佐波川発電所・初回踏査

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現地踏査日:2011/7/27
記事編集日:2014/7/25
時は7月27日、平日の水曜日である。
この7月下旬から「森と湖に親しむ旬間」と称されるダム・水力発電所の一般見学会が始まっていた。日頃観られないダム監査廊などが公開されるとあって、私は土日休みを利用して県内各地のダムを訪れる計画をたてていた。

ダムによって開催期間が異なり、それらをできるだけ多く巡回しようとすれば、土日休みだけでは補えなかった。この頃は正直言って昼間の仕事が殺人的に忙しくテーマ踏査どころではない状況だったが、県東部に集中するダムを分割して見て回るにはどうしても土日以外の一日が必要で、この日は前々から休みを申請していた。
こうして27日に佐波川ダム川上ダムを見学し、週末の土日に再度周南市方面を訪れて菅野ダム徳山発電所を観るスケジュールを立てていた。

佐波川ダムへの訪問はもちろん初めてで、不慣れな道で迷わないように経路を手帳にメモしていた。この日は天気がとても良く、目的地までは遠かったが久し振りに平日の昼間から自分の趣味絡みで車を走らせ、思い切り解放感を味わえた。

最初の訪問地となる佐波川ダムに向かうべく防府で国道2号を外れて佐波川に沿って遡行する。うんざりするほど退屈な県道をひた走り、漸く手帳に書かれていた地名が現れてきた。[1]
ここは佐波川ダムへ向かう分岐点である。
既に分岐点へ車を乗り入れここまで歩いてきて撮影している


ダム見学会の幟が立っている。そこには佐波川関水の案内板もあった。


佐波川関水の位置は地図に載っていたしそれが何であるかは検索でヒットする個別ページで知っていた。佐波川ダムの途中にあるらしいので寄ってみようと思った。

再び車に乗り込み、屋敷バス停の前を通り過ぎるとき、前方に思いがけないものを目撃した。

あっ、あれは…!!


これは撮っておかねば…と思って再びバス停へ停まって車を降りた。

正面に見える山腹の中ほどに、円筒形のコンクリート構造物が見える。
これは間違いなくあれだ。


ハッキリとは見えないが、サージタンクの下部から斜面を駆け下りる水圧鉄管と思しきものも見えかけている。

こんなところに導水式の水力発電所があった?
聞いてないよ。
それらしきものが見える場所をYahoo!地図でポイントしてみた。


地方の山間部なため、あいにくYahoo!地図ではこれ以上拡大ズームができない。私が当初立ち寄ることに決めていた佐波川関水と佐波川ダムは表示されているが、佐波川関水のすぐ近くにあると思われるあの構造物は把握できていなかった。実際、上に示したYahoo!地図にも発電所の記載はされていない。[2]
位置的にはこの坂を下って左に曲がった先になりそうだ。

佐波川を渡る場所まで来ると、あまりに山腹へ近寄り過ぎているために水圧鉄管やサージタンクは一旦見えなくなった。何処か近いところに車を停めて眺めたいと思った。

やがてかなり険しい山沿いに直方体の建て家が貼り付く場所にさしかかった。発電所の排水口が道を斜めに横切っており、そこは道路幅が若干広くなっていたのでそこに留め置いた。


車を降り、まずは道路から見えながら一旦通り過ぎた排水口まで歩いて戻った。

排水路は先方に見える発電建て屋から伸びていて、この場所で道路がその上を横切っていた。


発電建て屋は異常に切り立った崖の真下に造られているように見える。普通のオフィスなら、他にいくらも土地はあろうものをわざわざ危険な場所を選んで建てる愚を犯しているも同然だ。導水式の発電所という設備の性格上、この場所でなければならないのだ。

フェンス越しに撮影。
かなりの勢いで流れている。佐々並発電所や長門峡発電所で見たような排出口とは異なり、隧道らしきイメージを感じさせないいびつな造りだ。


排水口の真上にはポンプ室のような小さな建て屋があった。
排出量を計測しているのだろうか。

その建て屋に正対して、お馴染みの水利使用標識があった。
記載によれば、発電所は企業局の所有らしい。


この水がどこから導かれているかは、現地を踏査した時点では正確には分からなかった。ただ、水系が佐波川となっているので、これから訪れることになる佐波川ダムから導いているのだろうという想像のみだった。

