常盤池・水没建築ブロック【3】

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現地踏査日:2010/11/14
記事公開日:2012/1/12
(「常盤池・水没建築ブロック【2】」の続き)

まとまった雨の日が少ないせいか、湖や溜め池の水位が軒並み下がっている。10月中旬に小野を訪れたとき、普段は国道490号から見える島まで歩いて行けたし、 同じ時期に訪れた小羽山の蛇瀬池では、前回踏査したときより更に1m近く水位が下がっていることが分かった。

常盤池は流入する主要な河川がないので水位の低下はもっと進んでいるかも知れない…
ただし常盤用水路経由で厚東川の水を汲み上げることができるのでよほど深刻な渇水に見舞われない限り常盤池の底まで干上がることはないはず

この連想の過程で、あの未解決だった竪穴の存在を思い出した。
常盤池の水位が低ければ、竪穴の水面下に隠れていた部分が見えるかも知れない。
この日の午後、あの物件が最もよく見える前回訪れた場所へ行ってみた。

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高専グランドには車が沢山停まっていた。文化祭が開催されていて、来客用駐車場として開放しているようだ。


裏門は駐車場入口になっていて門扉が開かれていた。その気になれば自転車での進入もできたが、入口には受付の学生が椅子に座っていたので自重した。どのみち入ったところで、グラウンドと池の境にある木で見えないだろう。
後から思えば接近可能な経路だけでも偵察しておけば良かった

市道常盤公園開片倉線を少し進んだところに、防球ネットの裏側へ出られそうな最有力経路がある。このフェンスの裏側だ。ここを伝って進めるものなら恐らくあの護岸まで行くことができると思うのだが…


ここからの進攻も自重し、前回コッソリと訪れたあるアパートの駐車場に向かった。
現地への行き方は、前回の記事に書いているので省略…途中の地区道からも常盤池が見え隠れしており、その時点で相当に水位が低そうなことが窺えた。


前回見たのとは違う素顔を見せてくれるのでは…

その予想はズバリ的中した。駐車場から例の建築ブロック積みの竪穴が見えていたのだ。


確かに水位が低い。
護岸の下まで水位が下がっており、今まで見えなかった暗渠も完全に姿を現していた。


前回、天端部分だけが見えていた建築ブロックの竪穴。
意外にも かなり高い塔のようである。


高専グラウンドの護岸からの距離は精々20m程度だろう。だから私はこの近辺の水深は精々2m程度で、十分に水位が下がれば建築ブロックの下部構造が現れると考えていた。その構造を見ればこの竪穴の正体が何であるか推測できるかも知れない…

しかし遠目にも人の背丈以上に水位が下がっているのに、なおも謎の竪穴は同じ構造を保ちつつ塔のように聳えていた。
竪穴の外部には余計なものは付属しておらず、大きな井戸のようである。全くわけが分からない。


最大限にズーム撮影。
建築ブロック9段程度が湖面の上に現れている。


池の水位低下に連動して、内部の水も下がっているように思える。


標準的な建築ブロックの高さは20cmなので、水上に現れている部分だけで既に2m近くある。
水面下にあとどの位隠れているかは想像がつかない…このあたりは意外に水深があるのかも知れない。

もう一つの気になる暗渠。
どう見ても高専グラウンドの真下を通っている。今回は管渠全体のみならず、その手前の岸辺が現れるまで水位が下がっていた。


高専グラウンドの防球ネットと護岸は2段構造になっている。ネットの下にブロック塀があり、雑木が目立つ平場の下に護岸がある。
後で気づいたのだがよく見ると左側に護岸を降りる階段状のものがある


ズーム撮影。
前回見たときは半分程度水没していた暗渠の直径は1m以上ありそうだ。
水は殆ど流れ出ていないので、今は使われず閉塞しているのではなかろうか。


ズーム撮影の限界。
護岸の高さは人の背丈程度あり、この場所から降りる階段などはない。この高さなら飛び降りることはできても護岸を上がり直すことは不可能。
物凄く気になるけれども安全面から考えてここへ向かうことは多分ないと思う…


これだけの写真を収めて退散した。

期待通り、常盤池の水位は人の背丈相当に下がっていた。そして竪穴は水上にその姿を現していた。それでいながら、参考になる部分が現れないのでなおもこの竪穴の正体は不明なままだ。
今のところ分かっているのは、次の諸々の特性である。
(1) 2m×2mの建築ブロック積み。
(2) 高さは少なくとも2m以上。
(3) 昭和40年代後半から今の状態。
この建築ブロック積みが何の目的でここへ造られたのか、勝手に推理してみた。

a.【水位観測関連の設備】
あの場所にボートを接岸し、常盤池の水位観測や湖底の試料採取などを行っている?

b.【鳥類・魚類の観察関連の設備】
常盤池で管理されている生物に餌をやったり個体を呼び寄せるための場所?

c.【護岸工事に関わる仮設構造物】
護岸工事で必要となったコンクリートのバッチャープラント跡?

