持世寺温泉の廃看板【1】

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現地踏査日:2011/4/10
記事公開日:2011/4/25
記事編集日:2015/3/8
情報本編および次編は、かつて地域SNSに公開されていたものを元に写真を追加して再構成されています。[1]

廃モノ要求度の高い方にお贈りします。不慣れな読者には若干おどろおどろしい記事かも…

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藪漕ぎシーズンも終了が近くなる4月のこと、アジトから遠くなって踏査機会が少なくなっていた厚東区を訪れていた。
写真は県道西岐波吉見線の持世寺付近、温泉地を過ぎて霜降山方面へ向かう途中である。今しがたこの坂をあがってきたところだ。


詳しい経緯は説明すると長くなるから省略して、私はこの辺りにあると思われる未だ明らかになっていないNo.13の候補地を探していた。


2枚上の写真で自転車を停めている後ろの竹藪にNo.13-1が見つかっている。そうなればこの県道の下を通って反対側へ抜けている筈だ…
そしてすぐ上の写真で自転車を停めて周囲を偵察したところ、それらしき枝道があった。もっともそれはかなり以前から存在を知っていて進行は自重していた。どういう訳か入口に立入禁止の札が立っていて竹垣で塞がれていたからだ。
一見何処にでもある普通の山なのに竹垣で塞ぐなどとなれば余計に怪しい。関係者以外が近寄ってくれては塩梅が悪い何かが隠れているのではと思いたくなった。

まあ、用事があるのは山の部分ではなくむしろ谷だ。そこで立入禁止の枝道がある場所を意図的に避け、腹をくくって適当なところから沢地へ降りることにした。
危険なのでオススメしません…まあ、誰もやらないよね


先に見たNo.13-1の存在位置からすれば、No.13があるならば沢地の充分に低い場所でなければならない。しかし足元の悪い沢地を歩き回っても手がかりは見つからなかった。
ダメだ…
どう思ってもここには存在しないらしい…
この沢地をずっと下った場所なのかも知れないが、それは以前に着手済みだった。沢尻から辿って相当な位置まで進んだにもかかわらず何もなく、むしろすぐ近くにあった民家のワン公がけたたましく吠えたところで撤収していた。

苦労して進攻したのだから容易に撤収はしない。もう一つ奥の沢地にあるのだろう。
次の谷地へ移るべく再び登り始める。道ではない場所だから低い場所を水が流れ削っていて足元が悪く大変な苦行だ。


沢地を脱出したところそこで視界が開け、殆ど誰も立ち入ることのなさそうな小道に出てきた。
その先には何もなさそうなこの場所には不相応に新しい設備があった。


携帯会社の電波塔だった。
(株)NTTドコモ中国・宇部吉見中継所という銘板があった。平成18年2月設置ということだから本当に最近のことだ。


先の立入禁止の札は、もしかするとこの電波塔の管理道だったのだろうと思った。今のところ、電波塔は私の中ではテーマ踏査の対象外である。まして新しいものなので特に興味を示すこともなくこの先を求めて再び小道から外れて藪に入った。
その先を少しばかり進んだときだった。
ん? 何かあるぞ?
木々が生い茂る向こうに、何かの人工物が見え隠れしている。もちろん沢地ではなく丘陵部だから求めていたNo.13ではない。

更に近づく。
何か正方形の標識らしきものが見える。それも一枚だけでなくいくつか横に並んでいるようだ。


その正体を確かめようと思った。
看板の周辺は山の斜面で日が当たるせいか特に草木の繁茂が酷く、接近には酷く労力を要した。

比較対象となるものがなるから分かりづらいが、大きさは一辺がおよそ2m程度。かなり大きい。何枚かが横に繋がった看板のようだ。


看板の向いている方は厚東川で、その更に向こうに田を挟んで山陽本線、国道2号がある。だから遠方から眺める看板ということがすぐ分かった。
何の看板だろう…

表側に回り込む。
しかしその確認および撮影は大変だった。看板のある場所から下は厚東川へ向けて急斜面になっていたからである。下手をすると川面まで身体を持って行かれかねない。


看板の支柱を持って斜面を降りようとしたとき、不意に足元がツルッと滑った。慌てて周囲の枝を掴んだ。
どうやら脱落した看板の一枚らしく、表面には大量の枯れ葉が積もっていた。そこに看板が落ちていることすら分からず踏んでしまった。

まだ健在な看板には文字が書いてあるが、近すぎる上に木々が邪魔してなかなか読み取れない。
近くの生木に身体を預け、思い切りカメラを引いた。漸く一文字ずつ漢字が読み取れた。


漢字の並びから、看板の正体が推測された。
持世寺温泉の看板だ!!


