佐々並川発電所・初回踏査

インデックスに戻る

現地踏査日:2011/7/23
記事編集日:2013/7/30
今富ダムを視察した後、そこからは一気に阿武川ダムまで車を走らせた。

国道262号を外れて阿武川沿いに遡行する。次第に家並みが少なくなり、県道も阿武川に沿ってうねりつつ山奥へ分け入っていく。自分としては阿武川ダムを訪れるのは初めてだった。
この先にまだ観たことのない阿武川ダムがある…次第に迫ってくる両側の山が気持ちを高揚させてくれる。初めて訪れる山間部には特有のわくわくするひとときだ。

殆ど予期していなかったタイミングで、阿武川の河川敷に極めて気になる構造物を見つけた。その後続けて山側に見える建物からそれが何であるか推測できた。先は急いでいなかったし、交通量の少ない県道にあって車を留め置くスペースもすぐ近くに見えたので、寄り道していくことにした。


車を停め、最初に”それ”が見えた地点まで引き返して歩いた。
運転していて反応したのは、この景色だ。ターゲットが何であったかは説明なしで分かるだろう。


独特な排出口の形状、正面に直方体の建て屋、そして引き込みが見える送電鉄塔と来れば、これが何のための構造物かはすぐ推測できた。
水力発電所の排水口だ…
雨水とか汚水が川へ流れ込む暗渠なら、まずこんな形状をしていない。口径の大きなヒューム管かボックスカルバートだろう。河川敷に面していて水が溜まっていることを除けば、まさに隧道のミニチュア版である。これほど堅牢そうな造りに仕立てられているのは、相応な注意を払って排出すべき水が流れる場所だからだ。

今こうしてアジトで記事を書いているうちは資料があるものの、現地では全く何の予備知識も持たずにこの物件にまみえた。あとどの程度車で走れば阿武川ダムに到達できるやらも分からない状況だった。
見える範囲で適当に写真を撮ったので後から思えばかなり食い足りないリサーチだったことは否めない

接近してみた。
排水口からの流水はなかった。廃されているとも思えないので、たまたま現在は発電していないのだろう。


ポータルの上部には簡易な梯子が掛かり、降りられるようになってはいた。しかしその梯子はネットフェンスの内側にあり、数奇な人間が立ち入る術はない。
排出された水が岸辺を削るのを防ぐために、袖壁が長めに造られている。


手すり部分には赤文字で注意と書かれた表示が出ている。それが排出口に近づかないよう注意喚起する標示板であることはここからでも読み取れた。
接近のしようがない河川敷に向けられていてあまり意味がないような気も…


発電所に導かれるのはここより標高の高い河川から取り込まれた山の水なので、近傍を流れる河川よりは水質が良い筈である。しかし発電が停まっているために排出口付近は溜まり水状態になっていた。
流れのない水に今の気温の高さとなれば、水質の悪化は避けられないのだろう。遺憾ながらアオミドロが異常繁殖し、こんな山が迫っている地にありながら、周囲の空気はまるで汚れた海岸のような独特の不快臭が感じられた。


排出口の真上にあったのと同じ標示板が近くにあった。
発電を終えた水が排出されるので近寄らないようにと書かれている。もっともポータル上部から河川敷までも結構な高低差があり、近づくことはできない。


立て札には中電の文字が見える。
この発電所は公営のものではなく、中国電力(株)の社有施設らしい。

同じ場所から建て屋を望む。
建て屋下の斜面に、佐々並発電所の表示が見えていた。
この日は非常に暑く、あの表示板を写すためだけに正面まで歩いていく気になれなかった。このために興味深い構造物を確認できないまま立ち去ることになった


発電所への進入路に、概略が書かれた案内板が立っていた。


説明によれば、この佐々並川発電所は、阿武川ダムより更に上流で支流の一つとなる佐々並川から導水路でここまで用水を引っ張り発電しているようだ。
発電を終えた水は、本流の阿武川へ戻される。阿武川ダムをバイパスして発電に利用していることになる。


