桃山配水池【5】

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(「桃山配水池【4】」の続き)

思えば外の景色を写すことばかりでまだ展望台内部がどうなっているかを撮影していなかった。
こんな感じだ。外側は全面ガラス張りで床付近には換気口のルーバーがある。


窓ガラスは嵌め込み式で開閉は当然できない。枠の部分が少ないので強い台風が来たらちょっと心配である。
窓が固定枠ってことは汚れても掃除するのが大変そうだ。しかしどのガラスも新品とあまり変わらない透明度を保っていた。埃などが付着しにくい素材なのだろうか。

さっき上がってきたらせん階段も展望台の内側からガラス越しに見えた。
これらの窓ガラスも殆ど汚れていない。


このように展望台の内部そのものはきわめてシンプルな造りである。元々は浄水を貯めることが目的で、高さを生かして遠方を眺めるための展望台を設置しているので本来の業務には必要ない。恐らく関係者も点検に来ることはあまりないらしく同心円状の通路にゴミ箱や掃除道具など何も置かれていなかった。

窓ガラスの透明度と見学者向けのサービスを共に示す面白い映像がある。
撮影の立ち位置によってはこういう状態で撮れる。


まるで撮影後の画像にテキスト文字を上乗せしたように見えるが実際には窓ガラスに透明の粘着テープへ印刷した文字が貼られている。主要な建物がどの方向にあるのかの案内だ。

市街地方向には公共施設のみならず市民にとって馴染み深いと思われるホテル名なども記載されていた。


この掲載基準はどうなっているんだろう…ある程度の高さがあって天候によっては本当に直接視認できる程の建物が選ばれているのだろうか。特にホテルの名称だけ他の文字より大きめになっているのが目を惹く。
市ガス水道局に広告料を支払って目立つよう掲載してもらっているとか…

窓ガラスの真下には自分の居る3号配水池そのものも見下ろせる。
ドームの上にいくつも点検用の人孔らしきものが見えた。


1号配水池と同じく水の文字と宇部市章がドーム上にペイントされている。
あまりにも大きい。この写真一枚だけを掲示して市内にある何を写したものか問うパズルとして使えそうだ。
後でちょっと試してみようと思う


さて、そろそろ退出しようか…

展望台かららせん階段へ向かおうとしたとき、初めて扉が2つあることに気づいた。
一瞬、自分がどっちの扉からここへ来たのか分からなくなった。


どちら側の扉を開けて入って来たのか…それはドアノブを回すことですぐ分かった。らせん階段への扉は自分で解錠したからすぐ開く。しかしもう一方は当然ながら施錠されたままだった。
このもう一つの扉って何?


展望塔へ登るらせん階段は、展望塔の円柱部分をフルに使っている。それ以外に扉が要るのだろうか…これは一体、何処へ向かう扉だろう?

手元の鍵の束は今まで解錠してきた以上の鍵がぶら下がっていた。もしかすると…この扉に合う鍵が混じっているかも知れない。そこで片っ端から鍵を突っ込んで回してみた。

まさか…とは思ったのだが、
開いた。
ホントに開いた。一体ここには何があるんだろう…
開けて入ってみてもいいよね?。だって手持ちの鍵で開いたんだから…


扉の向こうはらせん階段換算で4分の1周に相当するスペースがあり、事務椅子が2脚と古びたワゴンが放置されていた。
何で椅子が要るんだろう…もしかして見学者に説明する担当者がここに常駐していたとか?


いや、そんな筈もないだろう。扉には採光用の窓があるだけでスペースの内部には蛍光灯もコンセントもない。扉を閉めたら暗くなるし夏場は暑苦しくて居られたものではないだろう。

しばしこの狭いスペースを観察することでその存在意義が理解できた。
壁面にアルミ梯子が取り付けてあり、天井の四角い開口部へ向かっていたからだ。


これは展望塔の屋上へ出るための梯子だ。何のための用途かは分からないけど、屋上に計測器やアンテナ類が設置されているとしたらそれらの保守目的だろう。この梯子を格納するために施錠された扉で隔離されたスペースを造ったのだ。
開口部には先ほど管理区域内をうろついていたときにあった中継水槽の蓋らしきものの内側が見えていて、チェーンが巻かれ南京錠がぶら下がっていた。

