長門峡発電所【1】

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現地踏査日:2011/7/23
記事公開日:2011/9/10
新阿武川発電所の見学後、私はそのまま阿武湖に沿って車を走らせた。
来た道を引き返すのは如何にも芸が薄いので、長門峡の裏側を伝って国道9号に出る予定にしていた。車では一度も通ったことのない道なので、迷わないよう経路を手帳にメモしていた。

県道は阿武川の上流に沿ってうねうねと伸びていた。長門峡と言えば国道9号やJR山口線長門峡駅付近がイメージされ、訪問者もその近辺が一番多い。これに対し、山奥に位置する現在地は殆ど車通りもなく、景観は独り占めである。
何十分もの間、先行車も後続車もない状態だったので、ちょっと路肩に寄って乗ったまま撮影してみた。
トンネルを出てきたばかりの対向車が見えている


今から思えば、この県道は子どもの頃親父の運転する車か学校の社会見学のバスで通った気がする。子どもの当時は気になるものが目に留まろうが、車を停めてなどとは言えない。しかし今や自分が運転手だから、ちょっと寄り道したいときの制約は、時間と物理的に車を留め置ける場所だけである。

さて、長門峡隧道を抜けた先だったろうか、嶮岨な対岸に思いがけず興味深い物件を見つけた。それも子どもの頃に一度見た覚えがある物件なのだった。
先を急ぐ理由がなかったので、路幅に余裕のある場所を見つけて車を停めた。
時系列的には帰りがけに撮影している


運転中、左岸に見えたものは…
水力発電所だった。


佐々並発電所では河川敷に排水口を見つけて車を停めたものの、水圧鉄管は観られなかった。これに対し、長門峡発電所という表示板の見えるここでは山の中腹から顔を出し、建て屋に突き刺さる水圧鉄管はもちろん、サージタンクらしき構造物も見えた。

地図で示せば、恐らくこのあたりになると思う。


遺憾ながら、この場所は山間部なので Yahoo! マップはこれ以上に拡大表示はできない。しかし航空映像モードにしてみると、発電所に向かう橋らしき構造物がおぼろげながら写っているのが分かるだろう。

あそこまで行ってみたい。
多分、無理と思うが、少しでも接近して鮮明な映像を得たいと思った。
発電所に向かうためだけの橋。中電が独自に架けたものなのだろう。


入口の左側にプレートが設置されている。


架かっている橋は、この発電所に行くための専用通路だった。
間違って一般車両が乗り入れないように、入口にはプラスチックのチェーンが施されていた。
プラスチックチェーンの前に立入禁止の札はない。あまり行儀は良くないが、橋の上からの写真も撮りたいのでちょっと進行してみることにした。


今やどこの発電所も無人化され、遠隔操作されるのが常だから、ここもメンテナンス以外誰も訪れないのだろう。

長門峽水力發電所と描かれている。
それも通常のペイントではなく、白地を背景、青地で文字という小さなタイル貼りで拵えた凝った造りである。


この凝った造りは子どもの頃数回見た記憶がある。確か小学校の社会見学で萩方面へ行った帰りのバスからだったと思う。その他にも親父の運転する車窓からも眺めた筈だ。身近にない設備なので、自然と目がいったのである。

表示が旧字体だからと言って戦前のものとは限らないにしても、全体の綻び具合からして随分古くからあるもののようだ。とりわけ左端の電気を表す独特のビリビリ・ロゴが時代を感じさせる。

対岸まで橋を渡ってみたものの徒歩で到達できるのはそこまでだった。その先は殆ど予想通り、関係者以外立入禁止になっていた。先に訪れた佐々並発電所と同じく、こちらも中国電力(株)の社有らしい。
”後退進入禁止”は、作業車をバックで入場させるのを禁止する意味だろう


橋から発電建て屋の方を眺める。
造り出された電力は、変圧器を通じて右岸の中腹に聳える送電鉄塔に伸びていた。


こちら側が上流部になる。
水量は意外に少なく、露岩が目立つ。
上流のダムで責任放流分のみ維持して後は発電や用水に回しているのでは


いずれも川に面した護岸部は高く聳え、護岸の天端には忍び返しが設置されていた。

見える範囲で山腹に向かう杣道があれば踏み込もうが、それも全くない。
サージタンクまでは斜面を縫うように伸びる管理道があり、手摺りも見えている。しかしこの敷地内から伸びているらしく、一般人が接近する術はなさそうだ。


橋を引き返し、そこから撮影している。
変圧器の並ぶ敷地から発電建て屋など、いずれも悪しき忍者を寄せ付けない如く高い護岸が築かれていて、うっかり迷い込みました等の言い訳をする余地がないほど管理されている。
まあ、普通の人ならそんなに興味を惹く設備ではないし、管理する側としても無関係な人は近づけたくないから当然だろう。


有刺鉄線のフェンスを越えて…などと無法なことに手を染める積もりはない。
しかしたまさか容易に左岸へ移る手段があり、なおかつ水圧鉄管周辺が接近できる状況なら、近くで観たいという気持ちはなお燻っていた。

もしかすると、露岩を伝って左岸へ移れる場所があるかも知れない…
実行するか否かは別として、しばし県道を下流側に歩いた。

そこには水圧鉄管で導くタイプの水力発電所なら当然あるべきものが、河川敷に見えていた。
しかもそれは佐々並川発電所の場合と異なり、まさに結構な量の水を川面に吐き出していたのである。


今度こそ、近くで撮りたい。
そのためには手前の藪を回避し、露岩の目立つ河川敷に降りる必要があった。

(「長門峡発電所【2】」へ続く)

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