厚東川1期工業用水道・隧道水位計

工業用水インデックスに戻る

現地踏査日:2013/6/6
記事編集日:2013/12/15
隧道水位計とは一般には導水路の流量を算定するために水位高を計測する機器である。ここでは厚東川1期工業用水道に設置されたものに限定して述べる。

これが実物である。写真を見るまでもなく何処に設置されているかも頭に入っている読者がごく若干名ながらいらっしゃるかも知れない。


しかしそれ以外の殆どの読者は見たことも聞いたこともないシロモノの筈だから、まずは所在位置を示す必要があるだろう。
下の地図は隧道水位計の設置場所を中心にポイントしている。


これがどういうもので、何のためのものかは写真を眺め、記事を読んでも…場合によっては現地で現物を眺めてもなお理解できないかも知れない。実のところ私にも正確にはよく分かっていないのである。

地図でポイントされた場所に行くには、まず県道小野木田線を北に向いて走る。幅員が狭まって高度を上げ始めた頃、宇部興産(株)の厚東川発電所に向かう分岐に出会う。


砂利道を進むと、流木の集積場が見えてくる。この付近は平日以外はまず車に出会う心配はないので、適当に寄せて車を停めても大丈夫だ。[1]


さて、上の写真で電柱のある山手側を見ると、その奥に何やら見慣れない鋼鉄のお地蔵様のような構造物がひっそりと立っているのが見える。


流木集積場の前からは歩いて行ける程度の距離で、適宜草刈りされているせいか夏場の接近もそれほど困難ではない。
かなり近づいたが、初めて目にする方ならなおどんな構造物なのか想像がつきにくいだろう。


そのすぐ後ろにはコンクリートの堰堤のようなものが見える。
厚東川1期導水路で、地表に現れる部分にコンクリートで巻き立てられている。


これが隧道水位計である。
企業局の管理する設置物で、見るからに古い。


導水路は上部のドーム構造部分が現れていて、すぐ先にはNo.1が見える。
ナンバーだけでは意味が分からないだろうがいずれ記事化する


水位計は隧道から若干離して設置されている。どういう構造か分からないが、単純に考えれば隧道に枝管を挿入してこの竪穴に繋げ、中にフロートを浮かせているのだろう。

この近辺では導水路は幅のやや広い沢を渡っているので、導水路部分が隧道形式で地表に露出している。導水路に関しては話すと長くなるので今は触れない。
ここは二俣瀬発電所のタービンを回した後の工業用水が隧道に入り、最初に再び地表部へ現れる場所である。自然流下で安定して流れ始める最上流の場所ということで隧道水位計を設置したのだろう。

それにしても…何ともけったいな形をしているものである。円筒状のヒューム管は分かるとして、どういう訳か円錐形の屋根を纏っている。元が円筒形なので屋根をつけるとすれば確かに円錐が最適な形だ。しかし円錐形状に板金加工するのは大変な手間だったろう。


全体が酷く錆び付いており、水色の塗装も剥げかかっていながら最近は全く塗り直された形跡がない。恐らく設置は1期導水路が造られたのと同時期と思われる。

水位計には目立った配線が観られないことから、初期の頃は定期的にこの扉を開けてフロートの位置を確認していたのだろう。それにしても南京錠の状態からして開閉された形跡がなく、完全に忘れ去られたような存在だ。


下部構造はコンクリート管の縦置きで、一部にはひびが入っていた。
右下に見えるつっかい棒のようなものは水位センサーかも知れない


山口県企業局の銘板は、中山にあるベンチュリー室やサイフォンに取り付けてあるものと同等だ。
このプレートだけは本体よりも後に取り付けられたように思える。


円錐屋根の付け根には通風口がある。
しかし内部は隧道と同レベルの水で満たされているからか、流下音は聞こえなかった。


何も撮れないだろうことを承知で、開口部にカメラを押し込み撮影してみた。
よく分からないが…スズメバチの巣らしきものが写ったのでゾッとした。


こういう存在なので、役割を想像することはできても現在は使われていないと考えるのが妥当だろう。敢えて取り壊す必要もないので放置されているものと思われる。
実際、隧道水位計は私が初めてその存在を知った4年前からまったく姿を変えていない。この周辺で何か変化があったとすれば、No.1付近にあった工業用水埋設を示す標示板が更新されたくらいのものだ。

フラッシュ撮影している。
実際の見え方はこちらの方が近い。


上流側を背にして撮影している。
導水路は足元の地面から地表部に現れている。


隧道の伸びる方に斜面を登って撮影している。
県の境界杭が見えている。実際の導水路の施工ではこのあたりまで掘削して埋め戻したのだろう。


厚東川1期導水路自体は現在も使われているが、水位の計測自体はダム管理事務所で一括管理されている。これは厚東川ダム見学会で制御室にあった制御板を撮影したものである。


パネルには一期隧道水位異常を知らせる項目がある。強度の地震で導水路が破壊され急激に水位が低下したとか、あるいは何処かが閉塞して導水路の天井部分まで水位が上昇するような事態があったとき点灯するのだろう。
この制御板へデータを送る大元は、今も隧道水位計に設置されたセンサーという可能性はある。扉が錆び付いているのは、殆どメンテナンスを必要としない機器だからであり、必ずしも廃物とは断定できないだろう。

一期導水路は数年前より下流側から少しずつ改修と二条化工事を進めている。少なくとも厚東川水路橋までは更新されることが決定している。小野湖と宇部丸山ダム湖は既に繋がっているので、灌漑用水向け以外はこの区間の導水路を改修ないし二条化する意義に薄い。隧道水位計を含めて導水路自体が老朽化しているので、主力の工業用水導水路としては現役引退の可能性もありそうだ。[2]


取りあえず記録はここに遺した。
今後、この場所で大幅な変化が起きない限り続編が作成されることはないだろう。
出典および編集追記:

1. 写真では流木などの処理場になっているが、現在は宇部丸山ダム送水ポンプ場の建屋が造られている。将来的にネットフェンスが張られ本物件を含めて一般の立ち入りが出来なくなる可能性があるかも知れない。

2. もっとも厚東川ダムから宇部丸山ダムの間にある灌漑向け用水(長溝用水)は、1期導水路設置と引き換えに企業局の責任において工業用水より分水を行う取り決めがあるので、導水路自体が完全に用途廃止される事態はないと思われる。

ホームに戻る