山立石池・未知の用水路【1】

インデックスに戻る

(「山立石池【2】」の続き)

ここから先は山立石池と直接の関連性はない。しかし写真や動画は採取してきたし、当初極めようとしていた物件に近い要素があるので一応記事化だけしておく。すぐには続きの踏査を行うことはないと思うので、そのまま同じカテゴリでファイル名も連番として作成しておいた。

---

乗り気なく歩いた獣道の先には、コンクリート製の人工物が見えかけていた。


周囲は人工物が殆ど見あたらない場所だったので、コンクリート製の井戸らしきものを見てそれが何であるか推測がついた。

コンクリート製の桝にバルブが格納されていた。
元は縞鋼板で蓋がされていたようだが、何故か2枚ともひっくり返ったまま放置されている。


一番奥に取り出し用と思われる鋳鉄管があり、バルブが格納されていた。その端は別の桝に口を開いており、スクリーンを通して2ヶ所に用水を供給する造りになっている。


バルブは鋳鉄管に取り付けられており、チェーンなどは巻かれておらず誰でも操作できる状態になっていた。
用水路に接続されていながら、まるで工業用水のような仕様だ。


今しがた登ってきた通路の下に管が埋設されているらしい。鉄格子の掛かっている先のヒューム管の口は下向きについていた。
もしかすると沢の反対側へ用水を送る逆サイフォンかも…


この桝がある場所から唐突に用水路が始まっていた。ここにバルブがあることから、流入ではなく流下だろう。


この場所を中心とした航空映像である。

映像をよく見ると、ここまで真っ直ぐ登ってくる小道と先へ伸びる用水路の線形が窺えるようでもある。
それにしてもこんな場所に用水路があるとは予想もしなかった。特に感じたのは、
一体、何処の溜め池から取り出しているのだろうか…
という疑問だった。

一番近いのは他でもない山立石池だが、それでも堰堤まではここから100m位ある。
水道の本管や工業用水管ならもっと長いのが普通である。しかし溜め池から灌漑用水を流すなら通常は開渠だ。山岳部を通すなら隧道形式もあるだろうが、堰堤から分水桝までを鋳鉄管で結ぶパターンは今まで見たことがない。夾雑物が流れ込まないよう管理しなければ、万が一詰まらせたとき修復が大変だからだ。
もっともこの鋳鉄管が山立石池の堰堤に通じているか確証は持てなかった。鋳鉄管の上流側にあたる部分は全く寄りつきならない深い藪で何処へ伸びているか見当がつかなかったし、全く別の池(例えば隣接する黒谷池)から流しているかも知れないからだ。

この先は山裾に沿ってずっと続いていた。
周囲は深い藪に覆われていて水路の方向以外は視界が利かない。車を停めた田畑は全く見えなかった。


水路の幅は1.5m程度で常盤用水路よりもずっと狭い。桝との接続部分を観ても分かるように水路はコンクリート二次製品を布設して造られていた。
先の鋳鉄管の取り出し部分とも併せて、この用水路は比較的最近造られたか改修されたものだろう。古くとも昭和後期から平成時代に入ってからのもののはずだ。

何の気無しに立ち入った山の斜面で偶然見つけた用水路は、私にとって「予想もしていなかった物件」と言うよりは「予定していたものとは別の物件」だった。
それと言うのもこのたび山立石池の踏査を考えたのは、池そのものの視察もさることながら、そこから流れ出るある用水路の踏査を予定していたのである。

その「予定されていた用水路」は、Yahoo!の地図では不明瞭だが、国土地理院の地図では明確に記載されている。下の地図を眺めるだけで気になる部分が推測できるだろう。


山立石池から流下する水路が青で記載されている。よく見ると井関川へ流れる元からの支流の他に、灌漑用と思われる用水路が記載されている。
それは高度を保ったまま最初に山口宇部有料道路の下をくぐっている。立体交差だから暗渠として記載されるのは理解できるが、道路の下をカルバートとしてくぐるにしては暗渠部分の延長がかなりある。道路部分だけではなく、その先の小さな尾根も隧道のようにくぐっている。更にその先では入口が一つ、出口が2つある奇妙な隧道の記述が見える。それは道路横断ではなく一つの尾根を横切っているから、紛れもなく水路隧道だ。

