ルール30(セル・オートマトン)

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記事作成日:2020/12/30
最終編集日:2021/1/1
ここでは、ある種の生体の表面模様をプログラムしているルール30について、包括的概念であるセル・オートマトンを含めて記述している。

セル・オートマトンおよびルール30の詳細については[1] [2]を参照されたい。後述する美しさの実例を紹介するのが骨子であり、セル・オートマトンに関して専門的知識は持ち合わせていない。まったくの素人が書いているので一部の表現やイラストなどに誤りがあるかも知れないことをお断りする。なお、一部の自力で調製することが困難なコンテンツ(具体的にはルール30により生成されるビットパターン)は、Wikipedia の該当項目にあるコンテンツをダウンロードし当サイトへ保存したものを表示させている。[3]
《 概要 》
いきなりセル・オートマトンなどの聞き慣れない用語を持ち出してリンクを提示しても何のことか分からないし興味も惹かない。そこでなるべく難しい用語を使わずに、これが如何に興味深い現象をもたらすかを書いてみた。
【 初期配置 】
2通りの状態(ゼロと1、○と×など)を取ることができるマス目が横に繋がっている構造を考える。一般化するなら2通りの状態を取るマス目が両側へ無限に繋がっているものを考えるべきだが、問題を簡素化するため二次元の座標系で x 軸と y 軸の交点に原点Oを設定するように、値1を取るマス目が一つあり、その両側のマス目はすべて0である初期配置を想定する。
ここでは分かりやすく2通りの状態として値0と値1で表現している。両側の…は、値0のマス目が無限に続くことを意味する。次に、一定の法則によりマス目の値を変化させる手続きとその反復操作を考える。
【 手続きと世代 】
値0か値1の2通りの状態をとるマス目が横に繋がっている中で、特定のマス目の値をXとする。このマス目に隣接する左右のマス目は値0と値1が入り得るから、Xと左右のマス目を含めた3つのマス目(以下これを「3セット」と呼ぶ)の状態は「0X0」「0X1」「1X0」「1X1」の4通りが存在する。Xは値0か値1を取るから、3セットのパターンは8通りである。

次にXをすべてのマス目に移動させながら3セットの状態を調べ、8パターンある状態に応じてXを「次世代で取る値」に変換する手続きを以下のように定義する。
マス目のパターン111110101100011010001000
次世代で取る値
次世代で取る値は、変化を観察しやすくするために変換前のマス目列(第一世代)の直下に「第二世代」として並べて配置する。第二世代のマス目列に同様の変換を行って直下に第三世代を配置し…以下同様に続ける。世代が進んでいったとき、マス目の状態がどのように変化するか、特定の値を取るマス目がどのように分布するのかを考察するのがセル・オートマトンの興味の対象である。

上に定義された手続きは、次世代の値を決定付ける設計書の役割を果たす。冒頭のルール30とは、3セットに対応した次世代で取る値の配列を2進数とみなすと 00011110 であり、十進法の30であることに由来する。

マス目に入るのは2通りの状態なので、区別可能な2種類の記号なら何でも良い。ルール30という設計書に基づいた操作による遷移パターンが重要なので、以後は見やすいように0の代わりに□、1の代わりに■を用いることにする。
マス目のパターン■■■■■□■□■■□□□■■□■□□□■□□□
次世代で取る値

初期配置を同様のマス目で表現し、各マス目の間隔を詰めて並べたときの画像イメージである。
まだ操作を行っていないので、次世代以降が描かれるべき領域を白く区別している。


ルール30では両隣が□であるマス目の次世代値は□なので、□が3連続するマス目の次世代値はすべて□となる。これは「無から有は生じない」という一般的理解に呼応する。したがって初期配置では■から2マス目以上離れたすべてのマス目が□になる。
【 世代遷移により描かれるパターン 】
初期配置を元に、ルール30を適用した世代遷移状況を視覚的に表現してみた。

初期配置からの変換による第二世代を直下に描いたところ。


第二世代に同様の操作を行って第三世代を直下に描いたところ。
既に非対称部分が生じている。


ルール30では自身が□でも■が右端または左端に1つだけあれば次世代で■に遷移するので、n 世代後は両端が■である長さ 2n - 1 のパターンとなる。したがって初期配置の■を頂点とした直角二等辺三角形の形状として成長していく。

16世代までの遷移をGIFアニメーションで作成してみた。
この遷移パターンに関して何が見いだせるだろうか?


