長生炭鉱火薬庫跡【4】

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(「長生炭鉱火薬庫跡【3】」の続き)

前回は天候が今ひとつな上にヤブ蚊が酷いのでそそくさに撮影して退出していた。
今回は条件がすこぶる良い。日照が多いのでフラッシュなしで相応な写真が撮れるし敷地内は乾いていて何処でも安全に歩き回ることができた。

火薬庫の開口部。
入口の両端のレンガか欠けているのでここにも扉のようなものがあったのだろう。


火薬庫の上部は一部が帯状のコンクリートになっている。
これをすべてレンガだけで築こうとすると上部にアーチを造らなければならない。
しかしそれでは手間がかかるのとそれほど精密性を要求されない構造物だったからか、鉄筋の入ったコンクリートを部分的に使ったようだ。


壁厚はレンガ2枚分。その他の壁部分も同じだろう。


今回改めて内部のレンガ積み状態を撮影して現地でも気付いたことがあった。それは上の写真のように壁の外側と内側が同時に見えるショットからも分かるのだが、
内側のレンガ積みは案外、粗雑な気が…
レンガ積みの外壁部分は通りが揃っており目地モルタルもみっしり詰まっている。これに対し内側の壁は面が揃っておらずデコボコが目立つ。目地モルタルが十分に充填されていない箇所も多い。
コーナー部分のレンガ欠けは意味あって抜いているのだろう


隧道側にある底の通風口は当初からそのようにレンガを配置したように思える。


屋根部分がどうなっていたのかはこの形状からは見当も付かない。レンガも不定形に破壊されている。


屋根が破壊されたのは相当前のことらしく周囲にはレンガの欠片は見当たらなかった。厚く積もった木の葉の下敷きになっているのだろう。
木の葉を除去すれば何か新たな手がかりが現れる可能性は十分にあった。しかし道具を何も持たない状況でそんな途方もない作業に着手する気はなかった。それどころか火薬庫の内部を歩き回ることも躊躇われた。相当の長期にわたって誰も立ち入っていない場所なだけに足元の状態が分からず、何だか底が抜けそうな気がしたのである。

何となくこの火薬庫っておどろおどろしい場所の気がする。
幽霊が出そうだとかそういうのではなくて体感的に。

隧道側の外壁レンガに気味の悪い樹木を見つけた。


どういうわけか地面にではなくレンガの上に生えてここまで大きく育った樹木。
木の根がタコの足のようにレンガ壁にまとわりついていた。
今思ったのだがこの部分のレンガが白いのは…?何か文字が描かれていたとか?


敷地外側を囲うレンガ壁。初回訪問時はこの辺りは完全に湖状態でまったく接近できなかった。
現在はここまで乾いているということは、曲がりなりにもここへ降り注いだ雨水の排水はまだ機能しているらしい。


実際、隧道は上部が覆われているし火薬庫もかつては屋根があった筈だが、それ以外の敷地は雨が降れば容赦なく水が流れ込んでいた筈だ。現役時代はそれらの排水をどうしていたのだろう…自然の蒸発と地中浸透だけで処理できていたのだろうか。
雨水排水管が布設されていたはずだが多分もう見つからないだろう

改めてレンガ隧道の入口から火薬庫の全容までを動画におさめた。

[再生時間: 1分56秒]


最後にこの火薬庫の裏山に登ることを考えた。
火薬庫の敷地内から直接裏山に向かうのは無理だ。敷地から裏山までの直高は目測で5m以上で、削られた斜面は今なお原形を保っていて足を掛けられる部分がない。


裏山に登るのは、高い場所から火薬庫とレンガ隧道の双方を収めるアングルの写真撮影以外にも目的があった。この火薬庫について情報を寄せられた方から次のような別物件を示唆する調査依頼があったからだ。[1]一部を引用する。
> 自分が小学生の時、ある正課クラブの探検でこの付近の山林を探検した友達から聞いた話だと道沿いの遺構以外に更にその少し奥に別の遺構がある??らしいです。真偽は不明ですが。
その上奥の建造物はコンクリート製?らしいですが今となっては奥の建造物は自分の中で都市伝説化してます(中略)
> 本題の火薬庫跡の件は大変興味あります。ご参考になれば…私の都市伝説に白黒つけていただければ幸いです(笑)よろしくお願いいたします。
この情報は場所の示唆を頂いたときから既に得ていた。しかし初回踏査があんな状況だったから、裏山へ分け入るような時期ではなかった。
今回は条件が非常に良い。やれるときに取り組んでおかなければならない。そうは言うものの敷地内を歩き回ってみても全体が深く抉られた擂り鉢状で、直接登れる場所が見当たらなかった。

隧道の内側に斜面が幾分緩やかになっている場所を見つけた。
ここからならどうにかなるかも知れない。


斜面はそれほどきつくはなかった。しかし堆積した木の葉と朽ちた木の幹がもの凄い。地山が一部しか見えず地面の状態が分からないのと、周囲に身体を預けられる生きた立木がなく安全に登れる自信がなかった。
結局、一旦レンガ隧道をくぐって市道側の斜面からその上部によじ登った。

