新町埠頭緑地【1】

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現地踏査日:2014/2/30
記事公開日:2014/2/10
(「新町埠頭緑地」の続き)

”虎視眈々と狙っていた”という程のものでもないが、藪にすっぽり包まれた東屋の存在は気になっていた。最初の訪問は10月末だったので年明けの寒い時期を待った。
2月入りして新町方面を訪れる便があり、そのとき本件を思い出すことができた。今の時期なら接近できるかも知れない…と思い、新町埠頭緑地へ向かった。
東屋が姿を現していた!


10月訪問時には東屋は円形の建物のように見えていた。一部見えかけているのは壁やドアではないかと思ったので、もし建屋なら内部はさぞかし「香ばしい」状態になっているだろうと期待していたのだが…単に藤棚のような造りだった。

足元の草地は緑色から茶色に変わっているだけだ。入口部分にどっさりと積み上げられた感じで接近の難易度は下がっていない。もうヘビは冬眠している時期だがこの中へ足を突っ込むなど気持ちのいいものではない。


もうちょっとマシな場所はないか周囲を探った。
似たり寄ったりである。枯れ草が積まれていない入口は上から低木が垂れ込めているし足元の草もなお旺盛だ。


何処から攻めるも難易度は同じなら、腹をくくろうか。
それでは、行ってみますかな。
ある程度時間がかかると予想したので例によって自転車は施錠した。
何だか廃の領域へズッポリ身を委ねるのが大好きなように思われそうだが、写真撮影はまだしも中へ踏み込むのは決して気持ちのいいものではない。こんな場所で怪我をしたなんてことになったらいい笑いものである。

雑草が育っては枯れてまた生えては枯れ…その間にまるっきり草刈りはされていないらしく足元の地面がまったく見えない位に枯れ草が堆積していた。


入口の枯れ枝群を突破した後に振り返ったところ。
これほどの荒れた状態なら罪悪感も薄れてしまうのだろう。コンクリート壁内側の見えない場所に外部から持ち込まれたゴミが大量に棄てられていた。


元が公園・緑地を謳っている場所なので、足元は雑草だらけでもさすがに樹木は侵入していない。樹木はお行儀良く緑地の外周だけに植わっていた。市道藤曲門前線の経路探しのときみたいな見通しの効かないジャングルよりは幾分タチが良い。
そうは言っても足元が分からない場所を無闇に歩き回るのは最小限にしたかった。これほどの状態なら蓋掛けされていない溝が緑地内を通っていても気付かずに足を突っ込むだろう。
ざっと緑地内を見渡し、撮影に値しそうなものを到達地点に絞って効率良く歩いた。

入口からすぐ左側の植え込みに沿って歩いている。ここに2基のコンクリート製ベンチがあった。もちろんこのベンチは歩道側からはまったく存在すら窺い知れない。
前方の緑地と社有地との境付近に多分「あれ」じゃないかと目星のつく興味深いものが見えていた。


そこへの接近はさすがに躊躇われた。社有地では作業している人の姿が見えていたからだ。こんな酷い場所へカメラを持って歩き回る人間は尋常な精神の持ち主とは思われまい。
あの場所まで接近すれば自分の存在は丸わかりだ…もっとも最近は常に「これは業務なのだ」と自分に言い聞かせているのだが…^^;
むしろ後述するようにここが自分の居ていい場所かどうか自信が持てなかった

あの四角い柱のようなものが見えている場所が緑地の端になるのだろう。
その右横には同じく2基のコンクリート製ベンチが据えられているのだが、座面まで雑草にカモフラージュされていた。


完全にそばへ行くまでもなく正体は判明した。
やはり水飲み場だった。
ベンチが備わっている緑地なんだから水飲み場があっておかしくはない。


側面には水道局が貼り付けたと思われる管理用の鑑札があった。
思うにこの鑑札ってどの公園の水道にも貼り付けてあるものだろうか…


鑑札が貼られているということは今も機能しているのだろうか。まさか…

何と、ちゃんと水が出てきた。


蛇口を捻るのに余計な力は不要で、屋外の公園にある普通のものと同等だった。すっかり錆び付いてコックが回らないか、回っても水道の元栓が閉じられて水が出ないと思ったのである。
別に喉が渇いているわけでもなかったので水は当然飲まなかった。見かけは無色透明の上水とは言っても一体いつから水道管の中に滞留していたのか分からない水だ。
濁り水がまったく出なかったのである程度は水を出しているのかも…

この場所から例の東屋を眺めるとちょうどその背後に地方合同庁舎の建物が見えた。
あの東屋がメインだろうが一番最後にしよう…まだ奥に興味深いものが見えていたのだ。


道路に面した緑地の入口から一番奥と言ってもいいだろうか…そこはどういう訳か通路になっていた。
一段高い場所へ登る階段があるのだが、その前を横切る段差を埋めるように渡り廊下の板が敷かれていた。


緑地の中ながらここは隣接企業の通路になっているのだろうか…その部分だけは草が生えておらず踏み固められた地面が露出していた。このため自分は本当に緑地という公共の場に居るのか自信が持てなくなった。もしかするとここは既に緑地指定を解除され、社有地になっているのかも知れない…

