宇部坂上池【3】

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(「宇部坂上池【2】」の続き)

余水吐のある側の汀に池底へ向かって伸びる手摺りの存在に気付いていた。
あの角度で伸びる手摺りと言えばあれしかない。


水位が上限一杯なため汀沿いには容易に近づけなかった。
土の斜面を歩けなくもなかったが、頼りになる木の枝がない。この辺りはいきなり深くなっているようでさすがに無理して接近する気にはなれなかった。


限界地点からズーム撮影した。
如何にも用水を取り出す樋管で、蓋をされたプラスチック製の管が見える。先にみたような理由で今以上に水位が上がることはない。手摺りが水没して錆びていた。


即ち樋管は余水吐とはまるっきり異なる場所にある。
拡大した地図では樋管のある位置はこの辺りになろうかと思う。


この地図から上池の如何にも奇妙な構造が少しばかり見えてくる。
かつてはどっちの沢に流れていたの?
既に見たように余水吐は池の西側についている。しかし樋管はそれとは直角の位置、北側に面している。北側には前回訪れた下池があるので、樋管を通じて下池へ水を供給していると思う。しかし余剰水は西側の異なる沢へ流れていくという奇妙な構造になっている。即ち、同じ溜め池の水が異なる沢へ送り出されることが起こり得る。最終的に厚東川へ流れ込むのは同じとしてもこのような性質を持つ市内の溜め池は少ないと思う。[1]

等高線を見る限りでは西側も北側も同程度の高さだ。自然な状態で異なる2つの沢へ枝分かれして流下することはまず有り得ない。水量が優勢で土質の柔らかな方が大きく削られ、そこから上位の水系を「争奪」してしまうものである。かつてどうだったかは溜め池以前の状態を調べなければ分からないが、小さな河川争奪地形と言うことができるだろう。

一旦余水吐のところまで引き返して今度は逆時計回りに汀を進んでみた。


西側の汀は石積みになっていた。
近くには同様のやや大きめな岩が転がっていた。こっちの方が人為的に造られた堰堤のような気がする。樋管のあった側は自然な土の斜面だった。


現状は溜め池の西側と北側のどちらも池の縁を登山道が通っている。どちらか一方が地山で他方が人為的に築かれた堰堤だ。現地を見ただけでの予想だが、溜め池以前の自然状態では石積み構造となっているこちら側が沢地だったのではないかと思う。元々は地山ではないだけに強度が弱い筈で、補強するために石積みにしたのではないだろうか。近くに転がっている大きめの岩は、もしかすると石積み材料として砕かれる前のものだろう。

汀に沿って歩くことはこちら側も無理だ。石積みのすぐ下まで水が押し寄せていて靴を濡らさず進める場所がない。


これが堰堤なのか、単に溜め池の縁を補強するために石積みを施したのかは分からない。
石積みは間知石ではなく現地で得られる真砂系の花崗岩を割って一定角度で積み上げている。


足元を濡らさず到達できる地点からズームで池の南側奥を窺った。
登山道を経由したら到達できるのだろう。しかしそうすると自転車を置いた場所から離れてしまうので今回は見送った。


最後に観察地点からもっとも遠い対岸を撮影する。
来たときからとても目立つ大岩が汀に転がっているのに気付いていた。


ズーム撮影する。
岩の側面に水の跡がついている。現在はそこまで水位が上昇する前に溢れ出るので、昔の余水吐が高かったときにできたものだろう。


この岩はとても目立つが何か名前があるかは分からない。しかし登山時のキャンプなどでこの岩から池へ飛び込んで泳いだという方の話を聞いている。[2]
岩の超ズーム画像はこちら

さて、そろそろ帰ろうか。アジトを遅く出てしまったので日が傾く前に戻らなければならない。

来た道へ引き返すとき例のコンクリート柱のすぐ横に古いコンクリート壁を見つけた。
やはり元の余水吐だったらしい。


余水吐の袖壁部分は現在の登山道に並行して沢の途中まで伸びていた。
かつては流出量の多いときは往路で歩いてきた登山道部分を洗い流しにしていたのかも知れない。
そうであれば白岩公園コースが横切るこの場所に丸太でも渡していたのだろうか


