市道上梅田丸河内線・横話

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ここでは、市道上梅田丸河内線の派生記事をまとめて収録している。
《 三心円 》
記事作成日:2016/2/1
記事編集日:2016/2/12
三心円(さんしえん)とは異なる半径を持つ円を複数(多くの場合は3つ)接ぎ合わせることによって示現されるカーブ構造に対する土木施工用語である。

…と言っても読者の99%以上はまったく耳慣れず聞いたことがないキーワードだろう。

三心円とは一体どんなものなのかを具体的に見ることが出来る場所を個人的関わりにより知っている。それこそが本路線の終点となるこの場所なのである。


この場所を示した地図である。


ここは宇部市と山陽小野田市の市境付近で、かつて国道190号が対面交通だったときの旧道区間が本路線と接合される場所である。平成3年度の国道の線形改良および拡幅(中原改良工事)で現在の4車線区間ができたとき、旧道部分からの取り付け工事として施工された。
したがって市道区間ではあっても建設省発注の中原改良工事の元で施工されている

本路線の終点から国道側を撮影している。
国道からの退出が1レーン、流入は左折直進と右折が1レーンずつの構造で、これ自体は珍しいものではない。


着目すべきは道路面ではなく、その外側にあたる縁石部分である。上の写真からも分かるように縁石の左右の曲がり方が異なっている。小野田側は全体がカーブしているが、宇部側は中間部分が直線に近い形状をしている。
この中間部分も実は直線ではない

多くの人が縁石と呼ぶこの部材は歩車道境界ブロックという名称で、高さによりいくつかのタイプがあるものの一個の長さは(役物を別として)60cmである。即ち縁が直線の部材を少しずつ角度を変えて据え付けることでカーブを形作っている。そのままでは縁石同士が接する部分が空いてしまうので、空いた部分に目地モルタルを充填することで調整している。

カーブの状況が分かりやすいように接近して撮影した。
これは小野田側の縁石部分である。


歩車道境界ブロックの描くラインが単一の円弧の一部になっていないことに気づくだろう。写真手前側の円弧の半径は、国道へ直角に取り付く部分よりも小さい。この結果、国道へ取り付く部分は縁石がカーブしていながら直線に近い形となっている。その先では再び半径の小さな円となっている。このように異なる半径の円を接合することで連続した曲線を造るこの構造を三心円という。

三心円のイメージ図を描いてみた。
この中では紫色で着色された曲線部分がそうである。上の写真の縁石も本質的にはこれと同じ方法により示現されている。


この図からも感じるように、三心円構造は傍目にも不自然で美しいものではない。歩車道境界ブロックのラインをしげしげと眺める人など居ないから成り立つ仕様であって、美的感覚を要求されるデザインの設計には現れそうにもない。この場所で縁石のラインに三心円が採用されたのは、新旧の道路敷で挟まれ不定形となって残されることとなった植樹帯という理由にあるのかも知れない。

縁石をどのように設置するかは、平面図をはじめとする設計図書で指示される。設計図書には設置する位置や使用する材料などが明記されている。縁石のような設置物のカーブは円弧が指定されることが多く、どの程度の曲がりで据えるべきかは円の半径として提示される。

この場所を航空映像で眺めてみると全体像がはっきりする。


さて、この場所の縁石設置については私も測量の形で施工に携わり、平面図などを見てきた。当時のことを思い起こしてみると…青焼きされた平面図の該当部分には、確かに異なる半径を持つ円弧が接ぎ合わされ記載されていた。
平面図を見ていた当時の現場代理人は、この縁石部分の設計を見るや「変なカーブと思ったら三心円で設計されとるやないか」とつぶやいた。現場ハウスに居たメンバーが図面を拡げられたデスクに集まると、現場代理人は件の場所を指さして渋い顔をした。

初めて耳にした言葉なので、家へ帰ったとき親父に話してみたらただちに知っていると答えて、半径が異なる円を接ぎ合わせて擬似的な曲線を造る構造だと言った。言葉の由来は、半径の異なる3つの円から構成されることが多いからというようなことを話した。そう頻繁に出会うことはなかったが三心円の施工例はあるという。そして測量に手間がかかって厄介だとも。

