床波の海岸

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記事作成日:2017/4/1
最終編集日:2018/7/20
ここでは、床波地区にみられる奇妙な海岸地形について記述する。同地区において他の言及すべき場所が見つかった場合にはこの記事を総括化し個別にリンクする。
《 床波の洗濯岩 》
床波漁港の東側に鬼の洗濯岩の如く筋状に並ぶ露岩がみられる場所がある。
写真は漁港の護岸上から沖合を向いての撮影。沖合にあるのは鍋島様である。


上記の写真を撮影した地点をポイントした航空映像図を示す。
映像でも石の筋が走っているのが見える。


この外観は鬼の洗濯板のようであるが、細かく観察すれば岩質はかなり異なる。岩は粒子のやや荒い砂質であり、鬼の洗濯岩のように平面的に割れることはない。削り取られた跡は不定形で方向のみ一致している。その外観は恰も海の中に畑の畝が存在するようである。

幾条もの畝のような痕がついた岩盤は、海に向かって緩やかに傾斜している。潮が引くほど広範囲に観察できるが、満潮のときでも護岸に近い部分は海水に浸ることがない。


この畑の畝のような岩の成因はよく分かっていないが、永年の波により軟らかい部分が削られ堅い部分が残った結果と考えられる。初期は人為的な加工ではないかと思われたが、後に港の東側の浜辺(後述する)に同様の地形がほぼ同じ角度で筋状に残っていることから否定されている。

漁港のこの一角だけ非常に露岩が目立ち、護岸で仕切られた東側は船溜まりになっている。昭和中期の航空映像で調べると、東側の護岸が存在しなかった時期から既に同種の岩が観測されることから、元々は一枚岩だった上部が波の作用で削られたものと推察される。一枚岩の全体は北東方向が僅かばかり高くなっている。東側の護岸から先はぱったり消えている。斜面が海の中へ落ち込んでいてコンクリート護岸を造るときに内部へ取り込まれたようである。

畝の低い部分には海水が溜まりがちであり、小さなタイドプールとなっている。特に海水へ浸る頻度の高い沖に近い部分ではイソギンチャクが群生している。
拡大画像はこちら…かなり気持ちが悪いかも知れない


海水に浸らない岸辺付近は乾いていて、中には砂の層がかなり明瞭に出ている岩がある。
砂の層部分の拡大画像はこちら


常時海水には浸らない陸地に近い側の畝は特に起伏が大きく側面にあばたが目立つ。


この窪みは岩に対して側面に多数つけられており、河川の滝壺や海の波が頻繁に押し寄せるとき小石が転がり続けることで生じる甌穴とは成因が異なる。[a1]


水平な岩の上にある穴はこれらよりも深くて大きく水が溜まっている。
中には小さな貝類が棲み着いているものもあった。
近接画像はこちら


水平な岩の窪みについては他の石が入り込んだところに波の影響を受けて転がることで生じた甌穴の可能性もあるかも知れない。ただし現地を観察する限りでは大きな甌穴はなく、また窪みに石が残っているものもなかった。これは海岸や河床に甌穴がみられる場所に比べて岩質が異なること、経常的に同じ場所で窪みの中を石が転がり続ける場所がないためと思われる。

こうした特異な景観にもかかわらずこの海岸は西岐波地区の郷土マップなどには掲載がない。[a2]
《 周辺の類似する地形 》
同種の岩が港より東側の護岸外にある砂浜にもみられる。
【 東側の砂浜 】
岩は砂を被った状態で散発的に存在する。


