山立石池・未知の用水路【2】

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(「山立石池・未知の用水路【1】」の続き)

サーチライトなど何も持ち合わせないなら、デジカメのフラッシュ撮影しかできない。
バッテリーを消費するのでなるべくフラッシュ撮影はしたくない
しかしそれだけでも万が一起こるかも知れない事態は頭に入れておいた。

そこで身を屈め、坑口から若干離れた位置から撮影した。当然フラッシュが動作している。


内部からは何も反応はなかった。

だからと言って潜入は不用心だ。隧道の中がどうなっているか分からない。いきなり斜路になっていて内部を滑落…なんて実際にはあり得ないことも想定しておく必要がある。
先のフラッシュ撮影で小動物が飛び出てくる可能性はかなり低くなったので、まずは両腕だけを坑内へ挿入して撮影した。肉眼では見えずカメラだけが捕らえた内部の映像である。


念のためもう一枚撮った。


もちろん現地でも再生したが、小さな確認ウィンドウでは細かなところまでは分からない。それで現地では撮影オンリーで、詳細な分析はアジトへ帰ってからになった。

改めてこの映像を見ると、坑口から最初の10m程度は開削工法で水路を掘ったように思われる。開渠に比べて高度な技術が要る隧道部分の延長を短くするためだ。写真では分かりづらいが、奥の方は馬蹄形の断面のように見える。想像される工程として、最初、可能なところまで開削し、そこから隧道を掘った…それから斜面の土が水路へ崩れてくるのを避けるために水路の両側へ間知石を築き、その上に棒状の石材をたなげて目地を詰め、元の斜面に戻した…という塩梅だろう。
隧道は相当な延長があるのか何処かで曲がっているのか、フラッシュ撮影しても先の明かりは見えなかった。

近いところに出口があるかも知れないと思い、道路まで出てみることにした。
半分程度登ってきたところである。


もちろん踏み跡などはなく、時期柄何処でも歩けることに助けを借りて適当に斜面を登っている。
このあたりで5m程度の高低差がある。


西岐波野口線を行き交う車が見えるようになった。
しかし何処へ出てきたのか自分自身まったく見当がつかなかった。


そんなに馴染みはないが何度も通った道である。近くに場所を特定できそうなものを探した。
少し坂を下ったところに枝道が見えていた。


恐らく黒谷池へ向かう管理道だろう。
ロープが張られているので車は進攻できない。しかし山歩きする人々にとっては問題ないレベルだ。


進攻しようかと迷いかけた。しかしこの日の本題から外れて際限なく辿ってしまいそうだし、そうなると車から遠くなるので自重した。


進入口から振り返って撮影している。
先の用水路はこのカーブの下を隧道で通っていることになる。土被りは10m近くありそうだ。


まあ、この先を辿るとしても場所は特定できたから今回は引き返そう。
再び野ウサギが身を潜めるように藪の中へ入っていった。

ここへ戻ってきた。
隧道の入口まではコンクリート二次製品による開渠で、その奥は間知石積みの水路である。コンクリート水路部分だけは補修で全面的に更新したのではなかろうか。


再度、水路の中でしゃがみ、可能な限り坑口に潜って両腕を思い切り伸ばして撮影した。これがその原典画像である。拡大対象画像です。
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クリックすれば元のサイズに戻ります。


道路横断のボックスカルバートのような近代的なものを除いても、水路隧道自体は市内でもいくつか観られる。常盤用水路にはポータルを持った芸術的な隧道が8ヶ所(バックに接続される斜樋を除く)知られているし、御撫育用水路には立派な扁額を構えた昭和隧道が著名である。
他方、コンクリートで固められない素掘りの水路隧道は数えるほどしかお目にかかれていない。
温見地区にある今は使われていない水路隧道など
残念ながらこの物件は山口市阿知須に帰属している。未だ探し方が少ないだけで、市内にもこれと同様の水路隧道が眠っているのだろうか…

来た道を戻り始めた。
途中に流入する経路があった。常盤用水には見られない構造である。


近くの小さな沢に集まる水をこの用水路に導いていた。
雨水の流入程度は構わないらしい。


この水路の予想経路を書き込んでみた。黄緑色の経路が管渠または隧道青色は開渠部分である。


開渠の部分はほぼ間違いないが、管渠および隧道部分は詳細がまだ分からない。しかし山立石池の位置からして、管渠はまずこの溜め池の堰堤に繋がっているだろうし、隧道は黒谷池への管理道を下れば多分見えてくるだろう。

腑に落ちない点もある。
隧道の経路がこの通りなら、山立石池からわざわざ黒谷池のある沢へ用水を導いていることになる。この辺りの事情はちょっと分からない。権利水の関係か、黒谷池から用水を取れないときに山立石池側から融通できるようにするためだろうか。

Yahoo!地図ではこのあたりになる。
地図にある山立石池への進入路の位置は誤り…古いままで訂正されてないらしい

西岐波野口線が山側に軽くカーブしている場所である。
山側へのカーブは、この近辺では目立つ沢になっていることを示す。恐らくこの沢と道路を挟んだ反対側の沢を結んでいるのだろう。

昔はどうだったのだろうか。
過去に遡って現地を眺めてみよう。
「国土画像情報閲覧システム - 山立石池付近(昭和49年度)の航空映像」
http://w3land.mlit.go.jp/cgi-bin/WebGIS2/WC_AirPhoto.cgi?IT=p&DT=n&PFN=CCG-74-12&PCN=C19&IDX=24
別ウィンドウで開いたページ右上にある400dpiのリンクをクリックすると高解像度の画像が表示される

山口宇部有料道路が完成したばかりらしく、まだ供用開始されていない。西岐波野口線は田園地帯で未舗装路、山立石池付近はまだ車の通れる道が整備されてなかったようだ。まだ山野部の木々が管理されていたからか、航空映像を丹念に観察すると用水路の線形が上空からも見えている。

この用水路追跡の始めに見つけたこの桝も、先の映像で場所を確認できるのであった。


管渠になっている部分は地山から1m程度の深さなので、恐らく山立石池からここまでを溝掘掘削して管を布設したのだろう。それにしては全く人が踏み込んだ形跡はない。ここまで辿って来られたような踏み跡が遺っていそうなものだが、一歩も踏み出せないほどの笹藪だった。

この続編をお伝えすることは当分の間ないと思う。しかしたまさか再び東岐波方面へ来る便があったら黒谷池側で用水路がどうなっているか偵察しようと思っている。

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