低水位の小野湖・屋敷の基礎跡

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現地踏査日:2011/10/11
      2012/9/29
記事公開日:2012/10/20
小野地区を通過する国道490号は、平成期に入って集落の中心部を避けて小野湖沿いを直線的に進むルートに付け替えられた。この直線部のほぼ中央付近に小島があり、小野湖の水位が下がったとき小島の北東部近くに何かの建物の基礎が現れることが知られている。

この遺構が存在する大まかな場所を地図でポイントしている。


上記地図の航空映像モードは貯水率が標準状態のときのものなので遺構は水没しており位置すら特定できない。しかし低水位時には国道を行き交う車内からも視認できるし、充分に水位が下がっていれば直接歩いて現地踏査も可能である。
なお、この物件に限らず低水位時踏査は「瞬モノ」である。この記事をご覧になった後で現地を訪れても必ずしも同様の光景が観られるとは限らないのでご了承いただきたい。

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現地への行き方などは「小野地区第一次踏査」に述べてあるので省略する。
以下は初回踏査を行った2011年10月の写真である。

国道から湖底に伸びる階段を下りたところだ。
泥で覆われた平坦な湖底の一角に、コンクリート片や礫岩が散らばっている。


3年前に初めて国道からこの光景を目にしたとき、並行なコンクリート部分が橋の欄干のように見えた。
しかし欄干にしては周囲に散らばった石材が多すぎる。恐らく家屋か何かの基礎跡だろうという感触はあった。

湖底は立入禁止にはなっていない。興味が向くなら自己責任で自由に探索できる。そうではあっても当時は些か気が引けていた。
これが家屋の基礎なら持ち主があったはずだ。厚東川ダムの湛水域にかかって故郷の家を湖底に失うことになった方がいらっしゃるわけで、そういう場所を外部からやって来た私が興味本位で歩き回ることに逡巡を覚えたのである。
小野湖は県の管理下だから実際には公地を歩き回ることと変わりはない

護岸のある国道側に背を向けて撮影している。
既にこの辺りは標準水位ならダム湖の水に隠れる場所である。


工業用水カットが必要な位の状況なので、小野湖は低水位が相当期間続いている。足元は一部がぬかるんでいるだけで、ハマる心配は殆どなく乾燥してひび割れている場所すらあった。
海や川と違い、ダム湖の水は急な雨でも降らない限りそう激しくは動かない。そのせいか時間をかけて湖水の侵食を受け破壊されたコンクリート塊はあまり移動せず、元あった近辺に散乱するようだ。

橋の欄干でないことだけは理解できた。配置が違うし明らかに橋とは無縁な基礎も見つかったからだ。
とりわけ目立つのがこの正方形に丸い穴の空いたコンクリート塊だ。


中央に丸い穴の空いた正方形をしている。家屋の柱を固定するためのものだろうか…しかし一般の民家でこういう物を見かけない気もする。
コンクリート基礎に鉄筋が見えたので極端には古くないと思う


永年の湖水による侵食に耐え今も元の位置で形状を保っている基礎部分もあった。
コンクリート基礎と土台部分の砂部分が洗い流され「おこし」のようになっている。


もっとも原型を保っている基礎部分がこれだ。
幅30cm程度の基礎コンクリートの上に一定幅の基礎壁を造っている。現在でも一戸建ての家屋には普通に観られる基礎構造だ。


この建物が何だったか未だ断言はできないが、ダム湖の湛水域に後からこういう構造物を造る筈がない。
厚東川ダムの竣工が昭和20年代だったことからすれば戦前からの建物だろう。


もう一つ、想像を巡らせる興味深いものが基礎囲いの中心付近にあった。


何のものか分からない数段積まれたレンガ。
殆どのものが原型をとどめていない中、泥を被って薄汚れているもののレンガ自体に殆ど欠けがなく通りも捻れていなかった。モルタルはまだ生きており指で押してもまったく動かなかった。


周囲の基礎の形状からすればこのレンガは建屋の内部に設置されていたことになる。
そうとなれば、これは昔、煮炊きをするのに使った竈の跡ではないだろうか。

人の手が加わった形跡があるものはこの程度だった。殆どが破砕された後のコンクリート殻のようで、基礎に埋め込まれた鉄筋以外は金物や木片などは見つからなかった。

この構造物が何で、いつ頃造られたものかに興味が湧く。それを調べるヒントとして過去の航空映像を閲覧する方法がある。
「国土画像情報閲覧システム - 小野地区近辺」
http://w3land.mlit.go.jp/cgi-bin/WebGIS2/WC_AirPhoto.cgi?IT=p&DT=n&PFN=CCG-74-12&PCN=C6&IDX=61
これは昭和40年代後半の湖付近の航空映像である。既に小野湖は存在しているがまだ新しい国道バイパスは当然なく、周囲は自然の湿地帯のようになっていることが分かる。
学校のすぐ裏手が小野湖で、今と全く同じ島が見えている。
航空映像でも該当箇所は湖面で何の建物も見えないので、昭和40年後半までには取り壊されコンクリート基礎やレンガ積みだけが遺ったようだ。