潮が高いときは全体が隠れてさざ波立つ状態となるが、充分に潮位が下がれば同様の洗濯岩構造が観察できる。


場所によっては畝の間隔が狭くて浅い。大半が海水に浸る位置にあることから、海藻が付着しているものが目立つ。
極めて滑りやすいので歩くときは注意が必要


岩の質や形状が同じだけではなく、走っている筋の方向も漁港にあるものと同じであることから、一連の岩が人工的な加工ではなく自然地形であることが断定される。

護岸に近接する場所では畝の上部がかなり削られ、あまり起伏が目立たない形状となっている。


この構造は白土海水浴場にみられる特徴的な不定形の岩肌に似ている。
【 床波の波止場 】
最初期の波止場がある沢波川河口部にも類似する構造の岩場が若干存在する。


一部には明白に上部を削った痕跡を持つ岩もある。これは船を陸地へ引き揚げるのを容易にするために人為的に削り取ったものと思われる。

外観は同一の岩ながら表面は緻密であまり凹凸がみられない。これは海岸の岩場に棲み着く貝類とは生態が異なるからだろう。


同様の岩場は沢波川を遡行して権田橋周辺にもみられるので、内陸部まで及んでいるようである。しかし海岸に限定してもそれ以外の場所ではみられない。特に西側は一面に砂浜で岩そのものが観察されないが、砂をかぶって隠れている可能性もある。東側の白土の海岸では岩質こそ類似するものの特徴的な筋状構造はまったくみられない。更に東側の村松では不定形の露岩となっている。
成因も岩質も異なるが筋状の岩が露出する日南海岸の景色について。
総括記事: 日南海岸
《 その他の情報 》
・港側にある畑の畝状の地形は、市広報広聴課によって作成された対外向けの観光案内マップの表紙写真となっている。この写真は床波漁港の朝日として景観的に評判が高かった写真を撮りに行ったときに偶然たどりつき、エフェクトを交えて撮影したものとされている。

・2017年9月27日のこと(株)宇部日報社の「サンデー宇部企画」で、宇部マニアックス的地元探訪記の Vol.16「床波の洗濯岩」として配信された。当初はやや憚って「床波の海岸」にしようと思っていたが、同年3月に本場宮崎の「鬼の洗濯岩」を視察していたこともあり、読者アピールの意味も兼ねて床波の洗濯岩とした。この中で東側の砂浜にほぼ同一方向に筋状構造をもつ岩が見られることを理由に、自然地形であろうと言及している。

・2018年7月2日〜8日のこと山口ケーブルビジョン(株)の自社番組「にんげんのGO!」において、風景印が配備されていない床波郵便局のデザイン候補としてこの場所が紹介された。放送に先立ち、同年2月27日に吉部編と合わせて現地ロケを行っていた。[a3]ただし撮影は漁港のみで行われ東側の砂浜は取り上げていない。
出典および編集追記:

a1. この近接した穴がたくさん空く原因は石に付着した貝類などが分泌する酸によるものと考えられている。岩に固着する生物のうち強い波によっても洗い流されることがないように自ら酸を分泌して岩を削り取り波の抵抗を少なくすることができた種の環境適用と思われる。「FBタイムライン|穴ぼこ石(1)および「FBタイムライン|穴ぼこ石(2)の読者コメントも参照。固定された岩礁ではなく比較的小さな転石に反対側までトンネル状に貫通しているものは、本虫のような環形動物によるものかも知れない。

a2.「宇部市|文化財マップ西岐波ふるさと発見マップ(PDFファイル)

a3.「山口ケーブルビジョン|にんげんのGO!|今週も宇部マニアックス。先週よりマニアックス。に現地ロケの最後に撮影された一コマが掲載されている。
《 個人的関わり 》
床波漁港の近辺へ行ったことは過去にあったが、この場所を知ったのは比較的最近のことである。

注意以下には長文に及ぶ個人的関わりが記述されています。レイアウト保持のため既定で非表示にしています。お読みいただくには「閲覧する」ボタンを押してください。

2017年3月に日南海岸を訪れて本場の鬼の洗濯岩を観察後、床波の海岸にみられるこの景観と対比して考え再度現地へ赴いて詳細な撮影を行った。この総括記事はそれらの写真を元に作成されている。
出典および編集追記:

b1. 学童期、親父が釣りに凝っていたとき釣りの餌となる本虫を採取するのについて行ったことがある。場所は何処だったか覚えていない(市内の海岸かどうかも不明)が、つるはしで緑色をした比較的柔らかい岩を掘り割って採取していた。本虫は自分で岩に穴を掘って中に棲息していると聞き、あのグニャグニャした動物が堅い岩に穴を穿つというのが信じられなかったのを覚えている。その後親父は餌の採取をせず釣り具店で買うようになった。労力に見合わないこともさることながら、海岸を荒らす行為として禁止されたのかも知れない。

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