私が東岐波へ出向く仕事ができた際に何の気なしに周辺の地図を眺めていた。そして偶然この水路隧道らしき記述を見つけたのである。
場所や形態は若干相違があるかも知れないが、国土地理院の地図に水路隧道と分かる表記がある限り、少なくともその根拠を持つ立体交差やカルバート、隧道などがある筈だ。この部分がどうなっているかが興味の対象だったので、山立石池の堰堤へ到達できたなら、帰りはこの用水路を辿る予定だった。しかし実際には山立石池到達計画が破綻し、仕切り直しになっていた訳だ。

偶然見つけた用水路は山立石池を基準にして沢の左岸にあり、地図に表記された用水路は右岸側だから明らかに違う。国土地理院の地図表記には微細な誤りがよく観られるが、経路が全く異なるから地図に記載されていない別の用水路だろう。

振り返って撮影。
遠くから観れば分水桝は常盤用水路のバックそっくりだ。ただ、用水の非需要期だから水は流れていない。転落防止のフェンスも危険喚起する表示札などもいっさいない。


ここまで歩いてきた序でにちょっと先を辿ってみた。
水路沿いは邪魔になる雑木などはなく進攻に困難はなかった。


進行方向右手の沢が低くなり用水路の高さに追いついてきた頃、若干蛇行しはじめた。


かなりきつく曲がっている。
周囲の雰囲気から何となくあるものの出現が予想された。


やはり、そうだった。
水路隧道キタ ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!


隧道の長さをなるべく切りつめたいのは何処も同じなのだろう…用水路は沢に沿って蛇行した後、観念するように山の斜面へ垂直にぶつかり、隧道の形で通されていた。
隧道の周辺にフェンスはないし、開渠の手前にスクリーンもない。誰も知らない場所だからだろうか…その気になれば潜入さえ可能な状態になっていた。


隧道上の土被りは相当あり、真上を西岐波野口線が通っているらしい。時折車の音が聞かれた。



隧道とは言っても常盤用水路に観られるタイプとは全然違う。天井部分が馬蹄形ではなく水平になっている。ボックスカルバートを埋め戻したようにも見える。


通常の隧道だったらこんな断面では土圧がもたない筈だ。最初から隧道だったのではなく、後から蓋掛けして土を盛ったのだろうか…
内部は今までのコンクリート二次製品の水路ではなく、石積みのようだ。隧道の始まり部分からそれらしきものが見えかけていた。

小動物なら転落すれば用水路方向にしか進めまいが、人間なら大丈夫だ。特に危険はないので内部へ降り、隧道までを含めて周囲を動画撮影しておいた。

[再生時間: 32秒]


さて、詳細を調べようと思えば潜入する必要はないにしても入口から内部を覗き込まなければならない。

今まで未知の暗渠や隧道に何度も接してきたが、心穏やかで居られたことがない。人間は本能的に暗闇を怖れるものである。しかし暗くて幽霊が怖いとかいう幼稚なレベルではない。フラッシュ撮影に触発されて、中から野生動物が飛び出して来るかも知れないというもっと現実的な恐怖である。特に用水の流れていない今の時期なら尚更だ。


水路にしゃがみ込み、入口付近からまずは肉眼で覗いた。
相当な長さがあるのか内部で曲がっているのか、反対側の明かりは全く見えなかった。


ここから隧道の真上を通る道路まで水平距離で20m程度ある。道路は尾根伝いに通っているから、反対側が同様の沢地と仮定しても少なくとも50m程度の長さが要るだろう。閉塞はまずあり得ないから、何処かで曲がっていたり細くなっていたりするのだろうか…

元からの隧道フェチ(?)だから、いくら危険が想定されようが内部を観たい、撮影したいという好奇心に逆らうことはできない。

それではフラッシュを焚いて隧道内部の撮影を…
一番、心穏やかでなくなる瞬間だ。

(「山立石池・未知の用水路【2】」へ続く)

ホームに戻る