佐波川発電所・第二次踏査【2】

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(「佐波川発電所・第二次踏査【1】」の続き)

古い灌漑用水路は水圧鉄管が据えられた斜路の上を跨いで設置されていた。
原形は保っていたものの内部には土砂が溜まり草が生えていて殆ど使われているようには見えない。


この下流側にポンプアップした発電終了後の用水を汲み上げていることから、ダムや発電所以前にはこの近辺の斜面を用水路が通っていたものと思われる。
現在のように発電終了後の水を供給するなら、ポンプ所から上流側の水路部分は本来不要である。水圧鉄管の上を跨ぐこの水路橋も灌漑用としては必要なかっただろう。使われなくなるかも知れないのを承知でコンクリート擁壁上部に水路橋を設置したのは、更に上流側にかつてこの用水路の水を必要とする田があったか、沢地に集まる水の排水目的だろう。

さて、まずはターゲットの水圧鉄管を撮影。
堀割の両側は古めかしいコンクリート壁で、底部には点検用の階段と索道らしきものが見られる。


橋の中央から撮影。両側から樹木が垂れ掛かっているためにサージタンクが完全な形では姿を現さなかった。
堀割の深さは5m程度あって橋やその近辺から降りられる場所はさすがになかった。


斜路の片側は適宜草刈りされているように見える。写真だけだと擁壁の上を伝ってサージタンクの下まで歩いて行けそうに見えるだろう。実際はとてもそうはいかないきつい勾配だ。

背後に控える発電建屋。発電機の動作で熱がこもってしまうからか、窓には換気扇が設置され温風を吹き出していた。別にやましい行動を取る気などさらさら無いのだがどうにもここからの視線が気になってしまう。誰も居る筈がないと分かっていながら建屋の窓ガラスがガラッと開き、冷静に「あの…そこ危ないですから退出して下さい」と言わそうな気がするのだった。
仮に職員が居たとしたら警告はないかも知れないにしろ監視はされるだろう…


水路は変圧設備の上側、落石防止柵の内側を伸びていた。変圧設備群を仕切る擁壁の上部に柵はなかった。
水路はこの先に見えるフェンス門扉の下をくぐっているのかも…


ネズミ返しの柵がないため、物理的には更に水路を辿って変圧設備側の真上まで接近することは可能だった。しかしさすがにそこまではやらなかった。あまりに危険過ぎる。柵がないので転落したらアウトだ。管理区域内から出られなくなるし、まして擁壁のすぐ真下まで高電圧を孕んでいる柱状碍子が並んでいたからだ。不用意に接近すれば生命にかかわる変圧設備の敷地は有刺鉄線付きのフェンスで囲まれるのが普通だから、この水路の先が既に管理区域内と考えるべきと思った。進攻したところでその先には初回踏査でフェンス越しに覗いたあの場所の反対側で足止めになるだけだし、滅多に車が通らないとは言っても道路から丸見えなので自重した。
それにしても送電線の経路名プレートはズーム撮影しておけば良かった

水路橋から建屋側の真下を撮影する。
発電建屋へ水圧鉄管が突き刺さっていた。灰色のシャッターがある内側に発電機が据えられている筈だ。


水路橋の上から動画撮影している。狭い場所でのカメラ操作なので見づらいがご容赦頂きたい。[1]
バランスを崩して水路橋から落っこちそうでカメラを構えたまま大きな動作を取れなかった

[再生時間: 38秒]


遠慮がちに水路橋を少し渡って対岸側から撮影。
直径は1.5m程度だろうか。間上よりは大きく徳山導水路よりは小さい。流下音は聞こえなかった。


ダムが近いので水圧鉄管全体の落差はそれほどない。有効落差は精々40m程度だろうか。


角度が分かりやすいようにカメラを水平に保ち撮影している。
45度勾配より若干きつい。この勾配を見れば階段がなく歩けるようになっていない擁壁の上を伝って登るなんて考えが如何に無謀か分かるだろう。


