山口変電所【1】

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現地踏査日:2011/10/4
記事公開日:2011/10/8
船木の”こもれ日の郷”で自転車を積み込んだ後、先ほど走った県道37号の続きとなる矢矯厚東間を通って帰ることにした。
来るときは深く考えず厚南経由でこもれ日まで走った…後から思えば遠回りである

県道のこの区間は林道並みに狭い(現在拡幅工事が進められている)ので、車通りは少ない。しかし万倉付近まで来ているならアジトへは近道になるし、夕暮れまでの時間を活用して山口変電所へ寄ってみる気になったからだ。

矢矯から進めば、県道が名もない峠を越え立熊に至る手前に山口変電所がある。そこは野山時代自転車踏査を始めて間もない頃、今富ダムを訪れる途中に立ち寄りブログ記事も書いている。

変電所というおよそ普通の人が近づくこともない施設にデジカメを持って撮影に行くなど、当時の自分には何とも物好きな目論見だと感じた。奇特さは今も変わりはないのだが、現在ではむしろテーマ踏査の一環として”やるなら徹底的に”というスタンスである。特に普段見馴れないものを眺めて楽しみたいなら、変電設備は筆頭にあがるべき面白い物件なのだ。そのことは特にこの記事を丹念に読まずとも、写真だけ追ってみるだけでも充分味わえるだろう。

さて、地図で山口変電所の位置を確認しておこう。


山口変電所は、元から寂しい県道37号から更に離れて山手に存在する。地図で示されれば例えば宇部在住民なら大体の場所は分かるものの、見たことも聞いたこともない人が殆どの筈だ。一般の人には用がないし、管理主体である中国電力(株)の職員ですら、後で述べるような理由で殆ど現地へ赴くことがないかも知れない場所だ。
しかし他の変電所と同様、敷地内に立ち入ることは出来ないものの、フェンスの外から眺めるのは全く自由である。正門まで車で乗り付けることもできるので、その気にさえなれば容易に”非日常的な眺め”を体験することができる。街中の変電所と違って人の目が気にならない分だけ、好適と言えるかも知れない。

今回は車と自分の脚による踏査だから自転車II世の出番はない。倒された後部座席に自転車IIを格納したまま、私は山口変電所への入口を確認しつつ車を走らせた。

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矢矯から県道を走れば、山口変電所は左側になる。元から一般人には殆ど用事のないところだからか、県道からの左折点に案内などはない。ただ、鉄塔群が山手の一箇所に集結するのが見え始めるからおよその見当はつく。


この一本道は変電所の敷地を前にして二手に分かれる。左側が正門に向かう道である。分岐の中央に中電の看板があり、ここで初めて山口変電所という名称を知ることになる。


全国津々浦々に遍在する変電所は、現在ではその殆どが無人化されている。誰も常駐していないし、定期点検や器具の設置補修工事、そして緊急の場合以外は誰かが立ち寄ることもない。他の変電所も含めて一括して中央制御室で管理・遠隔操作されている。
来客など想定されていないから駐車スペースもない。しかし私がカメラを持って車から離れているときのことがあるから、通路や正門の前を避けて車を留め置いた。

ここが正門になる。もちろん門扉はぴったり閉ざされている。
緊急時の連絡用として営業所(宇部市善和にある)に直接繋がる電話が左側に設置されていた。
敷地内には不相応に大きなコンクリート2階建ての事務所がある。


外から推測するしかないが、発電所と違い事務所の中に変電関連の設備はない筈だ。1階も2階も会議室や事務室だろう。かつて職員が常駐し、機器類を監視・制御していた時は現役で使われていた筈だ。今はどうなっているのだろうか。
年に一度くらいは窓を開放するのでは…空気が相当に淀んでいそうだ

