びだし、絶対に遅れてはマズイものでもないし…普段、容易には観られないものが見学できるのはそれほど価値あることだった。

コントロール室は事務所の2階にあり、玄関で靴を脱いでスリッパに履き替えた。制御室の見学は特別扱いではなく、一般の方でも希望があれば担当者付随で見学できるようだった。

広い部屋には机と椅子はあるものの、無人で運転されていた。壁側にはコントロールパネルが嵌め込まれており、現在の数値が赤々と灯っていた。
担当者の話を静聴していたので、写真を撮る余裕もなかった…だけどこれだけは撮影して持ち帰りたいと思ったものを数枚…

コントロールパネルのメイン表示部分。 真上から見た平面図を元に、ゲートの状態や取水量などがデジタル表示されている。赤いランプは開放、緑色のランプは閉じられていることを示すらしい。
数値や文字が読みやすいように原典画像を掲載している…以下同様拡大対象画像です。
画像にマウスをかざすと拡大、ダブルクリックで最大化します。
クリックすれば元のサイズに戻ります。


コントロールパネルの左端部分。木屋川送水路の途中に何ヶ所かある分水槽の水位から流量からすべてリアルタイムでデータ採取したものが送られ表示されている。大口需要先への給水量も細かく表示されていた。拡大対象画像です。
画像にマウスをかざすと拡大、ダブルクリックで最大化します。
クリックすれば元のサイズに戻ります。

「ゲートの開閉や工業用水の送水量コントロールなど、基本的にすべての制御がここから可能です。」
パネルの上部には、工業用水の経路が分かりやすく地図に描かれていた。子供の社会見学向けを意識してイラストが多用されているが、サイフォンや分水槽など明確に記載されていて、充分に一般向けな内容だ。拡大対象画像です。
画像にマウスをかざすと拡大、ダブルクリックで最大化します。
クリックすれば元のサイズに戻ります。


イラスト地図で記載されているのは2期送水路である。戦前から1期送水路が存在していたものの水需要の高まりと老朽化対策として新たに2期送水路を設置し二条化運用しているという話を伺うことが出来た。

宇部では小野湖の水だけでは足りなくなり、宇部丸山ダムを造って小野湖の実質的な拡幅をはかって対応した。湯の原ダムでは発電を終えた木屋川ダムの水を溜め置いて工業用水を確保している。この辺の事情と工業用水の二条化運用について、厚東川工業用水道と非常に似通った背景があると感じられた。

厚東川工業用水道にも当てはまると思われる、些かマニアックな質問をいくつかさせて頂いた。
「工業用水の取水口は木屋川の左岸にありますが、供給を受ける工業群は右岸にあります。どうやって川を渡しているのですか?」
「サイフォン構造により川の下を通しています。」
「すべて自然流下なんですか?」
「そうですが、王喜地区にある工場への供給だけは標高の関係上ポンプアップしています。」
私はこの自然流下について俄に信じ難かった。湯の原ダムの取水口付近で20m程度のエレベーションである。途中3ヶ所ものサイフォンを経て自然流下で長府浄水場まで到達できるものだろうかと感じた。

「サイフォンが何ヶ所かあるようですが、自然流下だと低い箇所に砂塵が溜まると思います。どうやって排除しているのですか?送水を停止して吐き出すのですか?」
「基本的に工業用水を停めることはありません。サイフォンが設置されている場所には、必ずその低い場所に排泥桝があって、開栓することで泥を排出できる構造になっています。」

「サイフォンや分水槽以外でも時折道路などに鋼板の蓋らしきものを見かけますが…」
「メンテナンス用の人孔です。全線に数十箇所存在していて、うちでは人孔ごとにアルファベットを振って管理しています。」
厚東川1期や2期導水路でも点検用の桝蓋や人孔がいくつかあって、白いペイントで数字が記載されている。場所を特定し管理するのに必要なのだろう。

残念ながら、そろそろ本当に行かなければならない時間になってしまった。

制御室から1階の事務所へ降りる階段の壁にも写真が展示されていた。そのうちのいくつかはかなり驚嘆すべき貴重な資料だった。

工業用水の補修前後の状況を撮影した写真があった。元々はコンクリート導水路だったものを、内側に鋼板を貼り付けて補修したようだ。
このあたりの補修手法も厚東川1期と重ね合わせられる
コの字に折り曲げられた青い鋼板が見受けられる。一定のスパンずつ製作して隧道内に搬入し、手作業で貼り付けたのだろうか…途方もない作業だ。拡大対象画像です。
画像にマウスをかざすと拡大、ダブルクリックで最大化します。
クリックすれば元のサイズに戻ります。


昭和の初期、湯の原から工業用水が施工された当時の貴重な映像。
アーチ形のコンクリート台座を施工し流路とレベルを確定し、その上に送水隧道を拵える構造など、これも厚東川1期の導水路が重ね合わされる。拡大対象画像です。
画像にマウスをかざすと拡大、ダブルクリックで最大化します。
クリックすれば元のサイズに戻ります。


隧道の坑口も興味深い。丸太を立てただけの簡素な支保工が時代を物語っている。土被りのある区間の隧道はそのまま山岳工法で掘削されたようだ。

平成時代に入り、湯の原ダムが建設されている様子を上空から撮影した写真も展示されていた。
カメラを構える私自身や非常灯が写り込んでちょっと見辛いかも…拡大対象画像です。
画像にマウスをかざすと拡大、ダブルクリックで最大化します。
クリックすれば元のサイズに戻ります。


上流には前身と思われる旧湯の原取水堰堤が見えている。現在は堰堤など全く見えないからすべて撤去されたのだろうか…

担当者は木屋川ダムへの訪問も勧めた。
「お時間があれば、ぜひ木屋川ダムも訪問してみてください。あそこでもダムカードの配布を行っておりますので。」
7月中旬頃には見学者のために一部の施設の開放を行うらしい。普段は目にすることの出来ない発電所など内部の設備群を見学できるとか…

「今日お話し頂いたことや撮影した写真をブログに載せて良いですか?」
「どうぞ。記事を楽しみにしております。」
こうしてダムカードと関連パンフレット、そして”西部利水事務所 事業概要”なる、これまた恐ろしく専門的かつマニアックな諸元表をお土産に、私はダム事務所を後にした。
クラブには数十分も遅刻してしまった…sweat


ホームに戻る