実のところ細部まで観察するなら16世代程度では全く足りない。しかし手作業でこの描画を行うのは大変である。
幸い Wikipedia には十分に多くの世代遷移操作を行った結果の画像が載せられている。
(出典:Wikipedia - ルール30)


小さくて見づらいが、PNG ファイルで作成されていて拡大してもジャギーが現れることなく細部を観察できる。ダウンロードして画像閲覧ソフトで拡大すると見やすい。
ダウンロードはこちら

■と□の織りなす多世代パターンは、完全なランダムではない。稜線に近接する部分は近傍の連続する□の影響を受けるからか、特に左側にはかなり規則的なパターンがみられる。右側はそれほど明瞭ではないものの逆三角形状に白抜けした部分が規則的に出現している。

稜線から遠い中心付近では規則的パターンを見出すのは難しい。それでもある特定の世代から一定のパターンを反復形成している場所もある。放送終了した時間後にみられるテレビ画面のザーッという音と共にみられる嵐画像(最近はそういうのはないかも知れないが…)のようなランダムではない代わりに、簡素な言葉で表現できる全般的な規則性も持たない。まさに「ランダムと規則性の中間的な存在」である。
【 結果から得られた所感と考察 】
予備知識なしで上の直角二等辺三角形の画像を見てどのように感じるだろうか。

思うところは人それぞれである。殆どの人はこの図形というか描画されたものの意味が分からないし、ましてどうやって描いたのかも知らない。この方面への知見や格別の興味がなければ「何かおかしな図形」で終わってしまうだろう。

想像力(創造力でもあるが)を培う一つの方法に「似たものを探す」やり方がある。私は流れ落ちる水から発生する泡を想起した。形状は全然違うが、一定の量で流れ落ち続けているのに、何処でどんな大きさの泡が発生するかを前もって予測することができないのに似ている。両者に関連があるとすれば「直前の状態が次の状態に重大な影響を与える」点だ。

不規則に見えながら局所的に反復パターンが出現するのも興味深い。中ほど左側下にはストライプの垂直な線が連続してみられる。しかしそれは永遠に続くわけではなく、十分多くの世代を遷移させると、離れた場所で発生したイレギュラーが遷移して影響を与え、単純反復パターンを壊す事象が知られている。

大きな逆三角形が見える部分は■が連続するマス目の為せる業である。■が2連続以上していれば次世代のマス目は3分の2の確率で□になるので、突然に消失し白い逆三角形を浮かび上がらせることとなる。どれほど長く連続した■が現れるかは確率の問題だろう。
即ち出現確率が下がるだけで任意に長い■が連続した部分が存在するのでは…

ルール30はセル・オートマトンの一次元的要素の一つに過ぎない。次世代で取る値を若干変えれば、初期配置から生じるパターンはまるで違ったものとなる。それらを包括して驚嘆すべきことは、値1を持つマス目一つの初期配置と巧妙だが極めてシンプルな変換手続きから、全体像を容易に説明する方法がないほど複雑な図形が生成される事実である。

これは自然界にも見られる一見不規則かつ複雑な構造の多くが、実のところ同種の設計書と手続きによって生じていることを示唆する。そして実際このルール30で定義付けられる遷移パターンを呈示している生体が存在するのである。
《 生体に観察できる例 》
イモガイの一種であるタガヤサンミナシは、巻き貝の表面にルール30で定義されるものに酷似した模様が現れることで有名である。
写真はある素材販売店で購入したタガヤサンミナシの貝殻。


模様は外殻の巻いている方向に沿って伸びている。完全にルール30に則ってこの模様が形成されていると仮定するなら、外殻の何処から模様が形成されていったか推測できるかも知れない。


タガヤサンミナシは幾何学に傾倒しているのだろうか…否、この模様を外殻に纏うこととなったのは、単純な規則を元に自然界に見られるのと同様の構造を造り出して自らに迷彩を施すための適応だろう。およそ貝類は砂地に棲息するので、外殻の模様を砂地に似せれば外敵に見つかりにくくなる。何処かでそういった形質を獲得し、捕食される確率を下げられた個体が優勢になることで現在に至っている。

