徳山発電所・平成24年度見学会【1】

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現地踏査日:2012/7/25
記事公開日:2012/8/5
25日の午後3時半。
私はこの日最後の見学会場である徳山発電所より20km程度離れた菅野ダムに居た。個人的に好きな菅野ダムを見学したかったが、どちらか一方しか見学できる時間的余裕がなかった。


ダム管理事務所に立ち寄り、給水とダムカード、パンフレットを頂く位のことしか出来なかった。
今年は菅野ダムでは本当に上の一枚しか撮影していない。時間があればダムだけではなく菅野発電所ももう一度見学したい位だった。

後ろ髪を引かれる思いで菅野ダムを後にし、一路徳山発電所に向かった。菅野湖を離れ須々万に入る手前で国道の近くから気になる水利物件が見えたのだが、敢えて車を転回して立ち寄る程の暇はなかったので大体の場所だけ頭に入れておいた。
来年の夏は菅野発電所と錦川第一発電所を訪れるので立ち寄る予定…上水関連の施設かも

国道315号を周南市に向かって下る。杉ヶ峠のトンネルを過ぎて一気に高度を消化する。目的地は山陽自動車道の下をくぐり、最初の交差点を左だ。もうすっかり頭に入ってしまった感がある。


殆どの車が三田川交差点に向かって直進する中、ガラ空きの左折レーンを経て市道に入り東部発電事務所にやってきた。

心配せずともまだ午後4時まで20分ある。駐車場から歩き、去年充分に撮れていない国道の交差点を撮影しておいた。


去年も発電事務所の周辺を飾っていた数々の幟は今年も健在だ。


敷地内から僅かばかり見える水圧鉄管路。
錦川総合開発事務所に向かっていた十数年前は、国道315号からもう少しハッキリ見えていたような気がするのだが…


水圧鉄管路の最上部をズーム撮影。
上水槽と呼ばれるここで徳山導水路は初めて地表部に現れる。そして水圧鉄管路に落とされるわけだ。


夏場の踏査は暑さとの戦いになる半面、日が長いので遅い時間まで活動できるメリットがある。天気さえ良ければ午後7時近くなっても問題なく記事向けの写真が撮れる。そこで午後4時受付終了の発電所見学を先行した後で水圧鉄管路を撮影し、前回行けなかった上水槽まで車で行ってみることに決めていた。

水圧鉄管路の方も撮影する積もりだが、それは見学会の後からだ。まずは発電事務所の玄関から入って担当者を呼び出すブザーを押した。

これは去年撮影した東部発電事務所の2階の写真である。
今年もほぼ同様だったが、見学者用の椅子の配置が2列に変わっていた。


今年は是非とも質問したいことがある。忘れないように項目を手帳へメモしていた。

会議室の正面に掲げられた管内図。これを元に説明されたので、原典画像を載せておこう。拡大対象画像です。
画像にマウスをかざすと拡大、ダブルクリックで最大化します。
クリックすれば元のサイズに戻ります。


上の管内図に掲載されているのは、あくまでも県管理の発電に係るダムおよび関連設備に限定されている。県管理でも発電に関係しないダムは省かれているし、間上発電所のように中国電力の管掌する設備も書かれていない。ただし用水の流れを把握する観点から導水路に関しては一通り記載されている。

担当者から一般参加者向けに東部発電事務所の役割や発電所の概要説明があった。
「ここまでで何かご質問はありませんか?」
「はい。沢山あります。」
さすがに担当者も苦笑していた。もっとも私とてこのいくつかに関する答えを頂くために今日ここを訪れる目的もあった。それで最初に一番知りたいと思っていた質問をぶつけた。椅子に座って話すのもまどろいので、パネルの前まで言って指さしながら話した。
「徳山発電所には水越ダムから導水しています。国土地理院の地図を見ると菅野ダムから出た水を呼び戻すような経路が描かれています。どうして水越ダムから引いたのですか?」
菅野湖から導水すればそれだけ短距離だし、高低差も稼げるので発電効率が良い筈である。
地図で言えばこの近辺だ。確かに菅野湖の下を通っているし、そのことは去年も担当者に尋ねて確認できていた。また、上の管内図でも菅野湖の下を通るように記載されている。


担当者の回答を概説すれば、次の通りになる。
「菅野発電所がピーク時運転を行っている影響で水越ダムの水位が変動するからです。」
自分なりに理解するところでは次の通りだ:

