古原田上池【2】

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(「古原田上池【1】」の続き)

観察している岸辺からもう少し離れた対岸にもう一つコンクリート塊が見つかった。
あらかじめネットの航空映像で情報を仕入れていた通りの眺めだ。


足元にあるのとまったく同じ形らしい。
両者の間は完全に池の水に満たされていて他に水上へ現れたものは何もなかった。


ズーム撮影。乾いたコンクリートの上で2羽のオシドリが羽を休めていた。
常盤池の水没コンクリート塊水没建築ブロックを思わせる眺めだ。


前回、古原田上池の堰堤を訪れたとき余水吐からちろちろと水が流れ出ているのを見た。今が最高水位ということだ。この3つのサイコロ部分と横長のコンクリートは常時水面に顔を出していて水没することはないらしい。

当面は足元のすぐ近くにあるコンクリート塊を詳しく観察したい。しかし足元にもじゃもじゃと繁茂する草木が邪魔して視界を遮った。
右手はカメラを構えて塞がっているし、目の前の草木を視野から取り除くには左手だけでは不十分で、もう少し岸辺に接近しなければならない。


かくなる上は…
もうフジの葉の裏に虫がくっついているかも…なんて躊躇してはいられない。


ざっと見たところ虫の姿がなかったのでもうそれ以上追及せずに足場を確保することに専念した。なまじ丹念にしらべてKMC's(何)の姿を見つけて踏査意欲が萎えるならそっちの方が問題だ。
…とは言っても服にひっついたままお持ち帰りなんてのも絶対に嫌だ

コンクリートのパイプみたいなものが出てきた。
これを垂直に立てて同種のコンクリート棒を横に置いて護岸にしているらしい。変わった造りだ。


中を覗き込む。
もしかして使い古された電柱だろうか?そんなものを護岸の支柱に使うとは…
中にカメラを落っことしたら大変だ…


まさかこの穴あき電柱が倒れるなんて有り得ないから、この電柱の横へ足場を求めて思い切り身を乗り出した。こんな場所から岸辺へ接近して植え込みをガサゴソやっていると、庭先のあの人から何か言われるかも…手早く済ませてしまいたい。

やっと完全な形で姿を現した。
もうここからは一歩も前へは出られないし姿勢を変えるのも危なくてできない。本当に落ちる。


さすがに岸辺近くからズドーンと深みになっている可能性は薄いだろう。それでも水面に浮き草が集まっていて水も濁っているせいで水底は見えなかったし、コンクリート構造物の水面下がどうなっているかも分からなかった。

これは…一体何に喩えれば説明できるものだろうか…
読者情報としてもたらされた「学校用プールの飛び込み台」は、確かに一番似ている。特に棒状のコンクリート板の上に乗っかった3個のキューブが如何にもそれっぽい。それにしては貧相な造りだ。


一つのキューブに狙いを定めてズームした。
目測で30cmサイズの立方体だ。側面にコース番号などは何も描かれていなかった。造りかけの何かのようでもある。


正直な話、私は多くの目撃者が伝えたこの構造物の正体について懐疑的に感じた。
プールの飛び込み台と考えるには無理があるのでは…
「どうして溜め池の中にプールが?」という意見は一理あるし考慮すべき問題なのだが、それを後回しにしても構造的に奇妙だ。これがプールの飛び込み台とするなら、プール本体の外枠部分が存在しなければならない。外枠を造らず池全体をプールとして飛び込み台だけ設置したと仮定しても、実際に使うならあのキューブの上に立つために陸地か他の場所から歩いて来なければならない。そういった構造部分が見当たらないのである。

せめてもうちょっと安全かつ草木の心配をせずに眺められる場所はないだろうか…
私がこの場所へ来て既に数分が経過している。その間、民家の方はずっと掃き掃除をなさっているらしく竹箒が地面を撫でる音が聞こえていた。退去を命じられることがないなら、別の場所から眺められないかもうちょっとお邪魔させていただきたい…
そう思って毛虫が心配されるフジの木から一旦離れてもう少し民家の方へ歩いてみた。