その途中に写した隧道上部。レンガの二重巻き立てになっている。
土被りは殆どないが、そもそも隧道の真上に相当大きな樹木が育っているので人が乗った程度でどうかなるだろうかと心配するに及ばない。


レンガ隧道の真上に立っている。
開削工法でレンガ隧道および火薬庫の敷地を確保するために山を切り崩し、後からレンガを組み上げて通路にしていると思う。


抉られた敷地の縁から火薬庫を撮影している。
撮影位置は火薬庫の最上部レンガよりも高い。


斜面の至る所に木が生えているので火薬庫と隧道の両方を明瞭に写すのは困難だった。


もう一つの課題 - この火薬庫の奥にあるかも知れない未知の遺構 - についても調査してみた。

火薬庫として深く掘り下げられている領域はそこだけだった。裏山は見たところまったく普通の状態の雑木林が延々と続いていて特に変わったものは見当たらなかった。獣道レベルの踏み跡もまったくなさそうだった。
時期柄藪はそれほどきつくないのでその気になれば八王子神社のある方向へ藪を漕いで進むことはできた。しかし次の2点を理由に先の調査は行うまでもないと考えた。
(1) 報告にある「上奥のコンクリート製建造物」は、部分的にコンクリートが使われた火薬庫そのものと考えられること。
(2) この火薬庫跡が現在の八王子神社と何の関連性もないのが明白なこと。
既に試みたように、火薬庫の敷地内から直接現在場所へ登る方法がない。何か関連性のある遺構があるなら、例えば敷地の一部に裏山へ登る階段など到達する手段が存在する筈だ。火薬庫の敷地は完全にそれ自体で完結しており何処にも通じていない。
幼少期の子どもなら、私が今しているようにレンガ積み隧道をくぐって一番奥まで到達できたかは疑問だ。まずあの水路を横切る手段が要る。レンガ積み隧道は市道からでも藪越しに見えるが、その奥に火薬庫があることはあの隧道をくぐらないことにはおぼろげな外観程度しか分からないだろう。あるいは斜面によじ登り、敷地の中にレンガ積みの何かがあると視認した程度ではないだろうか。
断定はできない…火薬庫とは関連性のない独立した新たな遺構を見逃してしまうかも知れないので^^;

この火薬庫跡から八王子神社は直線距離で50m程度しか離れていない。それ故に当初は私もこのまま藪を突っ切れば八王子神社の裏側に出て来るだろうし、何かの関連性を疑っていた。
現在では火薬庫跡と八王子神社の関連性はまったくない(筈だ)と考えている。それと言うのも現在山口宇部道路沿いにある八王子神社はオリジナルの位置ではなく、山口宇部有料道路が通されることによって移転されたもの[2]だからだ。山口宇部有料道路の供用開始は昭和50年代に入ってからのことなので、火薬庫跡が造られたのとは全く時代が異なる。
それ故に火薬庫の背面から八王子神社が見えるまでは藪を歩いていない。しかし周囲にあるものは一応観察はしてきた。

一つ目は火薬庫のすぐ裏手にあった黄色い境界杭。
プラスチック製で「境」の文字のみが読み取れた。


この杭から半径10m以内の場所にあった石碑みたいなもの。
積もりまくった木の葉の間から僅かに頭をのぞけていた。


注意していなければ石が転がっているものと見過ごしてしまうだろう。
明らかに人為的に加工された形をしているし、大体ここはこの種の御影石が産出するような場所でもない。


御影石は地面に転がっているのではなく地中深く刺さっていてまったく微動だにしなかった。側面には漢字一文字が陰刻されているように思われたが何の文字かは読み取れなかった。先のプラスチック杭よりは古い境界石だろう。
これらの火薬庫との関連性は…精々、火薬庫用地と民間保有の山地との境界程度だろう。

火薬庫とレンガ隧道の双方を同時に収めるアングルで、木の枝が覆い被さらないような場所を何とかみつけて撮影した。
もう一歩も前へ踏み出せない。敷地へ転落すればエラいことになってしまう。


横からのアングルではこれが精一杯だ。
冬場の今でこれだから、春先以降はジャングル化して殆ど何も見えなくなるだろう。


同じ場所から火薬庫の敷地内へ降り、隧道を通って退出した。

まだ見ていない壮大な遺構の発見を期待したが、この場所には通路用のレンガ隧道と火薬庫以外他には何もないと思う。もっとも初回にこの物件を見落としたときと同様、火薬庫のある裏山には更に未知の遺構が眠っている可能性はあるかも知れない。それは記事を見て現地へ赴く方々の愉しみとして遺しておくことにする。
出典および編集追記:

1. 2013/9/2 の読者からの情報提供による。

2.「宇部ふるさと歴史散歩」p.82による。また、同じ日の直前に立ち寄った八王子神社で正月の飾り物を撤収する担当者に会うことができて、有料道路を造るとき移転したという話を伺うことができた。

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