3号配水池より一段低い敷地にまとまって置かれている石材…それが何であるかは以前から気になっていた。
これは一昨年の秋口、市道藤曲門前線をトレースしていたときフェンス越しに撮った写真である。
3号配水池のすぐ下の段に古びた石材が積まれていることに気づいていた。[2013/11/12]
3号配水池のある敷地には何台かの車が見える。このときは定期点検している業者に混じって立ち会いに居た市水道局職員の姿があり、私があちこち写真を撮りまくっていたために呼び止められてしまった。車を乗り入れるために門扉は開いていたが、まさか入るわけにもいかず遠巻きに眺めるしかなかった。
一般見学でフェンスの内側に入っている今なら自由に眺められる。まあホントに勝手にここまで立ち入って自己見学して良いのかどうかは分からないが…
市ガス水道局の敷地はここまでらしい。フェンスの外側は私有地でゴルフの練習場になっている。
(そのような看板が出ているが私的物件なので写真は撮っていない)
この場所は3号配水池があるエリアより2mくらい低い平場になっていた。かつて何かがあった場所なのかもと思ってエリア内をうろついてみたが、若干地面を掘った痕跡らしきもの以外何もなかった。はるか昔配水池があったなどというわけではなさそうだ。将来の設備増強を見越して早期に土地だけ確保しておいたのだろう。
それから気になっていた石材の山へ近づいてみた。
遠くから見ると線路の枕木のようにも見えていたが、間違いなく石材だ。
コンクリート柱のように見えるそれらは全部加工された石材だった。ほぼ同じサイズである上にきちんと面取りまでされていた。
その丁寧な加工ぶりから正体を推測するのは容易だった。
これは旧1号配水池の外周を覆っていた部材ではないかと思う。3号配水池を造るとき旧1号配水池を部分的に削っていることは分かっている。そのとき発生した石材を廃棄することなくここへ集積したらしい。
同型の石柱だけでなく役物の石材もいくつか転がっていた。
配水池のコーナーに使われたものだろう。
保存しておいたからと言って何か他のものに転用できるとも思えない。そうは言っても仮にも大正期に造られた構造部の一部である。産廃処理場送りに…なんてせず空き地へ積んで保存しているだけでも賞賛モノだろう。捨てるのは容易だ。しかしたまさか当時の職人が遊び心で石材の一部に何かを刻み遺していた…ということもあり得る話なのだ。
再び現役設備のある3号配水池エリアに戻る。この辺りは3号配水池に付属する現役設備が集まっている。
赤地に白の立入禁止看板が目に痛い。一般開放日に入っているとは言っても関係者からすればあまり詮索して欲しくない設備群であることは確かだからだ。
市道のすぐ近くにある設備群。周囲はすべて舗装されている。
見るからに近代的な設備だ。関係者しか立ち寄らないので何のための設備であるかの説明板などはいっさいない。
関係者が出入りすると思われる扉に接近してみた。
外気との換気を行うために設置されたルーバーの内側からは運転音が漏れていた。
その隣りにある直方体の建物。
こちらはもっとシンプルな造りだ。これも何のためのものかさっぱり分からない。
当然中へ入ることはできないし外から見ても何の設備か分からない…そういった建物をしげしげ観察することの意義は何だろうと訝る読者もあることだろう。一体何を見ているのかと問われれば、旧来からある設備との対比と現代のこういった建屋の構造の特徴である。
例えば先ほどの設備を側面から見ると、この種の設備には結構よく見られる採光窓がある。
こういったスタイルの採光部を見たことがあるだろう。かなり厚手のガラス部材をいくつも並べている。一般家庭向けとしてはそれほど見られず、こういった構造物の他に医院や銀行などの玄関付近によくみられる。明かりは採りたいがセキュリティーはある程度持たせておきたい場所に使われる。
