不思議数の探索と予想【1】

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記事作成日:2008/6/15
移植公開日:2020/2/9
情報この記事は当初Yahoo!ブログに公開していたものを元に作成されています。
現在はAmebaブログに移植公開されています。

すべての正の整数は、素因数の種類と個数で特徴付けられる。数学的には「素因数分解の一意性」として知られるところである。

特にすべての約数の和を求めたとき、それが元の数に戻るか、あるいは多くなるか少なくなるかによる分類が夙に知られていた。実際には自分自身も約数の一つに入るから、すべての約数の和は、1以外は必ず元の数よりも大きくなる。歴史的にも約数の概念が生まれた当時は、自身は含めない習慣だった。

だからと言って約数の和の超過性・不足性の意味がまったく損なわれるわけではない。自分自身を含め「約数の和が元の数の2倍」と置き換えれば、数学的意味合いは保存される。すべての正の整数 n は固有の約数を持つから、約数の和は n の関数と言える。これを σ(n) と表記すれば、古来「完全数」と呼ばれていた数は、σ(n) = 2n を満たす整数と言うことができる。

さて、約数の和に関する問題と言えば、完全数・親愛数・社交数・婚約数がメジャーであるが、ここでは敢えてこの種の話題では最もマイナーな部類である「不思議数」を考察してみる。マイナーであるが故にこの数は各種サイトで通り一遍の説明は書かれているものの、詳しいことは多くは触れられていない。
換言すれば、知られていることはそう多くない可能性もあるだろう。

不思議数に関する説明があるリンクを2つ挙げておく。

「Wikipedia - 不思議数」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8D%E6%80%9D%E8%AD%B0%E6%95%B0
「Mathworld - Weird number」
http://mathworld.wolfram.com/WeirdNumber.html


「不思議数」の形式的な定義は、超過数であって擬似完全数でない数とされている。即ち約数の和が元の数の2倍を超えているのに、和からどの約数を除去しても元の数のちょうど2倍とはならないような数である。(即ち約数の和から適当な約数を除去すれば完全数となるものを「擬似完全数」という)

具体例は卑近なところに見つかり、最小のものは 70 である。70 の約数の和は 144 であり、元の数の2倍を引いた値 - 過剰分とでも表現しよう - は4となる。しかし 70 を構成するどの約数を除去しても4だけ取り去ることはできない。したがって不思議数ということになる。

過剰数であって、その過剰分をいくつかの適当な約数を外すことで除去できないという現象は、整数が持ち合わせる諸々の性質として、特に「不思議」と形容されるに相応しいか否かは分からない。しかし我が国に紹介されるにあたっては「不思議数」という訳が当てられることになった。

(英語では Weird number と呼ばれ、weird には「不思議な・薄気味悪い・奇妙な」という意味がある。「奇妙数」であっても良さそうなのだが、他に良い言葉がないのか今の用語のままで定着している。)

定義自体もかなりけったいではあるが、実際の分布を見てもかなり少ない部類に入る。不思議数は当然過剰数であるにしろ、過剰数全体では稀少である。整数全体のうち、およそ4個に1個が過剰数だから1万個の整数の中には、平均的に2千個強の過剰数が存在していると言える。

しかし最初の1万個の整数の中に、不思議数はたった7個しか存在しない。次の7個である:

70, 836, 4030, 5830, 7192, 7912, 9272

約数や素因数に関する条件を満たすグループにはよくあることだが、不思議数も最小のものが比較的大きな数であり、しかも先へ進むにしたがって疎らになっていく。もしかすると、最大の不思議数が存在するのではないかという想いも過ぎる。

この疑問に関する回答は知られており、即ち不思議数の性質を満たす数は無限に存在する。そのことは以下の補題より示される。

補題1:
n が不思議数であれば、σ(n) < p を満たす任意の
奇素数 p に関して np も不思議数となる。


例えば最小の不思議数 70 の場合 σ(70) = 144 であるから、これより大きな素数( 149, 151‥など)を乗じて得られる合成数は、再び不思議数の性質を持つ。

このことを示すには、np の約数を小さい順に並べてみればよい。n = 70 の場合で列挙すれば

1, 2, 5, ‥, n, p, 2p, 5p, ‥, np

となる。
ここで約数の総和から元の数の2倍を引いた「過剰分」を Δ とすると、Δ = 4p + 144 である。

p > 144 なら、明らかに 4p < Δ < 5p が成り立つ。
ところが 1 + 2 + 5 + ‥ + 70 = σ(70) < p であるから

1 + 2 + 5 + ‥ + 70 + p + 2p = σ(70) + 3p = 3p + 144 < Δ < 5p

となる。これは過剰分 Δ は、常に 1 から 2p までの約数の総和と 5p との間に入ることを意味する。
これ以外に Δ より小さな約数は存在しない。

したがって p > 144 の任意の素数に対して 70p は不思議数の性質を持つ■

そしてこの議論は、n = 70 以外の不思議数に対しても適用できる。新たな素数を掛けてもそれによって発生する約数が常に Δ を超えてしまうこと、小さい順に配列されたすべての約数を加えても、Δ が常にその値と、その次に大きな約数との間に入ってしまうのが本質的な原因である。

不思議数が無限に存在することが示されたとしても、この方法では構成されないものも沢山存在する。例えば、先に掲げた1万以下の不思議数はすべてそうである。既知の不思議数から σ(n) < p を満たす素数 p を掛けて得られる不思議数は、すべて元の不思議数と倍数関係にある。今やこの種の不思議数は無限にあることが示されたから、今後は倍数関係にない「原始的な」不思議数を考察の対象としよう。

そうした上で、容易にある一つの問題提起に至ることができる。

「原始的な」不思議数は無限に存在するか?
また、それを求める方法は?


1万以下の原始的な不思議数を観察していて、多くのものがある一定の性質を満たすことに気付いた。
それを元に、条件を満たす一部の原始的な不思議数を探す方法が分かった。

不思議数の探索と予想【2】」へ続く

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