後から思えば、この基礎跡の正体を突き止めるヒントになりそうなものが近くにあった。それは最初の本格的踏査で帰りがけ何の気なしに撮影した一物件であった。

護岸の階段を登り、国道を横断した斜め先が小野小学校の裏手になる。
国道を通すとき余剰分となった敷地に小野湖関連の記念碑が設置されている。
このすぐ裏手の斜面に意味の分からない奇妙な鳥居が存在する。


実際このとき近くまで行って鳥居を撮影している。
それは通常の鳥居のように本殿に向かう石段の上に聳え立つのではなく、鳥居だけが単独で土の斜面に取り残されている。


鳥居は脚の半分くらいが土の中に埋まっている。
通常こんな状態はあり得ない。


帰りがけに小野湖由来の記念碑を撮影していて鳥居の存在に気付いた。変な場所にあるものだと思いつつ写真を撮るときは、廃寺となって鳥居だけが斜面に遺されたのだろう…と考えていた。つい先ほどまで踏査していた基礎跡のことはまったく頭になかったのである。

今から思えば、次のような仮説は立てられないだろうか?
お寺の鳥居が小野湖に沈むことになったので
鳥居だけ単独でこの場所に移設されたのでは?
正方形の台座に丸い穴のあいたコンクリート基礎は、かつて鳥居の脚を固定していたものではと考えたくなる。鳥居そのものは部材を分解して運び出したが、台座は後年補強用としてコンクリートで巻き立てたのでそのまま放置したとも考えられる。 斜面に建つ鳥居の脚が石段のない場所の土中に埋もれているのは、祠を再建しなかったからではないだろうか。

これは現地の方に尋ねれば詳細が得られる可能性がある。この仮説の通りなら、基礎跡にあったのは一般の民家ではなく祠か寺院ではないかと思う。
もっとも厚東川ダムによって湖底に沈むなら、寺院は元からかなり厚東川の河川敷に近い場所に造られていたことになる。用心深く往来の道も川岸を避けて造った昔の人が、水害に晒されやすいこの場所を選んで祠を造っていたとは考えづらい。あるいは先の鳥居とは全く無関係な別の遺構ということも有り得る。極端な話、平成期に入って国道バイパスの護岸整備を行うとき造った仮設構造物だった…というつまらない結果に終わる恐れもあるだろう。

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2012年の秋口、再び水位が低下したとき再度ここを訪れて追加の写真と動画を採取した。
なるべく今までの写真と重複しないアングルのものを選んで載せておいた。

国道護岸と基礎跡の位置関係である。


ほぼ2年振りに訪れていながら遺構自体に殆ど変化はなかった。
しかし以前とは違う状態になった一つのものがあった。


レンガ敷きの近くに育っていたこの灌木には見覚えがある。前出の写真でも写っており、そのときはまだ薄緑色の葉っぱが見えていた。


灌木は既に緑の部分がまったくなく、明らかに枯死していた。一昨年水位が下がった状態が長く続いたとき、何の因果かここに根付いてしまい数十センチの背丈まで育った。その後水位が上昇し、その状態が長く続いたため大気から遮断された結果死んでしまったらしい。
もっとも引き抜くことが出来なかったので根は生きているのかも…

鳥居の台座ではないかと思われるコンクリート基礎。
スケールを持っていないので比較対象用に私の足を置いて撮影している。これと比較すれば丸い穴の直径は40cm程度で、あの鳥居の脚にかなり近いサイズだ。


もしこれが本当に鳥居の台座だったとしたら、同じものが近くにもう一つ存在する筈だ。
しかし台座や痕跡は見つからず、そもそも鳥居だったとしてどの向きに立っていたのかも推測できなかった。


この建屋の入口だったと思われる場所がここだ。
基礎が直線的に並び、その中央部分に土間のような幅広のコンクリート跡が見える。


もっともよく原型を留めているこの基礎部分は、押し入れか厠を想像させる。


最後にこの遺構の全容が分かるように周囲を歩き回りつつ動画を回してみた。
撮影時間がやや長いのでナロー回線の方はちょっと重いかも知れない。

[再生時間: 1分31秒]


断片的に撮影された画像を元に、基礎跡を現況の地図に重ね書きしてみた。
サイズや長さなどは考慮しておらず大まかな位置関係だけである。


橙色の●が鳥居の台座らしき基礎だが、建屋の基礎に対して近すぎるように思われる。鳥居本体を外すとき元の位置から動いたのだろうか。

水位が下がれば国道からも見えるほど目立つ遺構なので、昔から地元に住まう方は事情をご存じだろう。とりわけ国道を挟んだ反対側の丘にひっそりと建つ曰くありげな鳥居が歴史の証人になってくれそうな気がする。
詳細な情報が得られたなら追記しよう。

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