埴生口峠【2】

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(「埴生口峠【1】」の続き)

殆どターゲットはバレているだろうから、いきなり正解発表。


この この直方体をしたポンプ小屋らしきもの である。


県道側に四角い貯水槽があり、隣接してポンプ小屋っぽいものがある。
往路のときからその存在を確認していたし、車を降りたときから意識していたから、私が撮影を始めたときからカメラアングルの何処かに映し込んでいた。

この貯水槽とポンプ小屋は、Yahoo!の航空映像でも確認できる。
今から10年程度の遅延情報を与える航空映像でも写っており、昔からあるもののようだ。

「田畑の灌水用の貯水槽とポンプ室だよ。
こんなもの何処にでもあるじゃないか。」
読者からのそういう意見が聞こえてくる。

いくら利水関連の構造物に興味を示す私とて、何処の田畑にもありそうな貯水槽やポンプ室のためにわざわざ車を停めて撮影したりはしない。
もしかしたら、何かを隠し持っているのでは…という疑念が働いたのだ。

同じ場所を地図モードで眺めてみよう。
この四角い貯水槽のある場所に関して何か気付くことがある筈だ。

この真下を山陽新幹線が
埴生トンネルで通じている。
峠を越える道というものは通常、周囲の山地のうち最も低い場所を狙って伸びている。それ故に大抵は川や沢を遡行する経路を取る。この県道も埴生口峠付近では概ねそうなっている。
さて、地図表記の通りなら、山陽新幹線の埴生トンネルは大体このあたりで県道の下を通っている。そうなればトンネルの土被りは他の場所よりかなり浅い。しかも埴生トンネルはそれなりの長さ(延長3km程度)を持ち、この場所は下関寄りのほぼ中間点になる。

これだけ言えば意図がお分かりだろう。
地図に見える四角い水色の記号は
埴生トンネル関連の設備では?
長いトンネルの点検用竪坑、換気口や給電設備が必要とされるなら大抵はこのような場所に造られるだろう。土被りが浅ければ施工が容易でコストもかからないからだ。
鉄道関連は造詣が浅く殆ど守備範囲外なのだが、もしかしたら素人の私にでも何か手がかりとなるものが隠されているかも知れない。この建て屋が埴生トンネルの関連物件であり、まさにこの足元に山陽新幹線が走っているとするならワクワクする話ではないか…

近づいてみた。
貯水槽らしきものは6m程度の正方形状で、ポンプ室は5m×2m程度の大きさだ。


しかし正直な話、接近してこの外観を確認しただけで私の中には否定的な答が沸き上がってきた。

ただの灌漑用貯水槽のような気がする…

あまりにも普通過ぎる。
貯水部分はごく簡素な囲みがしてあるだけだし、ポンプ室も個人が設置した建築ブロック積み構造である。それは全く何処にでも見かけるもので、新幹線という特殊な公共設備のために造られた匂いが感じられないのである。


貯水槽に関して気になるものがあるとすれば、この内部へ降りる鉄ハシゴだ。
梯子を掛けるならそれなりの深さがあるのかも知れない。灌漑用の貯水槽で普通このような梯子を設けるだろうか…
埴生トンネルまで繋がる深さ数十メートルもの竪坑の跡…なんて訳ないよねw


最初っから否定的結果が頭を過ぎったので、あまり気乗りしないながらも反対側に回ってみた。
ポンプ小屋らしき入口は赤錆の目立つ鉄板一枚があり、水槽側にネットフェンスがあった。
一段高くなっている入口までの階段はない。当初から出入りすることを想定した建て屋ではなさそうだ。


背面の様子。
鉄パイプと塩ビらしきパイプが外へ伸びていた。
換気用のためか、コンクリート壁に開口部分があった。

結局、一周したものの建て屋が何であるかを示す標示板らしきものは一切なかった。
あの開口部や下の方にある削孔部から中を覗こうかとも思ったが、何の変哲もない普通の給水ポンプ室である可能性が濃厚な状況で詳細な調査を続ける気が起きなかった。


