常盤池・陸繋島【2】

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(「常盤池・陸繋島【1】」の続き)

念願かなって古地図にも描かれていた陸繋島と砂州の存在を確認することができた。今や島は目の前だ。しかし陸繋砂州は水上に現れてまだ期間が経っていないらしく、足元があまりにも緩くてハマる危険があった。
テーマ踏査では「いちかばちか」の高度に確率依存な手法に頼るのは禁じ手だから、上陸するなら安全に進攻できる方法を考えなければならない。

背丈近くまで緩い泥濘が溜まっていて踏み込めば一巻の終わり…というおぞましい事態が頭を過ぎるが、その確率は極めて低い。部分的に低い窪地が生じても永い年月が経てば自然に埋められるものだ。ただ、広範囲にわたって膝下まではまる泥濘という可能性は有り得るし、島へ向かうどの経路もそうだったら潔く諦める以外ない。

何とか無傷であの島へ渡り戻って来るべき課題をこなすために、もっとも素朴で簡単な方法を思いついた。
土木工事を執り行う!
征服フラグ代わりに持っていた木の枝がヒントになった。足元が不安な場所に木の枝を敷いてその上を渡れば、よほど軟弱な地面でない限り体重が分散されて通れるようになるのでは…
前近代的と思われるが圃場の水路向け基礎では梯子胴木が同様の目的に施工される

試しにその一本を地面に置いてちょっと踏んでみた。ただちに枝はズブズブと泥濘に埋もれたが、一定の深さに沈んだところで持ち堪えた。


木の枝は汀へ大量に打ち寄せられていたので材料には事欠かなかった。汀と現地を何度か往復して”木の枝桟橋”を延伸させた。

幸い深くはまり込む場所はごく短い区間だった。満遍なく枝を踏みつけて幾度かの往復に耐えられる強度を確認した。
傍に転がっているのは常盤公園のイベントでもらった景品のラップ…作業中にカバンから落下した


自分一人が安全に往復できれば足りるので、足の下を支える必要最小限だけ敷き詰めた。現状に手を加えることになるが、木の枝は元から汀に打ち寄せられていた自然のものだから問題ないだろう。

極めて簡素だが、島まで渡れる木の枝桟橋が出来上がった。
目立つ場所なので対岸あたりから作業工程を目撃されていたかも知れない…


枝の上を歩く限り足元がはまる心配のないことを確認した。砂州から先の島は若干高くなっており、足元もしっかりしていて桟橋は必要なかった。
今度こそ、あの島へ到達できる!
再び”征服フラグ”代わりの木の枝を持って桟橋を渡った。踏み込めば若干の水気が上がってくる場所もあったが、かんじき効果をもたらす枝のお陰でスニーカーでも問題なかった。

島に「上陸」して最初に接近したのは、一番気になっていたこの物体だった。

やはり、自然の木の根だった。


どう見ても完全に枯れており、埋没林のような状態になって相当期間経っているらしかった。
先端が尖っているのは、枯れてしまった後に上部が折れてなくなったからのようだ。


触った感じでは表面が乾ききっていて極めて堅かった。髄の部分は消失し皮の部分だけが残っている。しかし生前は地中深くまで根を下ろしていたらしく、多少撓むだけで引き抜きにはまったく動じなかった。

木の枝と周囲の地面の様子。
粘土の混じった真砂土が堆積しているような感じだ。


木の根もこの場所で生き存えようと、懸命に根を伸ばしていたことが分かる。一体いつ頃のものだろうか…まさか常盤池築造の時代まで遡るとも思えないので、かつて水位が充分低かったときに根付き、水没という試練に見舞われ立ち枯れてしまったのだろう。
ざっと見渡してこのような枯れ木の残骸が4ヶ所あった。

島の先端に向かって歩いた。
足元は堅い粘土状で、大気に晒されて時間が経っていた。しかし内部に若干の水分を捕まえているらしく完全には乾ききっていない。


足元がはまる心配はないものの、見るからに滑りそうな外観だった。踏みつけた感触からして、もし水に浸っていたなら上を歩くともの凄く滑りそうだ。
残念ながら、昔を偲ばせる歴史的人工物はまったく見つけられなかった。最も近い本土の岬からも100m程度離れているせいか、空き缶やゴミなどもいっさい流れ着いていなかった。地面のすべてが粘土の塊とそれが砕けて生じた粒子の細かなシルトのみで、砂浜なら何処にでもありそうな石つぶてすら見あたらない。もし島が空中に露出されたまま長期間経ち完全に乾いたなら、風が吹くともの凄い砂埃が舞うのでは…

島は池に向かって張り出している部分が一番高い。現水位から50cmくらい大気中に突き出ていた。
この場所は砂が運ばれる流れはないらしく、粘土の塊が部分的に刻まれて異様な形状を呈していた。


ここからは3月踏査時にも目撃していたあの浮きが近い。
多分もう使われていないだろう。何のために設置されていたものか見当もつかない。
浮きの付近の水深は間違いなく人の背丈を超えているだろう


島の突端から本土を振り返って眺めている。
潮の引いた海岸のように見えて、まったくそれとは異なる光景だ。


足元の奇妙な粘土塊。これが露岩なら干潮の海辺でも普通に見られるだろうが、すべて堅い粘土なのだ。砂州の部分と島とでは地面の色も形状も著しく異なっている。
粘土は岩ほど硬くはなく指先でも若干削り取れた


写真でもある程度は伝わると思う…何とも非現実的で、余所の惑星の地表を思わせるものがある。普通の山野ではまずお目にかかれない地形だ。常時水に洗われれば何処でもこのようになるのだろうか…

滑りそうなリスクを覚悟で、十分注意して汀に接近してみた。足の裏に伝わる感覚が異なり、斜めに足を差し出せば接地面が滑るのを感じた。
粘土の塊は緩やかな勾配のまま水中に消えていた。


汀付近の粘土は水分が供給されるせいか、原始的な苔らしきものが付着している。
それ以外にこの島には生命体はもちろん痕跡さえも観られなかった。本当に火星の表面のようだ。


雨が降るまでは大丈夫だが、いつも容易に来られる場所であり続けることはない。
島の突端から連続パノラマ撮影した。手抜きだが並べて貼っておこう。


連続的に観られるように動画でも撮影しておいた。

[再生時間: 44秒]


さて…
二度目があるかどうかも分からない場所だ。できることなら上陸記念を遺したい。

そこで私が最初に着手しようとした行為、思いとどまって変更したその方法とは…

(「常盤池・陸繋島【3】」へ続く)

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