スパイラル管から導かれた余剰水は、コンクリートで固定された半割りの管を伝って沢へ落ちていた。
落差は5m以上あって管は途中で折れ曲がっている。何だか結構アバウトな造りのようにも思える。当初はこんな状態ではなかっただろう。


管の終わる部分から下流側は縁が整った溝のように見える。多分石積みだろう。

確認するためにかなり苦労して斜面を降りた。
やはり石積みになっていた。


何とか頑張って身を乗り出し、カメラを保持した左手を大きく伸ばして撮影している。
余水吐から出た水を流すために昔造ったのが確実だろう。


この撮影を行うには石積みの天端まで急斜面を下る必要があった。手がかりとなる幹が少なく木の葉で足元が危うかった。再び登り直そうとするとき一度かなり盛大に滑って体勢を立て直すのに苦労した。

何とか元の道まで復帰したものの、足早に歩いていてそれよりも酷い災難に見舞われた。
痛エッ!!
そいつのせいで被っていた帽子を吹き飛ばされた。


犯人はこいつだった。来るときはよく見えていたので充分注意していたのに、帰りは枝葉の影で見えづらくなっていたのだった。そこへかなり強かに頭を打ち付けてしまった。
アジトへ帰還してからもかなり長い間痛みが取れなかった…中身は大丈夫だ^^;

往路よりは帰路の方が当然早い。道のなりは分かっているし何よりも下り一辺倒だ。途中で見つけた気になるものも一通り撮っているので足を停める必要がない。

思い出してここだけはちょっと立ち止まって撮影した。
来るとき分岐路らしきものがあって一瞬どちらへ行くべきか迷ったという地点だ。振り返って撮影していてこの分岐で左側から歩いてきた。[15:45]


最初、右の分岐となるこっちに行きかけた。
黄色い肥料袋らしきものが幹に巻き付けられていたので何かの表示だと思ったのだ。しかし踏み跡は淡くかなり荒れていたので進攻しなかった。[3]


戻ってきた。
本格的な山歩きには短すぎるものの個人的に自転車から離れての歩行踏査としては長かったなーと感じられる距離だった。


往復して歩いた所感としては、こないだの下池に向かったあの暴力的なコンクリート坂道よりは楽だ。勾配が緩いし足元が落ち葉の絨毯状態なので膝に負担がかからない。ただし本当に山道で幅は狭いし倒木が垂れ掛かっている場所もあった。10月入りした時期だからそれほどでもなかったけど、これが2ヶ月前だったらもうちょっと藪が酷かっただろう。

勾配が程ほどなので、高低差を利用して転がっていく乗り物の特性を生かせる。
ここからは自転車に跨りそのままダァーッと坂を下った。[15:50]


市道へ出るまでは坂がかなりきついのでブレーキレバーを引き絞ってそれでも何とか乗ったまま下った。いやはや…やっぱり自転車の方が性に合っている。歩くより勝負が早いし楽だ。

今回は時間の制約で上池と下池の間の道は歩かなかった。下池には若干の未解決問題を残している。まあ、今からは涼しくなる一方だし溜め池の景観はそう短期で大きく変わりはしないから、天気が良くて余力のあるときまた訪れようと思ったのだった。
…と、ここまで書き終えた現時点では実のところ先日に上池と下池を同時に再訪している。
いくつか新しい発見があったので書き上がったなら続編として案内しようと思う。
既存の記事は書き換えず総括に反映させる予定
出典および編集追記:

1. 詳しく調べていないが東岐波にある山立石池がこの性質を満たすかも知れない。片倉に分水界があるものの周辺は田畑で正確な位置はまだ調べていない。
これは一般的な小規模溜め池に関することで、常盤池や丸山ダム湖のように工業用水や治水を目的とする規模の大きなものでは複数の取り出し口(樋門)を持つのが普通である。

2.「FB|10月19日投稿分(要ログイン)

3. 地理院地図では恐らくこの辺りだろう。
部分的に繋がっていない道のような表記がみられるので、高圧線鉄塔への索道だと思われる。

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