間上発電所【1】

インデックスに戻る

現地踏査日:2011/7/30
記事公開日:2011/9/10
強すぎる好奇心は、身を滅ぼす?
別にそんな明言を何処かの巨匠が宣った訳ではない。何かを知りたいと感じて行動を起こすモチベーションとして、好奇心はその最たるものである。テーマ踏査にあっても「そこに何があるのか?」「一体どうなっているのだろう?」という自問は大きな原動力となっており、その先に計画と実践があり、そして今までのような記事レポートが産み出されてきた。

踏査に困難はつきものだが、それが適度であれば、遂行されたときの達成感は大きい。しかし困難が大きすぎたり、計画に無理があったり等の理由で、ときに苦痛や災難を引き起こす。あちこち見知らぬ場所へ突入しては写真を撮る私の振る舞いを知って、うちの親は ”好奇心が旺盛過ぎるのも考え物だ”と常々口にしていた。
さて、これからお伝えするレポートは、はからずもその典型例となってしまった。別に私の身が滅ぼされた訳ではないが、実際この踏査は最近ないほどの酷い苦難をもたらした。勘の良い読者なら、何が起きたか想像つくかも知れない。それ以外の読者も、読み進めるうちにいずれ理解されるだろう。

---

長門峡発電所の水圧鉄管やサージタンクなどの設備群を視察して興奮冷めやらぬまま、翌週には周南方面へ向かうことになっていた。それも「ダム・森と湖に親しむ旬間」の一般見学会のためだった。

周南地区は県西部に比べて急峻な山や谷が多く、水力発電所も県東部に目立つ。その殆どはまだ一度も観たことがないので、理解を深めるために地図で調べて予備知識を頭に入れておこうと思った。

この過程で、川上ダムのすぐ近くに今回の一般見学会の対象外だが興味深い水力発電所があることに気付いた。それこそが記事タイトルになっている間上(はざかみ)発電所である。

まずは地図を掲載しておこう。


発電所の建て屋から山の手に向かって水圧鉄管らしき直線が伸びている。しかもそれは異様に長い。航空映像モードでは上空から水圧鉄管が視認できるので、殆どが地表部に露出していると想像される。
水圧鉄管の長大さもさることながら更に興味を惹いたのは、最上部にサージタンクがなく、緩衝池のようなものが見えることである。水圧鉄管にて導かれる形式の水力発電所を何例か見たものの、このタイプは初めてである。
それは数十メートル程度の楕円形の池らしく、航空映像でも薄緑色の水を湛えている様子が写っていた。

並行して使っている国土地理院の地図によれば、長門峡発電所のときと同様に別の水系から発電用の水を導き、ここから落としていることを示す導水路の経路が記載されている。


この地図をドラッグすると分かるのだが、発電用の水は川上ダムからではなく遠く離れた向道ダムから導かれている。国土地理院の地図では緩衝池らしき記載は省略されている代わりに、そこで水色の点線と水圧鉄管の経路に分岐するような記述が見られる。

この分岐らしきものは航空映像でも見えかけている。確かに緩衝池を挟んで水が下ってくる経路が二股に分かれているのだ。
まさか水圧鉄管が二股に分かれる筈もなく、わけが分からない。
ここには一体、どんな光景があるのだろうか?
観たい気持ちが沸き起こる半面、あの緩衝池まで行くことはできまいと思った。何しろ標高が高すぎる。それより何より恐らく長門峡発電所のときと同様、立入禁止になっていて近づけない筈だ。精々、水圧鉄管へ近づいて観察できる程度だろう。

川上ダムを訪れることになった先週のこと、私は佐波川ダム・川上ダムの順に訪問し、帰りにここへ立ち寄ることにしていた。しかしアジトを出るのが若干遅かったこと、川上ダムの監査廊を視察した後でダム下まで足を伸ばして魅力的な物件をいくつも見つけ、丹念に踏査しているうちに午後4時半を回ってしまった。