発電所への入口は軽いスロープになっており、黄色いプラスチックのチェーンが張られていた。しかし目立った立て札類はなく、一般車両の侵入防止のようである。
ちょっと入口近くまで観させていただくことに。


入口部分。
門扉からブロック塀の上にかけてびっしり上向きのトゲが植わっていて如何にも厳重だ。


門扉の下側に設備の概要が書かれていた。文字が掠れているのか、元々このような表示なのか読み取りづらい。


敷地内を覗きたいのだが塀が高くて撮影に苦労した。
お約束の鉄塔や碍子、変圧器が並んでおり、これまたお約束の電気音がここまで聞こえていた。宇部市の善和にある中国電力宇部営業所から遠隔操作されているそうだ。
以前暮らしていた野山から目と鼻の先の場所だ


目の細かいフェンスの隙間にカメラのレンズを押し付けて撮影している。
その内側にも同様のフェンスが設置されていた。


排水口からの水の流れはなかったものの、各種機器は電気音をたてていた。


入口から振り返ったところ。
発電所の排出口は、県道の黄色いガードレールが始まっている付近にある。


敷地内をもう少し撮影したかったが、全体を見渡せるアングルがとれない。一番外側のフェンスは次第に高くなるブロック積みの上にあり、県道からとても目立つのでさすがにあの上を歩く気にはなれなかった。

車を停めた付近に、山側へ向かう階段が見える。ここを上がればもう少し全体像が見えるかも知れないと思った。


暑い時期だし、全くの思い付きで立ち寄った発電所だから、そんなに深追いする積もりはなかった。階段を上った先はすぐに酷い藪になっていたので、許容できる範囲まで進み、フェンスの網目から見下ろした状況がこの写真である。


先に見た案内板には、水圧鉄管が山の斜面から降りるモノクロ写真が載っていた。しかしここまで歩き回った限り、それらしきものは見えなかった。山の木々に隠されているか、もしくは地中化されていて見えないのだろうと思った。
水圧鉄管が地表部に現れず埋設されるケースもあると聞いていた

元々、河川敷に見えたあの隧道っぽい排出口が気になって立ち寄ったまでだ。本命はこの先にある阿武川ダムに新阿武川発電所である。それで再び車に乗り込んだ。
ほんの数分の道草だったがそれでも汗ビッショリになるほどの天気だった


さて、帰宅して昨日のこと国土地理院の地図を眺めて、恐らく水圧鉄管が地表部に現れているらしいことを知った。 下がその部分である。


導水管が全く別の場所から伸びていて、発電所の裏手から水圧管で落とし込んでいる様子が分かる。地図を読み取れば、標高170mあたりまでは導水路を示す点線表記になっているものの、そこから発電所までは実線で描かれている。
この部分は水圧鉄管として露出していると思われる。今回は県道を下流側から走ったのと、建物に隠れていて見えなかったのだろう。

Yahoo!地図で再確認してみた。


航空映像モードによれば、水圧鉄管の線形がハッキリ見えている。のみならずその上端には、サージタンクらしきものも視認される。

後から思うに、県道を上流側から走れば山裾に貼り付く水圧鉄管を観ることができたかも知れない。ただ、航空映像を見る限りでは周囲は深い木々に埋もれており、県道からは見えないことも考えられる。いずれにしろ、近くで観ることができるものなら観たい気持ちがあった。

中部や中越地方など山の険しい地域にお住まいの方なら、水圧鉄管など全くありふれていてしみじみ眺める対象にもならないだろう。翻って本州の尾根の最西端にある山口県にあって、更に高地がない県西部は発電用の水圧鉄管など皆無である。殆ど接することがないからこそ、初めてそれを目にしたときの驚きは相応に大きい。数年前に旅行で中部を訪れたときは、興奮の連続だった。

しかし偶然を伴う幸運は、二度も訪れてくれた。この後阿武川ダムと発電所を見学し、帰りに違う道を走ったことでまたしても何の予備知識もないままに同様の発電所に出会うことができたのだった。

ホームに戻る