クロソイドなどの”高級な”曲線に比べれば単曲線とも言われる円弧はかなり単純で素直な仕様である。それでもカーブの位置決めを行うのは直線に比べて遙かに面倒である。直線が欲しければ固定された2点間に水糸をピンと張れば施工可能な精度で容易に求められるが、円弧はそうはいかない。定式化された方法は確立されているが、数値計算と相応な道具が必要である。まして半径の異なる円弧が接ぎ合わされていればその分作業量が増えるのは明らかで、それ故に顔をしかめたものである。

ただしこの現場に関しては主要なポイントを座標で表現し数値データとして与えるシステムが導入されていた。更に引照の労力を少なくするためにコンサルが工事による改変を受けにくい場所に絶対位置の座標の控え(逃げ)を落としてくれていた。このため三心円構造ではあったが、円の中心を求めたり円弧に沿って数値計算していくのではなく、座標から施工に必要な中間地点などを計算して直接位置を与えている。それ故に三心円だからと言って特に手間がかかるわけではなかった。[1]

最近、当時の野帳が見つかったので参照しつつ解説する。
これは現地ですぐ把握できるように平面図から三心円部分のみを写した模式図である。


座標は専ら平面的位置情報であるx,yの要素のみを提示する。高さ要素のzは従来通りレベルで行っていた。[2]舗装天12.140とは設計で示される絶対高度で、高さの情報は既に据え付けが完了していた雨水桝の天端を利用していたようだ。

三心円の主要ポイントを座標換算したデータ。DT.はコンサルの与えた杭である。これに対して三心円の一部となる歩車道境界ブロックの前ツラ位置を計算し、野帳に書いている。
ただし理論計算で与えられる数値なので多くが実効用ではなく確認用だったと思う


高さを与えたデータ。
上の現地写真でも分かるように、三心円部分は国道に対して若干勾配がついている。そのため舗装天やブロックの高さにも当然反映される。
野帳の隣接するページを撮影した画像を接ぎ合わせている


あらかじめ現場ハウスでこれらの計算を行ってその結果を野帳に書き、現地へ測量器具一式を持って丁張をかけに出かけたのである。常時作業員の傍へついて指示を出さなくても仕事できる指針となる丁張を設置するのが現場監督員の仕事であった。
今になって思うに、どうして設計の段階で三心円という面倒な構造を取り入れたのかという気はする。道路中心はクロソイドで与えられていたからである。縁石如きでクロソイドを持ち出して設計するほどでもないと判断されたのだろう。かと言って車道に接する部分であり、縁石の線形を直線や折れ線で突き合わせるわけにはいかなかったのかも知れない。

現場での施工経験自体1年と少しだったが、三心円の施工はここだけだった。施工に手間がかかる上に見た目もそう美しいものではないため、既設部分との取り合いに用いられる程度かも知れない。最近はこの仕事からは遠ざかって長いので導入事例などは分からない。[3]
出典および編集追記:

1. もっともこの現場に従事した平成初期でもなお光波測量機器はきわめて高額だったため、斜長から水平距離換算するには未だにトランシットへスチールテープを当てて強く引っ張り、角度を読み取って三角法で算出するのが普通だった。冬の寒い時期にたるみがないようスチールテープを強く引っ張る作業は拷問級の辛さがあった。その手順が多くなることと目視で円弧を確認しづらいという問題はあった。

2. 位置の要素(x,y)を求めるのは最低でも道具はトランシットとスチールテープ、計算は三角法が必要なのに対し、高さの要素(z)の場合は異なる位置へ等しい高度を移動するレベルとスタッフ、計算は加減法のみで済むからである。

3.「2014年2月2日のタイムライン(要ログイン)
この投稿は「Facebookでの過去の思い出」機能の「Facebookでシェアした2年前の投稿を振り返ってみよう」により示唆された。なお、記事で三支円と書いているのは、検索で調べるまで当時から現在に至るまで間違えて覚えていたためである。
上の野帳でも三支円と誤って書いている

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