新厚東変電所【1】

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現地踏査日:2011/12/11
記事公開日:2011/12/20
まさか、この記事タイトルを周知のものとしてリンクをクリックした読者は殆どあるまい。恐らくこんな反応と疑念をもってご覧になったのではなかろうか。
えっ?新厚東変電所?
そんな変電所ってあったっけ?
お答えしよう。
紛れもなく存在する。…と言うか存在しなかったら記事にしないってw

ただ、私も正直言って存在こそ認知していたものの名称までは分からなかった。
如何にもマイナーな変電所のように思えて、そうでもない。敷地面積で比べれば、このカテゴリで最初に記事を書くことになった山口変電所の半分程度の規模はある。

地図で示せば、あの変電所だったのか…ということになると思う。
これは新厚東変電所を中心とした広域地図である。


ポイントされた場所柄から、これが山陽新幹線向けの変電所ということに気付くだろう。
上の地図を拡大表示させると、最大ズーム表示になった時点で”新厚東変電所”なる表記が現れる。

国道2号が交通の難所である吉見峠を越える場所を、新幹線は延長2km弱の峠山トンネルで通過する。上の地図を航空映像モードに切り替えて拡大すると分かるように、新厚東変電所は峠山トンネルの東側坑口に隣接して存在する。注意していれば国道2号で吉見峠に向かうとき変電所の一部の機器がチラリと見える。もっとも殆どの人にとっては全く注意を惹かない存在だろう。

野山時代、私は一度だけこの近辺まで自転車を走らせたことがある。目的は変電所ではなく、峠山トンネルの坑口を眺めるためだった。

これは今から3年前、野山時代に撮った写真である。
新幹線の上り線側から伸びる山道を入り、フェンス越しに撮影している。堀割の上部に変電所の設備群が見えている。


記憶を辿れば、峠山トンネルの坑口に接近できる安泰な経路が全くなかった。トンネルに向かっていく道はあるものの、侵入禁止になっていたり私道につき立入禁止の札に阻まれたのだ。当然ながら新幹線のフェンス囲障も厳しく、坑口にははるか及ばず線路敷を撮るので精一杯だったのを覚えている。

12月の中旬、ハイブリッド方式で厚東区に来ていた私は、厚東川ダムの左岸を訪れた後、当初から予定していたこの変電所に向かって自転車を漕いでいた。

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新厚東変電所という名称が知られていないだけで、この場所は見覚えがあるという方が多いかも知れない。
国道2号が厚東区下岡を過ぎ、新幹線の下をくぐって吉見峠に向かう手前の入口である。


国道との分岐部分はかなり広くなっている。宇部市内を通過する国道2号区間では車を停めて一息つける余裕スペースが殆どないせいか、よくここに車が停まっている。鉄道関連メンテナンス業者のトラックが数台並んで停まっているのもよく見かける。

もちろんこの先は何処にも抜けられない。入口の割と早い段階で一本のロープが張られている。


野山時代、テーマ踏査の黎明期にあって何につけても素朴で実直だった私は、このロープから先への立ち入りは無条件で全面禁止だろうと解釈していた。変電所に興味はあったし、何よりもこの道を辿ればトンネル坑口が撮れるかも知れない…という具体的な用件はあったものの、一度も入ったことはなかった。
ロープの掛かっている状況は以前と変わらない。しかし取り付けてあるタグは読めないし、何よりも紐一本張っただけの状況なのにこの先一歩でも進行すれば直ちに危険だという根拠に薄い。

JR西日本の心情としては、一般人の進行によって厄介事が起きそうなところは、新幹線の関連設備に限らず遠ざけたいだろう。変電所はもちろん恐らくこのスロープも私有地だ。しかし容易に進行できる状況になっているということは、新幹線や設備などを観たい人々のために危険が及ばない範囲で便宜を図っているからだ…このロープも単に一般車両の誤進入防止だろう…
そう解釈して、今回初めてこの先を求めることにした次第だ。
そういう経緯なので記事を参考にして自由に観に行こうなどとは言わないでおこう

さて、自転車をどうしようか?

車通りの多い国道2号だ。いくら施錠してもこんな目立つ場所へ置き去りにするのは不用心過ぎる。安い自転車だが取りあえず新品に近いし、担いで軽トラの荷台へ放り込めば瞬時に持ち去られてしまう。何よりもこの場所から変電所の最終の入口までかなりありそうだ。歩くのは大儀(とにかくダラダラと歩くことが嫌いw)だし、行きは登り坂でも帰りはスーッと下って帰れる。
そういう訳で自転車を抱え、低いロープをサッと越した。それからローギアに変えて自転車を漕いだ。

スロープの途中で振り返って撮影。
新幹線の線路敷と同じ高さになるところにメンテナンス用の入口があった。
峠山トンネル西側坑口付近にも同様の扉が観られる


距離程は960K220Mとなっていた。
立入禁止は当然として、その横に貼られている子供向けの警告表示が面白い。子供にとって憧れの的の新幹線が眉を吊り上げ、フェンスを越えようとする子供をブロックしている。
新幹線のスピードでブロックされたら帽子飛ぶどころじゃ済まないよw


新幹線の架線と同じくらいの高さになったところに変電所の門扉があった。
スロープは更に敷地内まで延びているものの、一般の立ち入りはここまでだ。


フェンス門扉に接近する。
JR西日本 新厚東変電所の文字が見える。
多くの表示板に混じってPCB汚染物保管場所の表示も見える。規制が厳しくなる以前の古い変圧器が保管されているらしい。