この構造物も採光部分をもたせないと内部は真っ暗になるので、保守時のことも考えて造られている。しかし一枚モノのガラス窓だと割られやすいし、厚手のものは高価だ。昭和中期から現代にかけての設備に造り付ける採光窓として用いられている。専門ではないので何という名前の資材なのかは分からない。
このように時代に即した構造物やその意匠を観察することで、他の分野においても何か気になる構造物や設備を見つけたときそれがいつ頃造られたものかを推測する助けになる。数多くの現物に接することで見る目が養われて判断がしやすくなる。もっとも「それは何だろう?」という興味が前提にあることに変わりはない。
このエリアへ来たとき最初に目にとまったコンクリートの水槽らしきもの。
1m程度の高さがあって容易に昇降できるように鋼板の階段が造られていた。
水槽横の地面からは便所の臭突のようなものが生えていた。
もっとも臭突のように回転はしていないので外気との圧力調整用だろうか。
中山浄水場を経た上水の中継槽だろうか。上部には点検用と思われる蓋が付属していた。
点検用の人孔かどうか分からないがこの下には直接飲用に供される上水が通っているらしい。
通常の蓋よりも密閉度が高く接合部には大きな錠前が下ろされていた。
上水関連でこの種の蓋を見ると、最近ニュースで報じられたある非常識な事件を連想する。配水設備へ侵入し、水槽の点検蓋の錠前を切断して中にゴムボートを浮かべて遊んだ…という事例だ。[1]常識的な感覚を持ち合わせる人なら何が面白いのか到底理解できないし全く救いがたい犯罪に映る。
ただ、こういった行為に走ってしまう心理を分析することはできる。非日常的なプレミアム感の体験願望からだろう。大多数の常識人が普通なら実行しようとも思わない行為は絶対数としての稀少性がある。その実体験を語ることでプレミアム感に浸るといった自己満足である。その裏には汚れた浄水を飲まざるを得ない人々の存在は完全に消えている。
人々の生活へ大きな影響を与え得るライフラインに係る設備だけに、何処の自治体でも相応な注意を払って対処されている。写真でも推察されるように、糸鋸とニッパー如きで容易に破壊し開けられるような蓋ではない。ただ、本気でテロ行為を企てるような輩はどれほど厳重な防御環境をもってしてもそれを破るだろう。
(私が写真付きのこんな記事を書いたから犯罪が起きた…などと濡れ衣を被せないように)
普通の感覚の持ち主ならそんなに強い関心を抱く現役施設でもなければ長居は無用だ。そろそろ引き返そう。
フェンスの外で誰が見ているか分からない。もし第三者から水質以上などの報告があったとき、ここで写真を撮っている私が第一容疑者に仕立て上げられるのは明白だ。
3号配水池の横まで戻ってきた。
はしごで水槽の上部まで容易に上がれる状態だったがいくら一般開放時と言ってもさすがにやめておいた。登っただけでも何か悪いことを企んでいると誤解される。
気分はそろそろあの展望台からの眺めに向かっていた。元々はそれが目当てでここまで来ていたので。
地元の方が詰めているユニットハウスへ向かおうとしたのだが…
あと一ヶ所、ちょっとここだけは撮っておきたい…というものを見つけた。
展望台へ向かう階段のすぐ下だ。
塗装業者の遺した仕様の記載が見つかった。
塗装の仕様はいいとして3号配水池の名称がここでも確認できた。
このような塗装履歴は規模の大きな公共物ではかならず記されるようで、水管橋や鉄道の橋りょうでも同種のものが見られる。水管橋などは関係者以外に名称を提示する必要性もないからか地図や関連資料でもしばしば名称が省かれていることがある。特に鉄道の橋りょうは現地で塗装標識を見ない限り名称が分からず、設置年が古いこともあって昔の地名を探る重要資料にもなっている。
旧1号配水池と3号配水池との境界部分である。
旧1号配水池を部分的に削り、後から断面に新しくブロックを据えたことが分かる。
さて…今度こそは3号配水池の展望台だ。
ユニットハウスに向かい、なおも雑談に花を咲かせている中ちょっとお邪魔だが入口のガラス戸を軽くノックした。
(「桃山配水地【4】」へ続く)