持世寺温泉の廃看板【3】

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現地踏査日:2015/3/6
記事公開日:2015/3/10
(「持世寺温泉の廃看板【2】」の続き)

最後に本件の調査を行ってから3年近く経つ。この物件を見つけたのも元々はNo.13探索の副産物だった。そして現在なおそれは見つかっていない。
今年の3月中旬に当サイト関連初のプログラムを企画していて、終着地の持世寺温泉で食事することになっている。現地視察と共に予約を入れておく必要があったので、埴生方面への遊びの帰りに持世寺温泉へ立ち寄った。その折りにNo.13のまだ調べていない場所のチェックと看板の再撮影を考えた。あれでも状況が変わっているかも知れないと思ったので。

県道から枝道が伸びる例の場所である。
簡素な竹垣は取り除かれ、恒久的なアルミパイプのフェンス門扉に変わっていた。


フェンス門扉は施錠され、両側には隙間を埋めるためのパイプも建てられている。
まあ、後で分かるように相応な危険も潜んでいる場所なのだが…


申し訳ないが、立て札の文字は読めているし重々承知していながらここから入らせて頂く。前回みたいに立て札の見えない場所まで迂回して沢地を下り再び登り…のような姑息なことはしない。調べ事をするために必要だからと言う以外にない。その代わり中に入って大怪我をしたとか感電したなんて文句を言う積もりもないので。

内側へ入ったところ。
生えている竹の間隔がどうにかこうにかすり抜けられる程度の幅だ。お腹がつっかえる超メタボ級なおじさんだったら通れないだろう。


管理道はここから左へ伸びている。そのことは前回調査で分かっていた。この柵や道は携帯会社が造ったもので、設備への不用意な接近を避けるために立入禁止にしている。もっとも私はそこへは用事がない。調べたい場所はこの右側と電波塔の背面だ。まずは右側の方、No.13が想定される方向へ進んだ。

今や山野の王者は竹だ。人の管理の手が薄くなった山野にはたちどころに竹が入り込み蔓延る。この周辺も一面に竹林で他の在来樹が駆逐されてしまったようだ。
先の方に電線が見えている。


地面に鉄棒が打たれ、緑色の紐が二条に渡されている。紐には目立つように黄色のタグがぶら下げてあって「高電圧」「危険」「さわるな!」の文字が躍っていた。
タグのみの拡大画像はこちら


実はこのたび訪れたときこの電線のことをすっかり忘れていた。初回訪問時の記事を書くにあたって過去の写真を参照していて同様の電線が写っていることで以前からあったことに気付いた。入口のところに立入禁止の札があるのは携帯の電波塔へ近づかせない事もだが、むしろこの電線の存在による。知らずに外部の人間が山歩きで入り込み感電してしまったなどと言われても困るので、このエリアのみ立入禁止の札を出している。
電線設置の目的はイノシシ避けである。近年、イノシシの食害は本当に深刻で、元々は臆病な生物なのだが人の目がちょっと離れた隙に畑へ入り込んでは野菜を食い荒らしている。地面のミミズも好物らしく鼻で地面をほじくり返した跡が農道や畔の至る所に見受けられる。電線を張れない市道沿いなどでは侵入防止の鉄柵が延々と並んでいる。

この架線を跨ごうとして人がうっかり触れてしまったら…どうだろうか。実際はそんな強力な電気は流れていない筈である。地面へ打ち込まれた鉄棒へ直接架線が固定されているので、電気が地面へ逃げてしまう。高い電圧で流すなら碍子で絶縁するだろうが、そんな危ないものを設置はできない。触れなくても近づくだけで感電するからだ。[1]

架線を迂回する形で地形を調べた。もちろん道はない。荒れまくった竹藪の中に架線が通っているだけである。
藪の中で奇妙な点滅を発している箱のようなものを見つけた。


ズーム撮影している。常時赤いランプが点灯し、緑色のランプがずっと点滅している。
多分、柵に電気を流す管理機器だろう。


時刻は既に午後5時を回っており、3月入りしてやや日が長くなってきたとは言っても藪の中は薄暗い。先の方に現れるかどうかも分からない沢地をあてに足元の悪い中を進攻するモチベーションが保てず、ましてこんな場所をウロウロしていて万一この機器の管理をする人に目撃されたら何かイタズラしようとしているのではとあらぬ嫌疑を掛けられそうだ。
誰も近づく筈もない竹藪の中でピコピコと緑色の点滅を発する機器は、まるで赤外線探知機みたいでちょっと薄気味悪い。素直に諦めて最初の進入口まで戻った。時間も遅いことだし、例の看板だけを撮って来よう…