新幹線の向かう先をフェンス越しに窺った。
あの先に峠山トンネルの坑口がある筈なのだが、堀割が深くて見えない。僅かにポータル上部が見えるだけだ。


新幹線側に近づくいてズームした。フェンスを斜めに通して観ることになるためにやはり見えない。


トンネル坑口のことは諦めて、変電所の方に注意を向ける。
フェンス越しに中を覗いてみた。拡大対象画像です。
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クリックすれば元のサイズに戻ります。


いくら新幹線だろうとここで扱っているものが電気であることに変わりはない。一般の変電所に比べて酷く変わったものなどなかろうと思ったが、まず目に着いた違いは
敷き詰められている茶色い砕石
だった。
水はけをよくするために敷かれた砕石は一様に茶色を帯びている。かつて線路敷に使われていたものを回収し流用しているのだろうか。

上部にある3条の有刺鉄線の上から更に有刺鉄線を螺旋状に巻いて膨らみを持たせている。フェンスに標識がなくても侵入に対する強い拒絶を示唆しているのは明らかで、これを越えるなんて刑務所の脱獄犯がすることだ。
フェンスの外側は草刈りされており、先まで進めそうだ。
右側に見える灰色のボックスは…もしかして監視カメラだとか?


この周辺の様子をパノラマ動画撮影してみた。
[再生時間: 36秒]


フェンスの網目が細かいので撮影には一苦労だ。
鉄道向けだからという訳でもなかろうが、ガントリー型の鉄塔が目立った。拡大対象画像です。
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クリックすれば元のサイズに戻ります。


撮影に集中し始めたときのことだった。
背中の方で人の声がした。

ん?
誰か居る?
新幹線の反対側の土手から人の声がしている。何を言っているかは聞き取れないし人影も見えない。自分に呼びかけるのではなく居合わせる複数人の会話のようにも思われた。


正直な話、自分も胸張って堂々とこの場所へ来ている訳ではない。特にロープを跨いで自転車を持ち込んでいる手前、現在の私が置かれている立場は限りなく弱かった。

気になることは単独では起きない。

何となく気持ちがザワザワするので、もしや…と思いさっき登ってきたスロープを振り返った。
坂の下、ロープで仕切られた外に白っぽい車が停まっているではないか。


どんな車かは距離が遠いし藪にも隠されていて定かではない。いや、ハッキリと見届けたくもない気持ちもあった。
取りあえず車の屋根に赤い回転灯は見えなかったがw
誰かがコッチに向かって来る気配はない。ただ、現在私が居る場所から撤収するにはこのスロープを下る以外に道がないことを知って、撤収するのを待ち構えているようにも思われた。

なんか、やりづらいなぁ…
他意はない。テロリストじゃあないし、線路敷まで立ち入って列車の往来に影響を及ぼす迷惑な撮り鉄の部類でもない。ただ、ちょっと変わり者な自転車乗りで…非日常的な景色を追ってカメラに納めているだけでありまして…

変電所も一貫してフェンスの外側から撮影している。端から中へ入ってやろうなんて気は更々無いのだが、この場に居て撮影するだけで何か新幹線の運行に支障が出るなんてこと絶対ないよね?

顔面の倍くらいに大きな手のひらを拡げて侵入を阻止している作業員の図。
だから…中には入りませんってば。


新幹線の向こう側からは大人の話し声らしきものが聞こえるし、いつの間にやら白い車が出口を塞ぐように待機しているし…
悪いことばかりを想像する。自転車に乗ってスロープを下ったら…
そこにはヘルメットを被ったごつい黒制服に身を纏った2人組立っていて、そのうちの一人が自転車を漕ぐ私の前に紅白の棒を差し出して制止を求めた…もう一人は全く困ったものだ…とでも言わんばかりのしかめ面でボードに挟まれた聴取表にボールペンで走り書きした…
我ながら何という妄想力の逞しさw
帰らないよ。物件をカメラに収めるまでは。
もうここまで来ちゃったんだからさ。
腹をくくりフェンスに沿って更に奥へと進む。
むしろ施錠していない自転車を乗り逃げされる方が心配だった

敷地内で最も大きな騒音を放っている機器。
物理的な仕組みは一般の変電所と同じと思うが、納入先は異なるのだろう。


元から電気のことは分からないし、まして鉄道関連も造詣は深くない。分からないの二乗(?)みたいな状態だから、単に眺めてデータのみ採取する。
変圧器らしきサイコロ型の機器にはATの文字盤が見える。AT饋電方式のことなのだろうか。拡大対象画像です。
画像にマウスをかざすと拡大、ダブルクリックで最大化します。
クリックすれば元のサイズに戻ります。
「Wikipedia - AT饋電方式」
http://ja.wikipedia.org/wiki/AT%E9%A5%8B%E9%9B%BB%E6%96%B9%E5%BC%8F


門扉のところから続いていた区画の一番端に到達した。
砕石の茶色もだが、フェンスの茶色い錆び付きもかなり酷い。建てられてから一度も補修されていないのではなかろうか。


この先は雛段になっていて、一段高くなっている敷地には今までと同じくらいの機器類が設置されていた。
今までになかったタイプのものも見えかけている。


敷地の外を流れていた側溝は、ここでフェンスの内側に入っていた。側溝とフェンスの間から侵入されないようにキチンとスクリーンが置かれていた。

ここから更に先を求めるなら、側溝を跨ぐ必要があった。
側溝はどうにかこなせそうなタスクだったが、そこから先でフェンスの外側を歩けるかどうかは分からない。見たところかなり藪が酷そうな雲行きだ。

どうしようか…
自転車から離れることになるのは仕方ないとして、初っ端が今の状況なのでテンションが上がりづらいのは否めなかった。

(「新厚東変電所【2】」へ続く)

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