常盤池・ながしゃくり

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記事公開日:2015/3/31
最終編集日:2022/3/20
常盤池におけるながしゃくりとは、古地図に記載されている主要な7つの入り江の一つで、県営常盤用水路の終点地として知られる。
写真は常盤用水路の注入口上からの撮影。


入り江の先端部分をポイントしている位置図である。


常盤溜井之略図にもその名称が記載されている。
画像は旧郷土資料館に展示されていたパネルの接写画像の一部分。


常盤溜井之略図でのながしゃくりは些か屈曲が誇張されてはいるが、その特徴をよくとらえている。入江の先端部から常盤池本体までは細長い水路のようになっており、途中で屈曲している。このため入江の先端からは直接常盤池全体は見えない。

常盤用水路の注水口がある入り江として知られる。灌漑用水需要期には現在でも末信潮止井堰より末信ポンプ場で汲み上げられ、厚東川の水が自然流下している。園路の端に近代化産業遺産認定プレートが設置されている。


常盤池に流入する自然河川は殆どなく、黒岩山の南側裾野からの流入量は限定される。現在では常盤池の水の大半は常盤用水路経由の厚東川由来と考えられる。

周遊園路と常盤用水路との交点はボックスカルバートが埋設されている。これは平成期に入って周遊園路を整備したときの施工と思われる。それ以前がどのような状態だったかは分からない。


ながしゃくりは常盤池にある7つの入り江の中でもっとも細長く幅が狭い。入り江の先端からにしめの鼻まで延長は500m程度ありながら入り江の末端部分でも幅が100m以下である。幅が狭いため水深も浅く、低水位時には先端から数十メートルが干上がり川のようになる。


常盤用水路による工業用水の流れ込みがあるため、入江の先端付近から両岸にかけて角度の浅い人工的石積みで補強されている。

入り江の左岸は途中まで枝線が延びているが、行き止まりになっているのは高畑の入り江左岸と似ている。


にしめの鼻に至る古道はこの途中から山手に向かう形になる。
入り江の両岸とも土質は殆ど礫質土ないしは真砂土系粘性土で、露岩が殆ど存在しない。このため水位上昇で浸食を受けやすい。右岸には浅い別の入り江があったようだが、護岸整備により原型を失っている。この小さな副次的入江は明治期の絵図にも記載されている。

入江の屈曲点を過ぎることで周遊園路から常盤池の中程までを見渡せるようになる。


右岸に沿って周遊園路が通じているので汀付近および対岸の視認は容易である。他方、左岸自体にはにしめの鼻に到達する道以外なく、汀への接近は常盤池の水位が低いときでも困難である。
《 アクセス 》
周遊園路が通じているので徒歩なら常盤スポーツ広場駐車場に車を停めて容易に到達できる。ただし園路は自転車の乗り入れ通行は禁止されているので、自転車に乗って到達できる別経路は少ない。市道常盤公園開片倉線市道開黒岩線より地区道を経由し、常盤用水路の刻む深い沢の途中に出て薬草園付近に到達する経路がある。
《 Googleストリートビュー 》
常盤公園の周遊園路は主要なルートについて採取されている。
映像はながしゃくり付近。

東側の入江 東側の入江に移動 西側の入江に移動 西側の入江
金吹楢原

《 地名としてのながしゃくりについて 》
常盤池の入江としてはもっぱら平かな表記されるが、小字としては長尺り(ながしゃくり・ながじゃくり[1]と漢字表記される。派生小字として南長尺りがあり、入江のながしゃくりが接する地点の小字である。小字としての長尺りは南長尺りの北側内陸部にあって常盤池には接していない。

このことにより入り江の名称「ながしゃくり」は常盤池の湛水によって現れた細長い外観からではなく、常盤池以前の細長い谷地に由来すると推測される。もし入り江由来なら、現在の常盤用水路の吐口がある入り江先端周辺が字長尺りとなり、内陸部にある分化した小字は北長尺りとなっていただろう。

読みとしても表記としても「ながしゃくり」は特異な地名であり、市内の他の場所での同じ地名は見当たらない。しかし市外まで離れるが、秋吉台に「ながじゃくり」という比較的大きなドリーネがあって国土地理院の地図にも名称が記載されている。


両者に共通することとして、やや細長い楕円状にえぐれた地形という点がある。現在では殆ど使われない語「しゃくる」という動詞は、中が窪むように削ることという意味であることが指摘された。[2]細長い谷地にしろドリーネにしろ、抉りとられたような地形に由来すると考えるのが妥当だろう。釣りのとき竿をたぐり寄せるときの動作や、幼児などが呼吸を反復して行う「泣きじゃくる」のような動作との類似が考えられる。

外観から命名するにしては、それほど極端に変わった地形とは思われない。それでも他に同名または類似する地名が観測されないことから、動詞を元にした命名法という地域性があるのかも知れない。実際、近接して西側には「岩がめりこんだ」ことに由来すると思われる岩免り(いわのめり)という小字名が知られる。
なめら岩に由来するものかも知れない

現在のところ長尺りを明示した構造物などは見つかっていない。字長尺りの場所は住居表示済みである現在の開4丁目に相当するので、字長尺りの書かれたものを現地から探すことは不可能と思われる。
出典および編集追記:

1.「山口県地名明細書」では「ながゃくり」と記載されている。

2.「FBタイムライン|ながしゃくりとは何だろう」の読者コメントによる。

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