日の山ポンプ所

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記事作成日:2021/5/15
最終編集日:2021/5/15
日の山ポンプ所は、東岐波地区の日ノ山南西の裾野に存在する設備である。
写真はさやの池を挟んだ対岸からの撮影。


この構造物の位置を地図で示す。


この設備は、昭和40年代半ばに旧阿知須町の給水戸数が急増して自前の簡易水道では賄いきれなくなる恐れがあったため、宇部市側から限定的に給水を行っていた時代のものである。現在は使用されていないが、後述するように廃物となっているわけではない。
《 概要 》
さやの池の南側に入口がある。
現在は使われていないため、立入禁止の掲示はないが柵で塞がれている。


門柱の銘板は1971年(昭和46年)5月となっていた。


錆び付いた鋼管と縞鋼板の蓋が見える。
下側のコンクリート部分が水槽で、上部の建屋にポンプ設備が格納されているのだろう。


建屋の裏から撮影。
侵入されないように開口部は塞がれている。
水槽部分に鋳鉄のバルブが見えている。


鋼管が錆びまくってコンクリート水槽部分もひび割れの補修跡が目立つ。現状を見る限りでは既に廃物で、コストを掛けてまで取り壊すこともないために放置されているように見える。

ポンプ所であったということは、現在地より高い場所まで上水を押し上げて給水していた筈である。この経路は恐らく古道サヤノ峠を経由する道沿いで、現在も表面が削られた鋳鉄蓋や給水槽の痕跡らしきものが見られる。その状況から配管は死んでおり日の山ポンプ所自体も廃物になっていると考えていた。最近、これを否定する証言が得られたためにこの総括記事を新規作成した次第である。
《 歴史 》
以下は[1]を元に、阿知須町の上水道供給状況を阿知須側視点でまとめたものである。
昭和39年阿知須町中心エリアにおける簡易水道事業計画策定。
昭和40年6月簡易水道の給水開始。
昭和44年7月町内の給水戸数増加により給水不足が見込まれるため宇部市側に給水を要請。
昭和45年12月宇部市議会において阿知須町における公共施設への給水を議決。
昭和45年5月日の山ポンプ所、分水槽、受水槽が完成。
昭和46年6月宇部市側より分水を開始。
昭和54年山口小郡地域広域水道用水供給事業に阿知須町が参画。
昭和58年8月広域水道より阿知須町への給水が始まる。
昭和63年3月宇部側からの給水を停止する。
昭和中期以降、阿知須町は給水戸数が増加して自前の簡易水道では足りなくなる恐れがあった。この時点で既に宇部市は東岐波地区までの上水道整備が終わっていた。このため阿知須町は不足分の給水を宇部市側に打診してきた。

宇部市内の上水を市外へ給水することとなるので、議会の承認を必要とした。こうして初期には先住者の東岐波地区住民の上水使用に支障を来さないよう夜間の需要が少ない時間帯に給水し、貯水槽に貯め置く方式で承認された。上水を押し上げるポンプ所は元より、分水設備や受水槽、阿知須側までの給水管布設はすべて阿知須町側が負担している。水圧低下などの影響が殆どないことが判明した後、夜間限定の給水から公共設備向けの分水に切り替えている。

この時までに阿知須町側で上水問題を解決すべく、山口小郡地域広域水道用水供給事業に山口市・小郡町・秋穂町と共同参画した。広域水道からの給水が行われることにより次第に宇部側からの給水需要が薄れ、昭和63年に停止されることとなったのである。

受益者が阿知須町であり、関連施設の建設も阿知須町側が負担しているため、日の山ポンプ所は宇部市上下水道局の所管ではなく山口市阿知須町の所管と思われる。ただし現地にはそれと分かる銘板などはない。サヤノ峠の最高地点付近に貯水槽があったと思われるが、造成などにより切り崩され喪われたようである。
《 近年の状況 》
貯水槽が見当たらないため、日の山ポンプ所は廃物であろうと推測していた。ところが比較的近年とも言える2009年のこと、阿知須地区に給水ができなくなったとき日の山ポンプ所を介して宇部市側から上水を供給することで断水を回避できたという報告が阿知須地区在住者から得られた。[1]

報告によれば、2009年に起きた豪雨災害で山口市朝田地区にある浄水場が浸水被害を受け、阿知須地区への給水ができなくなった。このとき日の山ポンプ所を再稼働させることで宇部側から緊急的に給水し、阿知須地区の一部は断水を免れたという。

私が初めてサヤノ峠を訪れたのは2011年のことなので、豪雨災害後のことである。現地は受水槽が見当たらず配管も緊急に布設したような形跡がなかった。したがって日の山ポンプ所の機能は元より阿知須側までの給水管は温存されていることになる。受水槽が存在しないので充分な水圧と供給量は満たせなかったが、それでも最初に赤水が出ただけで低水圧ながら上水が供給されたと報告されている。
【 ライフラインの温存について 】
この事実は可能な限りライフラインを二条化(できれば多条化)しておくことの重要性を示唆している。過去に相応なコストを掛けて建設した設備や布設された配管は、その存在が支障を来すとか維持費が極端にかかるのでない限り、わざわざ再びコストを掛けて撤去することの再考を促すものである。

上水道はいくつかあるライフラインのうち、不具合が起きたときの影響がもっとも大きいものである。高機能なものを新規に造った後で低機能なものを除却しがちであるが、特に上水や工業用水関連の設備は多条化が必要である。上水を造り出す施設の一つである中山浄水場の将来的な廃止が決定されているが、稼働を停止した後も取り壊すのではなく最低限の機能を維持し緊急時には使えるようにするのが望ましい。
《 Googleストリートビュー 》
市道岐波門前線の通行時にやや遠くではあるが日の山ポンプ所が写し出されている。

出典および編集追記:

1.「宇部の水道」p.115〜116

2.「FBページ|2021/5/4の投稿」に対する読者コメント。

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