宇部坂上池【2】

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(「宇部坂上池【1】」の続き)

ほぼ間違いなく上池に到達できたことを確信させたのは、盛土の下に埋設されたスパイラル管だった。


中を覗き込む。
池側の明かりが見える。登山道と交錯しないように管を布設して土を被せたようだ。


管の中はちょろちょろと水が流れていて、コンクリートで固定された半割状態のスパイラル管から沢へ導かれていた。この管だけで池の余剰水を排出しているのだろうか。今日のような晴天ならともかく大雨になったときこのスパイラル管だけで排水が間に合うのだろうか…

そんな悩みは置いといて池の方へ向かった。
余水吐の真上と思われる場所に何やら墓石のようなものが見える。


四角いコンクリート柱だった。まだ欠けた部分がなく最近打設されたように思える。
これは何だろう?


コンクリート柱の下には古い石材が見えている。恐らく元の余水吐だろう。そうなれば堰板を固定するための柱のように思えるが、それにしては形が変だ。堰板を固定する部分がない。普通は溜め池側の柱の角を切り欠いて堰板が当てられるようになっている。[1]側面を見ても何も文字などはない。ちょっと意味が分からない。

さて、長々と引っ張ってきたが上池の全容を4分割でお届けしよう。
余水吐を背にして逆時計回りに撮影している。


なかなかに美しい溜め池だ。時刻は午後3時半少し前で周囲の山が池へ影を伸ばしているので写真では若干暗くなっている。何より嬉しいことに下池と異なりすぐ汀まで接近できた。有刺鉄線付きフェンスに囲まれた如何にも人工的な下池とは印象が大きく異なる。やはり危険とは言っても汀まで自由に近づける開放された溜め池であって欲しい。子どもが立ち寄って危険が予測される街中ならまだしも、深山の溜め池までネットフェンスでガッチリ囲まれ撮影するにも網目越し…なんてのは如何にも興ざめだ。

汀へ近づいてみた。遠浅のようで水の色がグラデーションになっている。


富栄養化はそれほど進んでいないらしく浅瀬に僅かながら藻のような水生植物がみられるだけである。
魚類などの姿は見受けられなかった。


謎のコンクリート柱がある元の余水吐は観音岳へ向かう別の登山道との交点になっていて、その道の先に何か看板らしきものが見える。
今まで歩いてきた道よりは往来する人が多いのか土肌が露出していた。


登山者への案内向けではなく保安林内使用許可済標識だった。
新しそうに見えて3年前に設置されたようだ。


使用許可とあるが、何を「使用」するのかちょっとよく分からない。溜め池が市の管理で区域内の保安林は県農林の管轄ということで、溜め池の余水吐を造るなどの現地改変にあたって許可が必要だったのだろうか。
その内容はともかく標示板には大字末信字宇部坂という所在地が記載されていた。末信地区は市街部のような区画整理や住居表示変更が及んでいないから、現在でも大字末信に続く地先表示となる。ただし多くの場合は字××とは書かずに番地を記載するため、小字表記が表に現れる場面は少なくなっている。それでも開発許可行為のような不動産関連の地先表示に係るものは現在でも小字を含めた表記である。[2]

標示板を背にして撮影。
この場所は観音岳をはじめとする霜降山の山系を愉しむ山歩きコースとしてよく知られる経路である。
ちょうど今まで歩いてきた道と余水吐の上で十字路となっている。また、右側にはやや下っていく別の山道があった。[3]


観音岳へ向かう登山道に向けて宇部坂池という表示板が設置されていた。
上池と下池があるのだが、宇部坂池と言えば上池を指すらしい。


思えばこの立て札は割と最近白岩公園の入口に設置されたものと同じスタイルである。同じグループの方によるものだろう。[4]

中山観音を案内する標識もあった。
余水吐の上を通って南下する道は中山から霜降山周辺を縦走する主要路の一つで、白岩公園コースと呼ばれている。


この道を辿れば距離は相当あるものの勝手呼称・面河内西分岐に到達し白岩公園へ立ち寄ることもできる。もっとも自転車を留守番させていたし、道中ここまで自転車を連れて来ることも能わないので行くにしても徒歩あるのみだ。


この他にも末信方面や観音岳を案内する道標も近くに設置されていた。

当サイトには山岳山野のセクションを設置はしているものの、今のところ記事は僅少である。自転車が移動手段の主要な足となっていて自身で歩くことが少ないからだ。山歩きはそう嫌いではないものの歩くこと自体は苦手である。数年前に右脚に後遺症のでる自転車事故に遭ってからは長距離を歩いて痛みがぶり返す恐怖がある。もっとも移動に時間がかかる徒歩は自分の性分に合っていないという理由の方が大きい。それほど自転車での移動が習慣になっているからで、普通なら徒歩だろうと思えるような場所まで自転車を押し歩きしてしまうあたりによく現れている。

この標識の位置から見た上池。
視座が上がっている分だけ池の水の色がよく分かるだろう。青い空に紺碧の水の溜め池は本当に癒される。道中が退屈だっただけに、この眺めを得ただけでも来た甲斐があったと感じた。


山岳地の溜め池を訪れるなら、やはり今のような秋口の涼しい気候で青空が広がる休日だ。長距離を歩いても汗はサッと引くし溜め池の美しさが本当に映える。曇天では写真を撮っても今ひとつだし、雨天ならおどろおどろしいだけだろう。

自然の景観は美しいが、私の興味の対象となればそこだけにとどまらない。人工的な設置物も存在意義があり観察したくなるものである。
訪れたときから気付いていた余水吐の吸水口に近づいてみた。


いやはや、とてもシンプルである。
片仮名のコの字型にコンクリートを打設してゴミが入らないよう金網が設置されているだけだ。
先ほどの保安林内に規定された工作物とはこれを含むのだろう


下池では堰堤部に県仕様の張ブロックを敷き詰めて余水吐から走水路まで全面的にコンクリート三面張りとなっている。方や上池にみられる工作物はこの桝とスパイラル管くらいのものだ。
この違いはすぐに想像がついた。保安林内で工作物設置に許可が要ることの他に、上池までこういった資材を搬入する四輪の進攻可能な経路がないからだ。即ち吸水桝を造るのに必要な資材を人力で搬入しなければならない。資材のみならず型枠や掘削用具、均しに使う金鏝など必要なものがいろいろあるので大がかりなものは造れない。
長物のスパイラル管を運んで据え付けるのは大変だっただろう…

この余水吐と管の高さが固定されていて少しずつ水が流れ出ているので、上池の水位が今以上に高くなることは有り得ないわけだ。


元の余水吐は白岩公園コースが横切る高さにあった。スパイラル管はその下を通っているので、昔の満水時は1mくらい高い水位だったと想像される。

ここから時計回りに汀を辿ってみた。先に樋門らしきものが見えていたからだ。

(「宇部坂上池【3】」へ続く)
出典および編集追記:

1. 蛇瀬池の余水吐にも堰板を設置していたと思われる同様の石柱が今も遺っている。

2. 既に住居表示変更が行われている市街部では「××町○丁目」のように一般的に使われる住居表示に一致するので、古い小字が表に出てくる機会は激減する。

3. この道をたどることで下池へ出られるのだった。しかし現地では下池の方へ行くことについてまるで頭になかった。距離が遠いのではと考えたこと、前回堰堤付近が藪だらけだったことによる。地図ではこの場所から100m程度も離れていないようだ。

4. 霜降山の登山道整備に関わるグループの方によるもので、道標や経路の維持管理に携わっていらっしゃるようである。

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