d.【湖底に眠る遺構を保護するための囲い】
かつて常盤池が干上がったとき発見された炭生(タブ)などが失われないように保護するための構造物?

e.【余水吐関連】
常盤池の水位が一定以上になったとき用水を排出するための余水吐?

a.とb.は恐らく違うと思う。場所が高専や山口大学に近いということもあり、最初は学術目的で造られた設備を連想した。しかし水位が上昇すれば、この建築ブロック積みは間違いなく天端まで水没する。この目的で設置されたものなら、水位が上がっても機能するような高さに造る筈だ。
底部の土質調査などで資料採取した跡ならあり得るかも知れない

もしc.なら、このブロック積みは高専グラウンドのコンクリート護岸を造ったときと同時期のものと思う。広範囲に池を締め切り、護岸工事が行われている間は陸地状態で、資材庫や締め切られた内側の排水ポンプ場だった可能性がある。ただ、その場合、ブロック積みを解体せずそのまま常盤池の中に放置するものかどうか分からない。

d.は可能性としてはあり得ると思う。実際、常盤原はかつて石炭を産出し、人々が住まう地だった歴史がある。しかし相当に長期間水面下に眠っていたものが、水位低下した位で当時の炭生(タブ)跡が目に見て分かる形で姿を現すのかという疑問は残る。

e.はその形状からいわゆる「ダム穴」を想起させる。実際、新都市にある長谷池には池の端に正方形の開口部を持つ余水吐が存在する。
しかし余水吐にしては規模が小さすぎるし、何よりもここから用水を取り出す経路は存在しない筈である。

ここから先はどう足掻いても真相の究明は不可能に思える。今まで何冊か常盤池関連の書籍を読んだが、昭和時代になってからの構造物であるこの竪穴に言及した資料には行き当たらなかった。

もはや最後の手段に訴える以外ない。
常盤公園活性化推進室あてにメールで問い合わせよう…
常盤公園活性化推進室には、以前ハクチョウの奇妙な行動の件について質問したことがあった。それ故にメールで質問することに関してさほど抵抗感はなかった。
今回は竪穴の件と、切貫より流下する水路について質問してみた。このうち本件に係る部分を引用する。
常盤池の湖面、高専グラウンドの裏手あたりに2m×2mの建築ブロックで造られた塔のようなものが見えます。【写真1】


これは一体何でしょうか?

以前はてっぺんだけ僅かに顔を出している状態でしたが、最近は雨が少なく水位が下がっているために、塔のように顔を出しています。

過去の航空映像で調べたところ、昭和40年代後半には既にこの場所に見えており、昭和30〜40年代に造られた何かということしか分かりません。
他にも湖上に鉄棒のようなものが突き出て見える場所もあり、気になっています。
このメール提出後、数日して次のような回答を頂いた:
常盤公園活性化推進室のHです。
ご連絡が遅くなりまして、申し訳ございません。

お問い合わせの件についてですが、常盤池に見える建築ブロック積みの塔については、関係者にいろいろとあたってみているところですが、これが何かを知っている者が見つからない状況です。
引き続き調査しますので、今しばらくお時間をいただきたいと思います。

2番目の質問に対する回答…省略する

中途な回答となりましたが、あまりお待たせしても申し訳ありませんので、 まずは、現段階での報告とさせていただきます。
残念ながら、その後追加の情報をメールで頂けることなく現在に至っている。
「やはりそうなってしまったか…」という感じがあった。

あまりに年月が経っているものの、かと言って非常に昔から存在した由緒ある建造物というものでもない。そのことが正体の解明を難しくしていた。
昭和の中期、常盤池を整備し始めた頃に何かの目的をもって造ったものの、中途半端に古い時期であることが災いして関連資料が遺されていないらしい。そして気が付けば、今や殆ど誰も情報を持ち合わせていない遺構になってしまっていた。
高専に尋ねれば分かるだろうか…グラウンド整備工事に関連するものでない限り多分無理だろう

今は水位が戻っているかも知れないが、建築ブロック積みは間違いなく今もそこにある。再び水位が低下すれば、誰の目にも明らかな位に巨大なブロック積みが出現する。それほど目立つ遺構でありながら、常盤公園のすべてを掌握する中枢部ですら、常盤池の水上に見えているものの正体が分からない…という状況なのだ。

ここから先は、よほど決定的な回答がもたらされない限り、若干の情報追加ができる程度で、解決に至るまでは本編を目にした読者からの情報提供を待つ以外ないだろう。
関連する情報をお持ちの方がいらっしゃいましたら宜しくお願いします[1]

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低水位期に汀へ接近し、これまでにない至近距離から本件の撮影に成功したときの状況を続編で案内する。

(「常盤池・水没建築ブロック【4】」に続く)
出典および編集追記:

1. その後読者からの情報により、本件の近くに存在する水没コンクリート塊と合わせてその正体がほぼ解明された。詳細はいずれ総括記事などで追記する。

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