発電建て屋の方に近づく。
無人化されているのは今やどこの発電所も共通だが、ここに限って言えば門扉を観ただけで殆ど人の訪れることがないと推測された。


敷地内は見るからに植物の楽園状態で、イブキが我が物顔に生い茂って内部の様子を覆い隠している。一部の植物はフェンスの網目から外へ顔を出している有様だ。手入れする人が居ないのだろう。
門扉の手前には厚手の堰板が置かれている。道路側から雨水が流れ込むのを防ぐためだろうか。

山口県佐波川發電所の文字が見える。
門柱に対して小さめの表札であり、何の施設か一般にあまりアピールしたくない感じにも思える。
こういう施設も含めて一般見学の対象にして欲しかった…


発電建て屋に隣接して変圧器などの機器が置かれた敷地があり、例の電気音を周囲に撒き散らしていた。
水圧鉄管は、建物の真後ろに隠れていた。


ズーム撮影する。
水利関係の鋼製構造物は何でも水色で塗るのが企業局スタイルである。しかし表面は剥げているのか苔に覆われているのか、酷く変色しているように思われた。


水圧鉄管の上部に控えるサージタンク。
かなり高い。地表に現れている部分だけでも10m以上あるだろうし、直径は目測でも7〜8mありそうだ。
点検用の梯子が側面に取り付けてあり、上部も転落防止柵が設置されている。


あれほどの水を排出しているのだから設備自体は当然稼働中で、独特の電気音を発散していた。


”運転中”という札が見える。
電気というものは目に見えないから、傍目には様々な機器が置かれているだけのように見える。しかしあの札が手に取れるまでの至近距離に近づけば、当然の結果が起こってしまうのだろう。


ウロウロと歩き回ったものの、水圧鉄管が発電建て屋の真後ろにあるためにハッキリと見えない。
簡単に近づける経路があれば、接近したいと思った。

佐波川ダムへ向かう折りに立ち寄ることにしていた佐波川関水は、この発電所のすぐ先だった。
踏査はもう少し時間がかかりそうだし車から次第に離れてしまうので、一旦車を関水の駐車場に移動した。


機器の置かれている敷地から少し上流側は、その気になれば取り付けそうな斜面になっていた。
幸い、この最近周囲の草刈りをしたようでフェンスの外側は地山が見えるほど下刈りされていた。足元は悪そうだが、これを伝って近くまで行けるかも知れない。


フェンスの網目を手がかりに、斜面を登り始めた。
送電鉄塔がすぐ近くに見えるまで地山を登ってきた。フェンスから手を伸ばせば碍子まで届きそうな位置である。


変電施設の敷地背面は擁壁になっていて、フェンスもそこで折り返していた。
元からメンテナンス目的でも踏み込むような場所ではないので、ここから先は酷い藪で一歩も踏み出せなかった。


フェンスの網目越しにズームしている。
水圧鉄管の上を跨ぐコンクリート橋が見える。しかしあの場所まで行ける方法がまったくない。


あの橋の上に立てるなら、壮大な水圧鉄管の様相を確認できるだろう。
しかし管理道なら発電建て屋から伸びているだろうし、そもそも管理道ではなく沢の水を渡す水路橋かも知れない。
同様の水路橋は”水色の大蛇”でも観測される

佐々並発電所や長門峡発電所でもサージタンクや水圧鉄管に近づくことは一切できなかった。水圧鉄管はともかく、上部の開放されたサージタンクは確かに危険な構造物である。部外者が軽い気持ちで立ち寄れなくなっているのは当然だろう。

敷地を見下ろす。
酔狂な探索者の撮影をよそに、自動化された設備は黙々と産出された電気エネルギーを送り続けていた。


ここにあることが当初から分かっていた物件ではなく、たまたま通りがかって見つけた水力発電所である。多くを望まず、無理もせずここまでの撮影を終えた後は素直に車へ戻った。

次は佐波川関水だ。しかしあまりに暑いので一旦車に乗り込んでエアコンのスイッチを入れて涼んだ。
時系列的に続きの記事として案内する

(「佐波川関水」へ続く)
出典および編集追記:

* 記事内容は概ねそのままで掲載されている写真の解像度を若干上げている。

1. 佐波川の上流というイメージから防府まで出てそこから県道を通っていた。しかし実際には山口市内を経由して仁保から県道を通った方が早い。

2. 国土地理院の地図では発電所および導水管の表記が見える。アジトを出る前にYahoo!地図でのみ確認して国土地理院の地図を見ていなかった。

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