前回は敷地内の機器群だけを撮影していた。今回はもう少し丹念に敷地の周辺も巡ってみることにした。
まずは正門左側の作業道に進攻する。

ここは前回は訪れていない。3年前に来たときは門扉が閉まっていて進めなかった気がする。しかし今見るに門扉らしきものは初めから見当たらず、自由に入ることができた。

フェンスの内側近い場所に何やら”汚染された碍子”らしきものが置かれているのを見つけた。


ズームしてみる。
何でもPCBに汚染されているので注意深く扱う必要があるらしい。
近くで眺めてみよう。


大きな碍子の陰になっていて分からなかったが、その後ろに3本の碍子が置かれていた。


ズームする。
特別管理産業廃棄物
PCB汚染物
…だそうだ。
まだPCBが有効な絶縁物質として封入されていた時代のものだろう。


そう言えば、徳山発電所だったろうか。地階の一角に縄が張られ、PCB汚染物質というタグの貼られた容器が置かれていたのを見た。

PCBは安価に合成できて燃えにくく安定性のある優秀な絶縁体なのだが、その後環境負荷が大きく人体にも害があることが判明してからは製造・使用などが原則禁止されている。しかし古い変圧器などでPCBの封入されたものが全国に遍在しており、管理・処理方法も厳しく規定されている。
雨晒しになる屋外へ放置されるのは良くないと思う…器具に破損があれば雨に打たれてPCBの流出も有り得ると思う

「Wikipedia - ポリ塩化ビフェニル」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9D%E3%83%AA%E5%A1%A9%E5%8C%96%E3%83%93%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%8B%E3%83%AB

その横からはフェンスに沿って軽トラ一台が通れる程の道が伸びていた。
フェンスは街中に見られる普通のものではない。網目が細かい(フェンス越しの撮影も非常に難しかった)ので足先を掛けてよじ登り…なんて芸当はできない。それ以前に上部には有刺鉄線が張られ、下半分は管理道側に対して”逆転び”になっている。いずれも部外者の不法侵入を阻止する堅い意志の表れだ。


殆ど人が訪れない場所ながら、敷地内はもちろんフェンスの外側まで丁寧に草刈りされていた。
茶色に変色した枯れ草が堆積していることから、ここは元から資材や刈られた草の仮置き場のための敷地らしい。


ここが変電所の敷地の一番奥になる。フェンスはここで直角に折れ、山の斜面に向かって伸びていた。
敷地内を見渡せる眺めが得られるかもと思い、ちょっと踏み込んでみた。

フェンスの外側も草木が刈られているから藪漕ぎは要らなかったものの、クモが獲物を待ち構えて何ヶ所も罠を仕掛けていた。また、自転車で県道37号を走っていたせいかさすがに上り下りがきつかった。
写真は振り返って登ってきた斜面を撮影。


敷地背面になる。フェンスの外側に排水用の側溝があり、その裏まで丁寧に下刈りされていた。


コンクリート側溝の中を歩けば反対側まで出られるだろう。しかしまたクモの巣攻撃を多数回受けそうだし、降りられない高低差のある場所に出てくるかも知れないので、自重して引き返した。

事務所敷地内のすぐ横に、その周辺のどれよりも高い鉄塔が聳えている。


こうして事務所の横から撮ると、如何に巨大な塔かが分かる。
送電鉄塔ではなく何か通信を行うためのものらしい。最上部にはBS受信機みたいなお椀が付属している。


塔の足元をズームする。
”このカバーを外す”というのは、塔に登ることを意味するのだろう。それはいくら敷地内に立ち入り可能な職員や管理者と言えども所定の手続きが要るらしい。


間違いなく無人の筈の事務所に、ちょっと人の住まいの匂いがするものを見つけた。

ガラス戸の内側に障子張りの戸が見えている。かなり長いこと放置されているらしくところどころ破れていた。
職員が使う会議室を障子張りにはしないから、ここは無人化される以前に当番の職員が寝泊まりした部屋ではないだろうか。
その隣は恐らくトイレか台所だろう。窓際にそれらしき容器が置かれているのが見える。


人気がなく如何にも無機的な建物にこういう居住の形跡らしきものを見るとホッとしてしまう。
それと同時に部屋の中がどうなっているのかを見たい気も…

敷地の奥側から全体を俯瞰できる場所は見つからなかったが、この場所からでもある程度なら見渡せる。
正門前で敷地内の全景をパノラマ動画撮影してみた。

[再生時間: 23秒]


実は高いところから俯瞰したいなら、塩梅良さそうな場所がある。それは最初に車を停めたときから気付いていた。

変電所へ電気を送り届ける最後の一本の鉄塔が左手の丘に建っている。どうやら最近伐採したらしく、鉄塔の足元が見えるまで山が丸裸になっていた。


あそこまで上がるにはちょっと労力が要りそうだ。
今日ここまで丹念に撮影したからには、今後当分の間来ることはあるまい。それ故に少々骨折ってでも撮っておこうと思って杣道を歩き始めた。

(「山口変電所【2】」へ続く)

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