すべての文字が明瞭に読み取れたわけではなかったが「持」「世」「寺」の3つの漢字が判明するだけで該当するキーワードは他にはないと分かった。
ここから一つずつの漢字を確認することですら苦労を要する位に前面の木々が伸びていた。これでも以前は道路などから見えていたのだろうか…

看板の基礎部分。
支柱は錆び付いているものの、基礎玉コンクリートは健在だった。同様の基礎が横並びでいくつか存在していた。


列車で旅をしていると、車窓から見える山の斜面によく看板を見ることができる。例えば新幹線の車窓からは現在でもしばしば"727化粧品"の看板が観察される。特定の企業だったり観光地の名称だったりするが、設置に費用がかかるせいか最近は新幹線向け以外のものはあまり造られなくなった感じがする。
この「持世寺温泉」とだけ書かれた看板も、恐らく昭和時代中期あたりに温泉の宣伝目的で建てられたものだろう。しかしここまで藪に包囲されれば、今では鉄道・国道の通る厚東川右岸からは見られない筈だ。車を運転するとき別に注意していないが、恐らくもう見えないだろう。

肝心のNo.13調査の方は、そこから先に沢地らしきものが見当たらず延々と藪のみが続いていたので成果は期待できないとみて引き返すことにした。

電波塔の横を通ったとき、その近くに新しいコンクリート電柱が立っているのを見つけた。
これも電波塔に電源を送るために後から建てたらしい。電柱に沿って管理道ができていた。


対岸には小さな沢地を挟んで県道が見えていた。車の往来音も聞こえる。
さっきは調査を兼ねてこの沢地を強引に渡ってきたのだ。


足元の悪い沢地を上り下りするのも大儀で、そのまま管理道を進んだ。
何処へ繋がっているかはおよそ予想はできていた。

やはりここだった。
県道から進攻しようとしたとき柵が設置され立入禁止の札が出ていたあの裏側だ。


実はこの場所はNo.13探索を始めるかなり以前から知っていた。県道から入口がつけられていながらロープが張られ、進入路の手前に立入禁止の札が立っていたのである。更に木の枝と竹を編んで作った柵があり、大したものがなさそうなのに嫌に厳重だったので逆に怪しいと睨んでいた。結局、これは工業用水道管理のためのものではなく電波塔向けの管理道らしい。
いずれにしろここから出ていけば不法侵入者丸わかりだ。他に県道まで出られる場所がないか探すことに。

そう思って柵のある反対側へ進んだところ、これはイノシシ避けだろうか…電気の通る線が張ってあった。
不用意に歩き回るのは危険だ。


どうやら腹をくくってここから脱出するしかなさそうだ。
柵はご丁寧にも二重に張られており、その横から藪をかき分ける必要があった。頑張ればどうにか出られそうだ。


やっと一つ通過し、もう一つ同様の柵が…
立入禁止と書かれた立て札の裏側が見えている。


県道は結構ひっきりなしに車が通る。入口は県道よりやや離れているので直接姿を見られることはないだろうが、それでも車の音がしなくなったタイミングを見計らって…

何とか脱出。
施錠されたフェンス門扉ではなく誰にとっても通り抜け困難なことから、設備点検に来る作業員も居ないらしい。


この日は厚東川1期工業用水道の経路探索が一つの課題だったのでそれ以上追及せず自転車の元へ戻り次のタスクへ向かった。

アジトへ帰宅した後、もしかするとあの看板の一部でも国道から見えるのではないかと思い始めた。もちろんあの藪の状態だから明瞭には見えないだろう。地図で再確認すると、このたび車を停めて自転車を降ろした厚東郵便局と下岡のT字路の中間あたりになる。国道2号のこの辺りは車で頻繁に通る区間だ。視野からかなり外れているとは言っても山手に立つ看板類くらいは気付いているものである。しかし持世寺温泉の文字は見えてはいなかった。

ほぼ2週間後、再び厚東区を訪れる機会があったので一連のタスクを終えた後、あの看板の反対側になると思われる場所まで自転車を走らせてみた。

(「持世寺温泉の廃看板【2】」へ続く)
出典および編集追記:

1. 原題「厚東の山裾にひっそりと佇む廃看板」
2011/4/25 20:45 メンバー限定公開 閲覧数393 コメント数8

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