前回はこっちまで回ってみようという考えが起きなかっただけに、あまりにも容易に接近できた分何とも居心地は悪かった。
再び水路橋の端へ戻って撮影。


物理的に接近できるわけがないので光学ズームに頼る。
管路からはサージタンクへ上がる円筒形の梯子がついていた。


サージタンクの敷地もフェンスで囲まれ、側面に同じ円筒形状の梯子が付属している。
奇妙な梯子だが、恐らく足を滑らせたときにも一気に下まで滑落しないための仕様だろうか。


ズーム開始する前からこの銀色に反射する板のようなものが気になっていた。
正体はもちろん分からない。誰も近づく場所ではないから説明板でないことは確かだ。圧力管の空気抜きだろうか…


そしてサージタンクへは…当然行くことはできないから上空から航空映像で観察しよう。
幸いに近接状態で撮影された映像が配信されている。


当然だが上部は密閉されず大気中に開放されている。鋼管内の水流変動をサージタンク内の水位上下動で平滑化しているための設備なので密閉していては機能しない。ただし上部に網掛けなどする余地はあるだろうが、一般的にみられるどのサージタンクも上部はそのまま開放されているようである。
上空を飛ぶヘリなどがこの中へ墜落してしまう確率は…ホールインワンどころではなく低い

外側に梯子が付属している以上、点検目的などで昇降することはあるのだろう。内部がどうなっているかは…想像の域を出ないが、円筒の下側3分の1程度は余剰水で満たされているのではないだろうか。上端は佐波川ダム側にある取水口よりは余裕をみて高く造ってある。不測の事態で発電タービンを通過するダム水の流れが著しく阻害されたなら、サージタンク内の水位が急上昇するだろう。その場合でも上部から溢れることが起きない設計になっている筈だ。

想像するのもあれだが、稼働中に万が一内部へ転落すればどうなるだろうか。水中深く沈まなければ円筒プールへの転落と同じだろう。内側に点検用のタラップがあれば脱出可能かも知れない。しかし運悪く相応な高度から落ちて一定以上の深さに沈み込めば…須く発電タービンへ向かう水圧鉄管へ引き込まれるだろう。そこから先のシナリオは…かなりおぞましい事態だ。
水圧鉄管とサージタンクとの接続部にスクリーンが設置されているかも知れない

まあ、必要あって設置されている施設でありわざわざ危険を誘発させる構造物ではない。危険性だけから言えばサージタンクよりも工業用水のサイフォン呑口の方が遙かに上回るだろう。
工業用水だけではなく一般向けの灌漑用水路のサイフォンも同様である

必要なデータと写真は採取したから長居無用だ。
テロリストないしは自殺志願者と勘違いされないためにも撤収しよう。


降りるときは先の干上がった灌漑用水路伝いでなくとも斜面を降りるだけで道路に降りられた。
草にまみれて隠れているだけでここにも擬木の階段があったようだ。


無事に生還。
管理所が入るアングルで撮影し、ミッションを終えて車の方へ歩いた。


発電を終えた用水の排出口。初回訪問時も見たように歪な形をしていて扁額はない。


排出口の壁に絶対高度の表示が出ていた。
EL=130mは意外に高い場所だなーという印象を受ける。相応に山の中なのだ。


去年に負けないくらい暑く、一連の撮影で汗びっしょりになった。


せっかく佐波川関水の駐車場に車を停めているので、そのまま河原まで降りて数枚写真を撮っておいた。時系列記事としてリンクで案内しておこう。

(「佐波川関水|追加分」へ続く)

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ここまでを記述した後、記事の中ほどに掲示したサージタンク付近の航空映像を眺めていて、もしかするとサージタンクのところまで道がついているのでは…と考えた。高台にある国立山口徳地青少年自然の家へ向かう道の途中からダブルトラックの未舗装路がサージタンク手前まで伸びているように見える。
サージタンクから先に道は見えないので、サージタンクや水圧鉄管を布設するときの工事用道路だったのかも知れない。この先再び佐波川ダム方面を訪れる便があったら調べてみたいが、果たしてそれがいつになるかは未定である。
出典および編集追記:

1. 新しいカメラで撮影した2番目の動画で、ウェブに載せたものとしては初めてのショットである。ファイル形式が以前の*.aviから*.mp4となっているため閲覧環境によっては支障が出るかも知れない。

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