長門峡発電所・生雲ダム注水口【2】

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(「長門峡発電所・生雲ダム取水口」の続き)

対岸に渡ることはできたし、坑口の真上に立つこともできた。しかし現地はフェンスで囲まれ立入禁止になっていたので、注水口の詳細は分からなかった。

少しでも近くで坑口が見えそうな場所へ移動し眺めてみた。坑口は調整池の上流側に向かって開いているので、ダム堰堤上からではよく見えなかった。
しかし残念ながらこの場所でもそう変わりはなかった。


ズーム撮影。注水口を撮影した写真のうち、これが最も坑口に近い場所から全体像を鮮明に捉えている一枚だ。
開渠の袖壁に大きめの木が生えている…倒木が乗っているだけかも知れない拡大対象画像です。
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坑口は観られないものだろうか。
そう思って一旦ダム堰堤を離れ、来るとき通ったアスファルトの道まで出てみた。
△の中に0が書かれた標示板がここにもある…河川の距離標だろうか

ここもダメだ…
まだ袖壁に遮られて坑口が見えない。もっと上流に歩く必要がある。

正面から眺めようとすれば、どうしても注水口から離れてしまう。漸く少しは見える場所までやってきたが、かなり遠い。


ここからズームしてみた。


どうしても手前の木々にピントを持って行かれてしまい、ハッキリとは映らない。
写真を観る限り、通常の隧道らしく上部がアーチ構造になっている。流量は隧道の断面積に対してかなり少ない。精々深さ20cm程度ではなかろうか。


もう一ヶ所、ややダム管理所に戻った場所で繋がった浮きを岸辺からワイヤーで引っ張っている場所があった。


木々の繁茂が酷い上に、足元がとっても覚束ない。巻き上げ機のある台座は大丈夫として、何処までが地山か分からず不用意に護岸へ寄れば調整池へ転落しかねなかった。
視座を下げ木の枝をかき分けるようにズームして漸く撮影できた。


アーチ型の隧道ポータルに扁額は見当たらない。流下する水深は精々数十センチで、隧道内の大半は空気で満たされているようだ。
調整池の水位が上昇すれば、坑口の下半分までは流水に隠されるだろう。しかし(護岸の水の跡や苔の生え具合から推測する限り)天井部まで水没することはなさそうだ。


あと、坑口の天井中央に何やら細いパイプが引き込まれているのが見える。電源線と思われるのだが、何のために必要なのか分からない。この隧道内に作業員が入ってメンテナンスする際の照明用だろうか。

かくして、私が当初抱いていた予想に反して榎谷取入口に始まる導水路は生雲ダムの堰堤を通るのではなく一旦調整池へ注ぎ込み、そこから再度取水口を経て長門峡発電所に向かっていることが明らかになった。しかも注水口では位置エネルギーのロスを伴う形で、調整池の水面を泡立てるほどの勢いで注がれていたのだった。

この状況は、もしかすると先行公開された生雲ダムの序章記事で冒頭に掲載した航空映像をご覧になって気付いた読者があるかも知れない。

これは生雲ダムの上空からの航空映像を可能な限り拡大表示させたものである。


赤い十字でポイントされている場所で生雲ダムの調整池が妙に白っぽく筋を引いている。私がそのことに気付いたのは、現地を訪れる前日、念のために航空映像を確認したときだった。[1]

もっとも当初の私は、これが注水口だとは予測できなかった。黒っぽく見える部分が注水口の開渠部分だが、私は調整池の水質を保つ曝気室だろうと思っていた。
航空映像の縮尺によれば、白い筋は20mくらい程度にわたって調整池の水面に伸びていることになる。自然流下する導水路がそんなに勢いよく注水している筈がないと考えていたのだ。
単なる地図の焼き付けに伴う部分的な白抜けではないかとすら考えた

今やこの白い筋が何であるかは、まさに読者も同意するところだろう。
航空映像は、
私が現地を訪れる前に
答を提示していた。
調整池の水位が上がれば、この注水口はそんなに勢いよくは流れ込まないだろう。しかしYahoo!航空映像でも相当長い白帯として写し出されているということは、意外にこれが標準的な状態なのかも知れない。

拡大した国土地理院の地図に詳細を描き込んでみた。


この図のように、注水口は生雲ダム堰堤に接しているのではなく、20m程度離れている。他方、長門峡発電所に向かう取水口はダム堰堤に接している。
ダム堰堤上は歩いての往来が可能で、山歩きを嗜む人々を含めて一般に開放されている。

これだけ調べればもう充分だろう。

少なくとも私にとってはこの衝撃的な映像を得られただけで充分に非日常を味わうことができた:
生雲ダムの注水口には、確かに
勢いよく注水される導水路の出口があった。


関係者か、現地へ行った者しか知り得ない光景がそこにはあった。
私の些末な驚きと発見をよそに、今のこの瞬間も導水路は人里離れた調整池に音を立てて発電用水を注ぎ込み続けているだろう…
出典および編集追記:

1. 2013年12月上旬にYahoo!航空映像が近年撮影のものに差し替えられたため、現在では流水が注ぎ込んでいる映像はみられなくなっている。

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