今は日が長い時期だから、帰りが遅くなり夕方のラッシュに巻き込まれるかも知れないのを覚悟で踏査することはできた。しかし週末には菅野ダムや徳山発電所の見学で再びこちらへ来る便があったので、無理をせずその日は帰途に就いた。
あのとき無理をしていたら…どんなことになっていただろうか…
そして7月最後の週末、今度こそアジトを早めに出て先送りになっていた間上発電所を最初に訪れることにした次第だ。

---

県道3号新南陽津和野線の間上バス停付近である。
先のような事情があって、私が以前ここを訪れたのはほんの3日前のことだ。


この県道の先に川上ダムがある。私は一般見学会として川上ダムの監査廊を視察した後、このバス停前で鋭角カーブをこなし、左手のダム直下に向かう道へ入った。
恐らくそれはダムが出来る以前は旧道だった筈だ。それはダム手前で行き止まりになっているのだが、そこには周南工業用水関連の諸設備企業局川上接合井)や、廃トンネルの坑口今も全く正体不明)もあってなかなか魅力的な立ち去り難い場所だった。

現在の県道はここから急速に左右へうねりつつ、川上ダムを目指して高度を稼ぐ。大きく左へカーブして間上大橋を渡って山腹へ突入、カーブの目立つ一の瀬隧道をくぐって川上大橋を渡る。高さ50mを超える川上大橋からは、左手に川上ダムが真っ正面に見えるという、何ともダイナミックな道である。


バス停の表示板。
最初、この地名を正しく読むことができなかった。
ここから右手に間上発電所の建て屋が見える。そして山肌には”それ”が敷設されていることを示す深くて長い切れ込みが見えていた。


バス停を過ぎて少し歩くと県道は富田川を渡り、そのすぐ右手へ発電所に向かう通路が見えてくる。今はどこの発電所・変電所も無人化され遠隔操作されるのが常だから、門扉は閉まっていた。
既に左端に水圧鉄管の一部が見えかけている


無人化されている発電所に車の出入りはなかろうから、地図で確認した際にはこの進入路まで車を乗り入れようかとも思った。午前中とは言え、何しろ暑い最中で歩く距離を極力短くしたかった。しかしバス停より手前に菊川地区のグランドがあり、お手洗いの備わった広い駐車場が見えたので、無理をせずそこに駐車して歩いて来ていた。
駐車場に車を留め置いたのは後から思えば正解だった

Energia の表示から推測される通り、間上発電所は(長門峡発電所と同様)中国電力所有の設備になる。
水利使用標識の河川名が錦川となっているのが興味深い。発電を終えた水は富田川へ返されるので、全く異なる水系から発電の目的だけで小さな分水嶺を超えて水を導いていることになる。
ここも発電所の文字が旧字体になっている…そんなに古い施設ではないのだが


建て屋のすぐ裏手に目を遣ると…
まるで山をブッタ切るかのような深い切れ込みがあり、そこに水圧鉄管が見えかけていた。


フェンスに沿って伸びる畦道を進む。
ズーム撮影で水圧鉄管を捕らえた。見ての通り、水圧鉄管の傾斜角が尋常ではない。遠目には殆ど垂直落下ではないかと思えるほどだ。


畦道を歩いた先、意外なことに民家へ伸びる地区道へ出てきた。普通車でも問題なく通行できる道幅だった。幸いなことに正面から眺められそうだ。ワクワクしてくる。
発電所と道路との間は厳つい有刺鉄線付きフェンスで仕切られていたが、水圧鉄管までの接近は全く容易どころか、地区道がその上を跨いでいる。割と古くからあるもののようで、コンクリート製の欄干まで備わっていた。


ここまで歩めば、水圧鉄管はもう手が届くほど近くに見えていた。
そして全体像が見渡せる跨管橋の真上に立つと…
うぉおぉおおっっっ!!
何じゃこりゃああーっ!?


アジトを早めに出てわざわざ立ち寄った甲斐があった。
久し振りに面白い物件を楽しめそうだ。

(「間上発電所【2】」へ続く)

ホームに戻る