一時期流行った擬木を並べた階段である。それも健全なのは最初の6段までで、そこから上は…
完全に雑草へ飲み込まれた階段。


実際には同じ擬木の階段がある。既に廃の領域へと送り込まれ、何処に段差があるかさえも分かりづらくなっていた。素晴らしい。相当の長い年月放置されなければここまでなるまい。

階段を登った先がどうなっているかさっぱり分からない。一番高い場所が土手のようになっていて一面が雑草の海。動き回る気がしない。
その先は今度こそ埠頭を利用している社有地らしく資材が積まれていた。


もしこの先の斜面を降りてしまえば社有地へ入り込むことになるだろう。それほど現状は緑地と社有地の境が分からなくなっていた。不法侵入だとの嫌疑を掛けられる前にそこから先を追求せずに引き返した。

最後のお愉しみにとっておいた藤棚へ接近する。
酷い状態だがそれでも去年の10月などは柱が建っていることすら分からなかったのだ。


藤棚の柱や梁も擬木造りである。この緑地が整備されたおよその時期が推測できそうだ。


コンクリート柱では如何にも無機質だという声が高まり、耐久性や経済性はそのままで外観だけでも木に見せかけようという流れから一時期擬木造りが流行った。昭和40年代後半から50年代と思う。現在でも恐らくこの資材自体は製造していると思うが、公園のような一般市民が集う場では殆ど使われなくなった。

この緑地は一体どういう目的で造られたのだろう。感じとしては余剰地を何の整備もしないまま遊ばせておくのは勿体ないということで、緑地らしくベンチや藤棚を設置したというところだろうか。


新町埠頭を地図で再度眺めると県営上屋という施設がみられる。新町埠頭緑地は市公園緑地課の管理する緑地ではないから、きっと県管理だろう。利用する人も居ないので苦情がなく、殆ど忘れ去られているように思われる。


冬場の一年を通じてもっとも接近の容易な時期でこの有り様だ。
8月あたり訪れればサバイバルゲームの訓練に利用できるかも知れない…


服にひっつくやっかいな「ほいと」は殆どなかった。
興味深い遺構類は見当たらず、ひたすら廃の世界へ身を置く非日常感を味わえる以外の収穫はなかった。


以上の撮影をもってアジトへ帰ったのだが…再調査した時点では結局、この新町埠頭緑地が現役の公園として供されているかどうか分からなかった。
後日、その決定的な証拠とは言えないにしても参考になりそうなものを宇部新川駅前の案内板に見つけた。


該当する場所には確かに「新町ふ頭公園」と記載されていたのだ。


宇部新川駅は電車で宇部を訪れる人にとっては今でも玄関駅である。駅前の案内図に何年も前の古い情報を放置しているとは考え難いから、そこに記載された情報は相応な信頼性を持つと言えるだろう。大々的ではないにしても合同庁舎の横から新町埠頭へ向かう道の両側に「新町ふ頭公園」が存在することになっていたのだ。

まあ、殆ど有り得ない事例だが市外から電車で訪れたカップルが宇部新川駅で降りてこの案内板を参考に街歩きするなんてシチュエーションはどうだろう。
「宇部市って港の街なんだってね。海が観たいな。海の見える公園ってないかしら?」
「ここに『新町ふ頭公園』って載ってるよ。船が眺められるんじゃないかな?」
「じゃ、そこ行こっ♪」
彼氏に案内されてこの「公園」を訪れたなら、デートは強制終了を余儀なくされ二人は別々の電車に乗って帰ることになるかも知れない。もっとも二人ともたまたま廃モノに造詣が深いとか、彼女が「あなたが連れてってくれるところなら何処でも着いていくわ♪」と理解してくれる女性なら問題はないが…
後者のような女性と是非とも一緒に記事ネタ採取をやってみたい^^;

廃の世界を嗜み愛でるのが当サイトの一つの傾向であるとは言え、さすがにこの緑地はどうかした方が良いだろう。今も公園として位置づけられているのならもう少しマシな状態にすべきだし、既に公園でなくなっているのなら駅前の案内板からそっと消去した方が良い。
ここがいつから今のような荒れ放題になっているのかは分からない。記憶をたどれば遙か昔、宇部の花火大会で一部の仕掛け花火を陸上で開催していた時期があった。そのとき新町埠頭の通路部分に仕掛けが設置されて、ナイヤガラの滝のように落ちる花火を縄張の外から眺めた記憶がある。[1]そのときは緑地部分にも多少なりとも出入りできていたように思う。

新町埠頭緑地の今後の行方は興味深いものがある。このままズルズルと自然へ還っていく力に引きずられて廃の様相を濃くしていくのか、たまさか雑草が綺麗に刈り取られ本当にカップルも訪れてみたくなるような臨海公園に生まれ変わるのか…
宇部新川駅に降りたったバーチャル・カップル(?)も話していたように宇部市は港の街である。そして事ある毎に唱えている通り、市街部近辺には臨海公園が皆無だ。あまりお金をかけずメンテナンスもそれほど必要としないスペースに変身するときが来れば、華々しく変貌を遂げた新町埠頭公園の続編【2】を公開できるかも知れない。
当面はもっと酷く荒れた状態のレポートをお伝えすることになる可能性が高い気がする…
出典および編集追記:

1. 現在では仕掛け花火も含めてすべて観客に危険が及ばない岸壁の立入禁止区域内で行われる。

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