管理道の一番奥にある携帯電波塔。まともな道が備わっているのもここまでだ。
例の看板はこの電波塔より更に先へ進んだところにある。


最初の発見からほぼ4年経つことになる。
時期的には同じだから藪の中での見え方もそう変わってはいなかった。


左側の端に脱落したと思われる看板の一枚が落ち葉に埋もれていた。
初回発見時にはほぼ完全に埋もれていてうっかり踏み付け足を滑らせたのだった。


さて、看板を正面から撮影するのは…そう簡単ではない。
看板は山の斜面の崖っぷちに近い場所に立っており、背面は平地なのに正面側はもの凄い急斜面になっているのだ。


それでも正面から見て一番右側にある健在な看板文字が「泉」であることが分かった。
全体で何文字あるのだろうか…

一歩下がれれば視野が広がり全体を写せるのだが、仕舞いには斜面を転がり落ちてしまいそうだ。 身体を後ろへ仰け反らせて距離を稼ぎ撮影した一枚。
少なくとも「持世寺温泉」の5文字は上空に堅持されたまま元々の状態を保っていた。


何とか全部を入れようと横から撮ると前面に生い茂る樹で文字が読み取れなかった。


基礎部分のコンクリートには劣化が殆ど見られない。支柱もやや錆びているものの強度的にもまだ大丈夫のように見える。
4年前の撮影は明るさ補正が弱いカメラだったせいで不鮮明だった


しかし…持世寺温泉の5文字が揃っているなら、脱落している看板には何の文字があるのだろう。6文字以上あるとすれば単に「持世寺温泉」ではなく「持世寺温泉××」だった可能性がある。

ざっと周囲を見回した限りで脱落しているのはこの一枚だけだった。


文字を確認するために看板を起こそうと試みた。ムチャクチャ重い。枯れ葉だけではなく土砂も相当に乗ってしまっている。看板自体が大物なだけに浮いている部分を少し浮かせるのがやっとだった。

左手で看板を思い切り持ち上げ、右手で素早くその下にカメラを入れて撮影している。
これだけで何という漢字か分かるだろうか…ちょっと無理だ。


背面から撮影。看板として健在なうち一番最後の文字は「泉」なので、その後ろにまだ文字があったことになる。


では前の方は…「持」の前に文字は元からなかったらしい。
看板の後ろに控え柱があり、文字板を留める鉄骨もそこから外側には出ていない。


もしかすると「持世寺温泉××」の後ろの部分には、看板を設置した湯元名が入るのではないかと感じた。放棄状態になっているのは、持世寺温泉にあるうち現在は営業していない湯元で修復も撤去もされなかった理由が考えられる。

既に時間が遅かったのでここまでを撮影して撤収した。


まったくのお節介を承知で、この看板を再生して「持世寺温泉」という文字のみ国道から見えるようにすれば大いに宣伝効果が期待できると思う。中長距離をドライブしている他市他県の車なら、山の裾野に立つ看板を見てあそこに温泉があるらしいから寄ってみようということにもなるだろう。看板に傷みは少ないので、少し補強して前面の伸びすぎた竹や樹木を刈り取るだけで再び見えるようになる筈である。今は存在しない特定の湯元が設置したのなら復活は困難かも知れないが、看板の存在自体が忘れられて放置されているのなら復活させれば投入するコスト以上の宣伝効果が見込めると思う。

この種の看板が確実に少なくなっているなら、むしろ再生することはチャンスである。沢山ある中での同種の看板なら目立たないが、今なら逆に新鮮味をもって受け入れられるかも知れない。
出典および編集追記:

1. この種の電線はうちの親元で叔父さんが畑と里山の境に張っている。場所は覚えているので衣服が触れないよう注意して跨ぎ越している。不用意に触ったとき電気が身体を流れる経路によっては本当に危険なのも確かである。

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