間上発電所【2】

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(「間上発電所【1】」の続き)

それは遥か山奥からここまで一直線に降りてくる水圧鉄管だった。
直径はそれほど大きくはないが、物凄く遠くまで見えているし、傾斜角が凄い。


「何じゃこりゃあー?」と驚愕する私をよそに、もしこの場に中電の社員が居合わせていたなら、顔色一つ変えず「発電用の水圧鉄管ですよ」と答えるだろう。この奥にある民家の住民も跨管橋を日常的に渡って暮らしている筈で、圧力鉄管に一瞥も加えることなく通り過ぎているに違いない。
しかし同種の構造物を日常的に観る環境にない私にとっては、それは如何にも異様な光景に見えた。

なおも驚いたことに、フェンスで囲まれているのは民家に接する部分だけで、水圧鉄管の周囲は全く問題なく接近できる状況だった。
同じ中国電力の有する水圧鉄管なのに長門峡発電所とはエラい違い)

同じ場所から発電建て屋の方を振り返ってみた。
発電建て屋の手前に直方体の小屋があり、水圧鉄管はその側面に突き刺さっていた。


フェンスの網目にレンズを押し付けたまま、下方を覗き見る。
水圧鉄管は角度を変えず、タービンが格納されている小屋に導かれていた。


ネットフェンスの隙間から小屋の壁に取り付けられた銘板をズーム撮影。
水圧鉄管の諸元が表示されている。製作年月が昭和40年1月となっており、意外に古くからあるようだ。


ここまで無防備なら、跨管橋の下をくぐって発電所の敷地内へ入れてしまうのでは…と思いかけた。

さすがにそこまで脇は甘くなかった。
跨管橋の真下には目の細かな金網が張られ、進入を目論む酔狂な輩をきっぱり拒絶していた。


この場所だけ、水圧鉄管は直方体のコンクリート塊で全巻きされていた。 管には128の数字が見えている。
このような数字に暫く出会うことになるだろう


発電建て屋にはこれ以上接近できないし、詳細を撮影するなら帰り際でいいだろう。
それより何より気になるのは、遥か山奥へ向かって伸びる水圧鉄管の行方だった。
あの先はどうなっているのだろう?
最上部に緩衝池があることは地図で判明しているものの、接近はできまい。容易に危険が想像される場所であり、何処かで立入禁止になっている筈だ。
その割に水圧鉄管それ自体は無防備で、ネットフェンスが施されているのは橋と民家の周囲だけだった。先の方は水圧鉄管に沿って伸びる階段があり、全く自由に接近できそうだ。


民家の庭先を掠める急坂を少し登ってみた。
フェンスが途切れた先も立入禁止など注意喚起する立て札はない代わりに、鉄管が何であるかを示す標識なども一切ない。


水圧鉄管にぴったり寄り添い、振り返って撮影している。
民家の裏手へ向かう小道自体、かなりの勾配で山を目指しているのだが、水圧鉄管はそれより更にきつい角度で下っている。


望むなら、等間隔で設置されている固定用ブロック基礎を避けて斜路を降りれば跨管橋の真下へ行くこともできた。しかし民家の窓から容易に見える場所での行為は怪しさMAXであり、自重しておいた。

上流側を撮影。
この場所でも既にかなりの勾配なのに、水圧鉄管は山腹へ進むにしたがって更に段階的に角度が急になっている。


先の諸元で見たように、水圧鉄管の直径は1m程度。今まで観てきたものからすれば、それほど大規模という感じはない。短い距離を急降下させ、流下水量より流速で発電量を稼いでいるのだろうか。
中をどれほどの勢いで水が流れているのか分からない。近くに居ても流下の音は聞こえなかった。管に耳を押し付けて流下音を聴いてみたい気もしたが、苔まみれの水圧鉄管に耳を押し付ける気にはなれなかった。
後で訪れた徳山発電所では離れた場所でも流下音がハッキリ聞き取れた

水圧鉄管に並行する道は、管理道にしてはきちんと整備されていた。
45度傾斜のコンクリート階段があり、暫く草地の道が続き、再びコンクリート階段…という組み合わせである。水圧鉄管への接近自身には危険な要素がないということだろう。管に直接触れることも雑作なかった。


実はこの状況については、地図の段階から分かっていた。

これは現地地図の核心部分を切り出したものである。
水圧鉄管のすぐ脇に聞き慣れない名前の神社(夜川移神社)が見えている。


周南市に関して私は全くのよそ者だから、この神社の由来などは分からない。
”川を移した”という意味にも取れる名称からして、蛇行する富田川に絡むものだろうか
妙に想像を膨らませれば、山の急斜面にポツンと取り残されたような位置からして、水圧鉄管で水を導く計画が立案された後、工事の安全祈願を兼ねて造られた歴史の浅い神社…などと邪推したくなる。

明らかに言えるのは、あの神社まで一般人が訪問可能な経路が必ずある筈ということだ。地図の上では梯子状の道が描かれており、航空映像では参道と視認される。中電の管理道は、恐らく途中まで神社への参道と共用されているのだろう。水圧鉄管とはフェンスで仕切られているかも知れないが、すぐ真横までは接近できると予想していた。

この状況からすれば神社との分岐点までは安泰に行けるだろう。だが神社の分岐点から先は恐らく発電建て屋を囲んだのと同じ有刺鉄線付きフェンスが行く手を阻むだろうから、長丁場にはなるまい。

観ることができる場所まで先を偵察して来るか…
水圧鉄管に沿って歩き始めた。


歩き始めた直後、一瞬思わず立ち止まった先にあったもの。
ヘビの抜け殻2体だ。
今の時期、山行きや安易な藪漕ぎが躊躇われる理由の一つである。


進むにつれて上方をサクラの木が覆うようになった。
直接の陽射しを避けられるのは有り難いが、その分風通しがなくなって蒸し暑い。
左手に索道らしきものが見える…この写真を撮った時点では気付かなかった


傾斜具合が分かるように、カメラは水平に構えている。
ここには112のナンバリングが見える。5mくらいの間隔で書き込まれているようだ。もしかすると頂上部まで続いているのだろうか?


同じ位置から下界を振り返る。
水圧鉄管は確かに一勾配ではなく、ジョイント部分の至る所で勾配変わりしていた。


暑いし坂は急だが、あの神社への入口までは到達する腹づもりで進むことにした。

(「間上発電所【3】」に続く)

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