一瞬、手持ちの鍵の束を見て考えかけた。
合う鍵があれば展望塔の屋上まで出られるとか…
さすがにそれは止めておいた。いくら鍵を渡されているからと言ってそんな場所まで出てOKとは思われない。多分、あの蓋の南京錠を解く鍵はこの束の中には含まれていないだろう。それで実際に試すのも自重した。
ガチャガチャやっていてもし本当に蓋が開いたら…自分は屋上へ出るだろうか…多分怖くてできない

一般見学のときこの扉を開けて中を覗いた人は居るだろうか。遠方を眺めるのが目的で訪れた人ならまず扉の存在すら気に留めないだろう。他方、ネタ探しを求めている向きにはそれこそRPGの隠しアイテムを見つけたような気分だ。

こんな狭い場所だが、案外かつて一般開放中に説明目的で担当者が常駐していたのかもとも思われた。
隠しスペースの扉を開けておけばそんなに暗くはないし、座り心地を良くするための座椅子カバーが如何にもそれらしい。


普段は施錠された空間だけに置かれた備品などのどれもが埃を被っていた。
何故か古びたうちわが3枚置かれていた。窓も開かない閉め切った空間では夏場暑かったのだろうか…


主要な観光地やホテルではたいてい来訪者向けの寄せ書き帳が置かれている。私はそういうものを見つけたら常に足跡を残すタイプである。まさにそうしてくれと言わんばかりに鉛筆が一本ワゴンの上に転がっていた。

3枚ある団扇のうちから白い余白の目立つものを選んで足跡を残した。
壁面などに落書きなんてのはお行儀が悪いが、捨て置かれている団扇への鉛筆書きならいいだろう…
書き込んだ文字の拡大画像はこちら


たまさか展望台へ見学に行く便がある方で鍵を渡されたなら、この扉を解錠する鍵を探して足跡を見つけるなんてのも一興かも…
合い鍵が取り除かれてしまうかも知れませんが…

団扇など元に戻した後、その扉も元通り施錠しておいた。
さて、今度こそは本当に退出しよう。


そうそう…最初解錠するとき迷った鍵だが、展望台に出る最後の鍵は黄色いペイントのではなくテープが貼られているものだった。
もっとも次回訪れたときにはテープが剥がされ識別できなくなっているかも知れないが…


大人の背丈だと確かにらせん階段の天井は低い。もうちょっと一段の高さを上げて高さを確保した方が良かったのでは…


「何かあるのでは?」と目鼻を付けると徹底的に調べたくなる性分である。
らせん階段の始まり部分は下って来るときには終わりになる。しかし床面は当然水平だ。その内側の段々と低くなっている領域に何か隠れているのではなどと…


このあたりのイメージは恰もカタツムリやヤドカリなどの巻き貝から中身(?)を引っ張り出したとき、その奥が何処まで続いているか…のような興味に近い。
実際、何かあるように思われたので背中を屈めて奥を調べてみたが薄暗くてよく分からなかった

開けた順に展望台への扉を施錠して退出した。

点検口の上を覆っている奇妙な形をしたフード。
雨避けだろうか。まるでキノコのお化けのようである。
ズーム映像はこちら


ユニットハウスではまだまだ地元老人会のおしゃべりが続いていた。昔からずっとこの地に住む方だから何か面白い話とかご存じかも知れない。
鍵を返すとき何となく昔のことをいろいろ伺っていて話し込んでしまった。印象的だったのは桃山配水池があるここ開立(かいだて)という小字に関して尋ねたとき、私より上の世代と思われる地元の方ですら「確かに聞き覚えがある地名」のレベルにまで衰退してしまっている事実だった。昔、そのように言っていたから覚えているものの今は殆ど使われておらず、専ら東桃山の何班なんて表現をしているそうである。[1]大場山の件に至っては知らない、今初めて聞いた話という状況だった。もはや小字は昭和の歴史の一つとなっているのだろうか。
「もうちょっとしたらサクラの季節になるからそん時あたりにまた来ちゃったらえぇ。」
そう言ってテーブルを囲んでつまんでいたお煎餅数枚をビニル袋に入れてお土産にしてくれた。


自転車で乗り付けてから既に一時間近くが経っていた。これほど時間をかけた見学者は今まで居なかっただろう。
成果としてはもう充分だ。サクラの咲く時期に私自身が再訪するかは…さあどうだろう。黄幡公園などサクラを観て撮っておきたい場所はいくつもあるので。多分、私に代わってうちのメンバーかこの記事をご覧になった読者が花見を兼ねて眺めに行ってくれることだろう。
出典および編集追記:

1.「FB|2015/2/28のタイムライン(要ログイン)

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