長門峡発電所・生雲ダム注水口【1】

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現地踏査日:2011/11/13
記事公開日:2011/11/29
(「長門峡発電所・榎谷取入口【4】」の続き)

生雲ダムの駐車場に車を停め、暫し周囲を撮影した後、ダム堰堤に向かったときのことだった。
そこには私にとって予想外の光景が対岸に見えていた。


あっ!!
これは…


対岸の一角にダム湖の水が波立っている場所があった。護岸が切れていることから、流れ着いた水がかなりの勢いで注ぎ込まれているようだ。この音はダム管理所前を歩いていた時から聞こえていた。

ここへ来る前に榎谷取入口を訪れていたから、その正体が何であるかすぐ理解できた。そして一人納得した。
こういうことになっていたのか…
間違いなく榎谷取入口から導かれた阿武川の水が到達する出口だ。導水路から直接、生雲ダムの調整池に流れ込んでいたのであった。
後から考えれば十分有り得る状況だったのだが、現物を目にするまで私は全く別の構造に基づくこんな疑問を抱いていた:
榎谷取入口から続いている導水路は、
どのように生雲ダム堰堤を渡っているのだろう?
当初、私は榎谷取入口からの導水路は生雲ダムの調整池を直接経由せず、ダム堰堤を通って長門峡発電所に向かっていると予想していた。

国土地理院の地図によれば、この導水路は榎谷取入口を経て山中に入り、恐らくは一本の隧道で生雲ダムの左岸に到達する。しかし発電目的に関して言えば生雲ダムは単なる中継点に過ぎず、導水路は右岸より再び山中に潜って長門峡発電所に向かう。
地図では暗渠を示す水色の点線は生雲ダム堰堤の両岸に接続するよう描かれている。そのためダム堰堤を利用して右岸に渡っているように見える。


ダム堰堤上を通すなんて普通は考えもしないのだが、そう予想されるだけの理由があった。

この導水路は発電用だから、全経路は高低差のみで自然流下している。地図から読み取れば榎谷取入口の標高は約240m、生雲ダムの堰堤が約230m、長門峡発電所のサージタンク付近が220mとなっている。
高低差は発電効率に影響するから、導水路は自然流下できる範囲でなるべく高度を保ったまま通すだろう。しかしダム堰堤が230mなら調整池の水面は更に低いので、導水路を出た水は滝のように注ぎ込まれる形で位置エネルギーを失うことになる。
もしダム堰堤に導水部分を造って右岸へ渡せば、調整池の水位に関係なく一定の高度を保つことができる。生雲川から供給される水で調整池の水位が高くなった時には導水路に流れ込む構造になっているのでは…と予想したのだ。

しかし目に見える形での注水口がある以上、どうやらダム堰堤を利用して発電用水が通されているわけではないらしい。

一体、どんな構造になっているのだろう。
何故あんな派手な水音を立てているのだろう。
ダム本体を観察する過程で、対岸へ渡って偵察してくることにした。

全く有り難いことに、ダム堰堤上は立入禁止にはなっていなかった。
安泰に左岸へ渡れそうだ。


対岸付近から眺めた。
注水部付近の真上までフェンスが設置されているので、隧道になっているのは間違いない。


余水吐の橋部分が左岸へ接続する場所から隧道の真上に向かう階段があった。
赤い0の標示が何を意味するか分からない


当然その扉の内側は立入禁止になっていた。フェンス門扉の上部に設置された鉄の刺が侵入阻止の本気度を示している。


門扉の厳重さに反して、そこから伸びるフェンスは有刺鉄線なしの標準タイプだった。

何しろこんな山奥である。別荘のような管理所があろうがそこには誰も常駐している可能性はない。
しかしそんな後ろめたい行動に訴える必要はなかった。隧道の方に向かって伸びるフェンスの裏側は歩いて行ける程度の余地があったからだ。


接近するにしたがって注水音が大きくなる。

注水口に到達した。
例によってフェンスの網目にレンズを押し込んでの撮影なのでアングルの自由度が少ない
ハッキリとは見えないが、導水路の流下水面より湖面の方が数十センチ低い。調整池の湛水量が減っているいるということだろうか。


注水口と調整池の汀の接点をズーム撮影。
相当な勢いで流れ込んでいる。


隧道の真上に移動した。
足元はフェンスの網目、左右そして上方も周囲の木々に阻まれて思うように撮影できない。


連続的に撮影した方が分かりやすいだろう。
この場所からの動画撮影もやっておいた。
[再生時間: 22秒]


詳細な撮影はできなかったが、隧道の真上は平場になっていて何も目立った設備などはなかった。
どうしても…となれば隧道の真上に立つことは出来そうだった。しかしいくら監視の目が有り得ないこの場所だろうが危険なことをする気が起きなかった。
導水路の吐口は、水の吸い込まれる呑口よりは危険度は低い。しかし調整池に吐き出される水流は物凄い勢いだった。仮にも転落すれば、大人でも調整池の中央まで送り出されてしまうだろう…

フェンスの外側が妙に空いている理由が分かった。
ここでフェンスを離れて斜面を登っていく踏み跡を見つけたのだ。地図にあった左岸からダム堰堤へ降りるあの道だろう。
車で到達できる道があるか確認しようとも思ったが、あまりにも鬱蒼としていたので自重して引き返した。


さて、戻ろうか。
先の斜面へ向かう踏み跡以外何処にも道はない…ダム下へ降りる道もなかった


予想に反して阿武川から導かれた発電用水は直接調整池に注水されていた。そうとなれば、調整池から長門峡発電所に向かって出て行く取水口がある筈だ。

地図表記が正しいなら、取水口はダム堰堤のすぐ傍にあるだろう。そして実際私が最初にダム堰堤へ向かうより先にその存在に気付いていたのだった。

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時系列では「長門峡発電所・生雲ダム取水口」へ続きます。注水口の記事としては後続のリンクを参照してください。

(「長門峡発電所・生雲ダム注水口【2】」へ続く)

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