工業用水需要は明らかに周南側が多い。その面では菅野湖から直接導水する方が徳山導水路の延長を短くできるし高低差も稼げるので発電効率も上がる。そう一筋縄でいかないのは菅野発電所のピーク時運転という特殊な動作による。即ち菅野発電所のタービンは四六時中稼働しているのではなく、電力需要の高い時間帯に菅野ダムへ貯めた水を使って発電しているのである。そのことは去年菅野発電所を見学したときも説明があった。
したがって見学会に参加しても時間帯によってはタービンが停まっていることがある

菅野湖に蓄えられた水は、工業用水としての価値だけではなく「位置エネルギー」という価値も持っている。電気を安定供給するためには常時発電していれば良いが、周知の通り電気は21世紀の技術をもってしても「蓄えられないエネルギー」である。発電所レベルの大容量の電力を一時的に蓄えるには揚水式発電のような設備が必要になるが、周南地区はもとより県内には存在しない。
ピーク時に電力のみ必要なら、その時だけダム湖から流して非需要期には停止すれば良いだろう。しかし電力需要が低いからと言って工業用水の供給までは停められない。用水需要のみに応えるなら別経路で工業用水向けに放流すれば良いようなものだが、それはせっかくダムに貯めた位置エネルギーを持つ水の損失である。この需要期・非需要期の段差をなだらかにするのが水越ダムの逆調整池である。
一定水量を水越逆調整池に貯め置くことで、菅野発電所の稼働に伴い放出されるダム水の影響を受けることなく周南の工業用水需要に対応できる。高度と距離を犠牲にしてでも水越逆調整池を徳山導水路の起点としている理由である。
恐らく金峰取水路経由で水越逆調整池へ供給される水も変動緩和に貢献しているだろう

菅野湖の入り江の下を通っているのは奇異に感じられるが、等高線から読み取っても導水路は湖底より少なくとも50m程度下を通っている。これほどの土被りがあれば菅野湖が湛水していようが居まいが導水路に与える圧力面での影響は殆ど無視できるだろう。
それでも50年近く前の施工ならかなり綿密な強度計算が必要だったのでは…

その他こまごまとした疑問を率直にぶつけた一問一答は以下の通りだ。
「徳山導水路の経路は途中で入り江や川を横断していますが、サイフォン構造はあるのですか?」
「地表部に現れる場所はなく、一本の地下導水路になっています。」
米川付近にあるこの設備は標高が低くサイフォンのような気がするんだが…
「(管内図を指さして)ここから川上ダムまで点線が伸びていますが導水路があるんですね?」
「和田取水場ですね。川上ダムまで導いています。ダム湖のどの場所に出てくるかはちょっと分かりません。」
この日最初の踏査で島地川ダムへ向かう途中、和田分水を見つけて立ち寄ったばかりだった。
この導水路は国土地理院地図に記載されていない。
「水圧鉄管路の途中は何ヶ所か勾配が変わって折れ線状態になっていますが、あの部分で問題が起きる心配は…」
「勾配変わりでの影響を見込んだ強度設計になっています。」
質疑応答の応酬で見学会が進まないのはお互い困るので、程ほどにして発電所見学に向かうことにした。
最後に玄関横1階の会議室に戻ってきてアンケートに記入するのが分かっていたので、階下へ降りて靴を履くときデジカメの予備バッテリーをコンセントに差し充電させてもらった。見学会が終わってもまだ水圧鉄管路や上水槽の撮影作業を行うのを見越してのことだ。
他の見学会場でも同様にして充電した…過去最多の撮影枚数に到達できた要因

発電所建屋のシャッターに描かれた直径1800mmの青い円。これが何を意味するかは去年の見学会で説明を受けている。あのときは汗まみれのTシャツと半トレという酷い格好のままこの横でポーズを作って担当者に撮影して頂いたのだった。


今回も「お撮りしましょうか?」と言われたが、去年撮影しているので今回は人物なしの状態を自分で撮影した。ちなみにこのシャッターの内側は開口部になっていて、発電機のオーバーホールなど巨大ものを地上から昇降させるときに用いられている。
知らないから平気なだけで実はシャッターを一枚隔てた内側は…壮大な開口部

発電所の入口はこのシャッターから右へ回り込んだ側にあった。

去年は撮影できなかった徳山発電所玄関の銘板。東部発電事務所の敷地に入ることができるなら、この銘板までは見学会でなくても撮影できるだろう。


担当者が入口の扉を解錠した。
この先は見学会限定の管理区域だ。

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この次の記事は期間限定公開になる。
見学会で知り得た画像や情報はネット上の常時閲覧できる場には提供しないことにしているので、次編は記事公開案内後の短時間だけ一般公開され、以後は限定公開になる。

(「徳山発電所・平成24年度見学会【2】」へ続く)
(期間限定記事は現在締め切られています)

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