こっちの方が安全だ。
コンクリート塊からは遠ざかるが足元に不安がない。


自転車はそのままにして歩いて接近した。


護岸部分を撮影。どう見ても使い古しの電柱らしい。昇降用のボルトが取り付けられる穴が等間隔に空いている。
こんなものが護岸材料を造れるほど大量に置かれていることも変だ。もっとも今観察しているコンクリート塊との関連性はないと思われるが…


この場所は一対のコンクリート塊がちょうど縦方向に眺められる位置だった。


対岸側にあるコンクリート塊も同じ位岸辺から離して造られている。しかし岸辺まで原生林状態で接近はここ以上に困難だろう。


カメラに収まる範囲までズーム。


何度も来れる場所ではないと思ったので、撮り直しせずに済むよういろいろなアングルから多数枚撮影しておいた。

進入路から民家の方を撮影している。 この奥の住民に話を聞けば何か情報が得られるかも知れない…
直接写り込まないようにアングルを考慮している


住民は私に背中を向ける形で庭の落ち葉を掃いていた。これほど長時間ここでカメラを構えていて何も言われないのだから、撮影程度なら来ても問題ない場所なのだろう…それならむしろ話を伺ってみたい。決定的な情報をお持ちかも知れないのだ。
カメラを構えつつ少しずつ庭先の方へ歩み寄った。

木々の間から池を撮影している。
実はゼスチャーだ。こうしている間に呼び止められても溜め池の写真を撮っていると言い訳が効く…


私に背中を向けた状態だったのでかなり近づいてもすぐには気付いていただけなかった。声が届くと思われる距離まで近づいた上で呼びかけた。
すみませーん…
スミマセーン…
すぃませぇーんっ
振り返って手を休めたその方にこう切り出した。
「市内の溜め池の写真を撮っている者です。ちょっとお尋ねしたいことがあるんですが…」

== 聞き取り調査中... ==

多くを尋ねることができず1分以下の対話だった。個人情報の兼ね合いもあるので細々としたことは省略して、この場所にお住まいの方は割と最近越して来られたそうだ。庭先に営業車両らしきバンが停まっていた。

この場所で長く暮らしているのではないため詳しいことは分からないという前置きで、岸辺から近い位置に見えるコンクリート構造物は、昔のプールの飛び込み台の一部だったと人づてに聞いているという回答だった。また、古原田上池の読み方はもちろん溜め池の名称も知らないと答えられた。池の名前はともかく、岸辺のあの遺構はかなり目立つため「あれは何でしょう?」の如く近所の方に尋ねられたのかも知れない。

それ以上の情報は得られなかったし現地でも他のアングルでの写真は撮れなかった。水位が下がればあるいはあのコンクリート全体が水上に現れるのだろうか…いや、恐らく水位が下がっても池の中に降りるのは多分無理だろう。護岸は垂直壁で降りられそうな場所が何処にも見つからなかった。

国道まで自転車を押し歩きつつあの正体が何であるかをあれこれ考えた。


解明すべき主要な問題は2つ、何のために造られたものかと、いつ頃のものだろうかという点だ。
陸上からの目撃あるいは池にボートを浮かべて眺めた人の目撃談によれば、一様に「プールの飛び込み台のようなもの」と表現していた。その妥当性はここに掲載した写真で理解されるだろう。

しかし…自分としては未だ手放しで飛び込み台と断定していいものかという気持ちがあった。昔のプール飛び込み台の遺構と考えるには些か納得いかない点がいくつかあったからである。
まあ、本日の踏査はまだ始まったばかりだ。帰りに時間がとれれば、もう一度堰堤の方へ寄ってみることとして次の訪問地を目指して国道筋を北へ向かった。

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この後、東岐波地区を広範囲に渡って踏査し、帰りに堰堤からの写真を撮るために古原田上池を再訪した。
続編として記載し、そこで記事を書いている現時点での考えをまとめておこうと思う。

(「古原田上池【3】」へ続く)
出典および編集追記:

1.「地理院地図 - 1974〜1978年版航空映像

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