自分の中で結論を下すしかなかった。
ただのポンプ室。以上、オワリ。
ハマる足元に気をつけながら県道まで戻る。
県道の縦断勾配のきつさがよく分かる。


そういう訳で、残念だがこれは新幹線とは直接関係がない灌漑用の貯水設備と思われる。

改めて国土地理院の拡大地図を参照しつつ検討してみよう。


地図表記が正しいと仮定すれば、ポンプ室の場所は概ね標高70mである。そして埴生トンネルの両坑口の標高を調べてみると、埴生側が60m程度、下関側が40m以下と読み取れる。
トンネル内部が片勾配か拝み勾配かは不明だが、貯水槽とポンプ室付近の土被りは20m程度ある。

非常に長いトンネルなら、こういう場所に斜坑を造ることはあり得るだろう。しかし斜坑があれば何処かにポータルを持つものである。まして高々3km程度のトンネルならまず造らない。

この設備が山陽新幹線に関係あるとすれば、トンネル掘削に伴う井戸涸れの補償設備だろう。

土被りは20m程度あるとは言っても、トンネルを掘削すれば地下水脈を奪われ、その上の土地で水が得にくくなる可能性はある。
水涸れを起こしたためにJR西日本が補償としてここにポンプ室を設置し、トンネル内の湧水を汲み上げて田畑に給水している…という可能性なら有り得るかも知れない。
もっともそれすら裏付ける証拠は何もない

写真ばかりは丹念に撮影したのだが、どうやら地図で観た私の予想は否定的な結論に導かれそうな感じだ。


竪坑の可能性はまずないし、仮に埴生トンネル関連としても実際にここからトンネルまで続いているのは汲み上げ用のパイプ1本程度のものだろう。人やボーリングマシンが通れる竪坑のイメージからすれば、大幅なテンションダウンは否めない。

調査すれば何かの成果があるのかも知れないが、当初宣言したように鉄道関連は概ね私の管轄外である。何よりも(殆ど忘れかけていたがこれは峠レポートなのだった。
ここから先の情報は、どうしても真相を知りたいという鉄分要求度高めな人々に委ねるとして…
さて、帰るかな…
いや…それよりも埴生へ仕事へ行かなければ…^^;

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【追記】(2/26, 10:40)

昨日、埴生にお住まいのある方と某スポーツクラブでお会いして、この構造物に関する情報をお聞きすることができた。

まず結論として、この貯水池およびポンプ小屋は紛れもなく埴生トンネル掘削に伴う井戸涸れ補償としてJR西日本によって造られたものであった。

情報提供者はこの付近に田を所有しており、地下に埴生トンネルが通されることになったとき、当然ながら水脈が変わって水が得られにくくなるかも知れない問題がわき起こった。
そこでJRの責任でここに貯水槽とポンプ小屋を造り、もしトンネルによって井戸涸れが起きた場合にも灌漑用水を汲み上げることが出来るよう整えた。ポンプ小屋はこの位置より峠側にある高い田に水を回すための動力源を予定していた。

ところが実際に埴生トンネルが通じた後も水脈に大きな変更はなく、今まで通り支障なく田に水をあてられたので、灌漑設備は必要なくなった。そのためここにある貯水槽やポンプ小屋は現在使われていないという。

なお、かつては新幹線も「ひかり」や「こだま」のような中程度の速度で運行する車両に限られていたので列車の通過音は殆ど分からなかったが、最近レールスターのような設計速度が大きい車両が通るようになったため、周囲が充分に静かであれば、このポンプ小屋付近で埴生トンネル内を通過する列車の音が地響きの形で伝わってくるということである。

これにて、解決♪
情報提供ありがとうございました…検索ヒットって侮れないねぇ…^^;


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