なお、タガヤサンミナシの貝殻はシーグラスなどの素材を扱う店で販売されている。詳細は個人的関わりを参照。

この巻き貝そのものは南洋でみられ、実のところ生きたタガヤサンミナシは大変に危険な巻き貝である。沖縄県で死亡事例が多いアンボイナに次ぐ猛毒を持っている。小魚など獲物を捕らえるために銛を撃ち込み毒を注入する。ヒトでも撃たれれば適正に対処しないと呼吸困難に陥り死亡する。

南洋の浜辺で美しい巻き貝を見つけたら拾い上げポケットに入れて持ち帰りたくなるだろうが、既に宿主が居ない貝殻であることをよく確認する必要がある。
恐らくこの種の巻き貝は瀬戸内海には見つからないだろう
《 個人的関わり 》
セル・オートマトンは概論でさえも義務教育で現れることがなく、全く予備知識がなかった。Wikipedia の項目を読むことにより、比較的新しい分野であることを知った。かつては「複雑系」という語で持て囃された分野であり、カオスやフラクタルといった語は一般にもかなり浸透している。その要素を少しばかり取り入れた家電製品などが特殊な機能を持つ製品であるかのように喧伝され販売された時代もあった。手元には関連する書籍が何冊かある。

セル・オートマトンは手続き的であり、カオスやフラクタルは幾何の要素が強い。しかし循環反復のない複雑なパターンが極めて簡素な手続き(定義式)で導かれることや初期値鋭敏性など共通する点も多い。そのいずれも従来の数学で習って常識のように考えていた「値 a と b が極めて近接しているなら関数値 f(a) と f(b) も同様である」や「自然界にみられる地形や構造の殆どは数学の基本的な関数や図形で容易に近似される」を覆す衝撃があった。
【 実物の入手 】
実物を見るまでに Wikipedia のルール30[2]に掲載された写真で知っていた。南方の海に棲息する巻き貝なのでまず貝殻は手に入らないだろうと思っていた。2019年10月11日に山口ケーブルビジョン「にんげんのGO!」のロケハンで市内を含めて各地を回り、昼食に東見初のラーメン店で食事をした。その後に隣接している「貝殻の問屋さん」に興味を持ちメンバー全員で立ち寄ったときにタガヤサンミナシを見つけた。貝殻を購入したのは初めてである。

数学上の概念や図形は、容易に説明できなかったり視覚化するのが困難なものが多い。タガヤサンミナシはセル・オートマトンのルール30を実物で説明できる格好な題材である。

セル・オートマトンではなくフラクタルになるが、カリフラワーの品種の一つであるロマネスコは独特なフラクタル構造を呈することで知られる。
一度だけスーパーで安売りされているの見つけて買って帰り撮影している。


多くのフラクタルな図形も極めてシンプルな手続きから無限の自己相似構造を造り出す。生体がこの構造を採用し適応したのは、限られた素材で表面積を最大にするなどの理由が考えられる。ちなみにロマネスコは撮影目的で買っただけではなくちゃんと調理して食している。
外観はブロッコリーだが食感はカリフラワー同様にやや硬くそれほど美味しいとは思わなかった

フラクタル図形の実例は寒い冬の朝に凍り付いたフロントガラス上の模様などにも見られる。丁寧に観察すれば、むしろ自然界にはごくありふれている構造かも知れない。
一連の記述はフラクタル図形の項目を作成した折りには移動する
【 記事制作のモチベーション 】
当サイトは当初、市内の物件と特に興味を惹かれる市外の題材に限定して記事化することを目的としていた。それ以外の話題は、別に設けたホームページやブログ、SNSに記述することを考えていたが、後にそれがいたずらに記事を分散させ管理が難しくなるだけで何のメリットもないことに気付いた。このため現在では記録しておきたい項目が生じる都度、必要なカテゴリやフォルダを新設して記事を作成している。

2020年の暮れにある方から身の回りの「美しい」と感じるものを募集しているという投稿フォーム[4]を紹介され、そこでSNSで繋がっているメンバーの多くが投稿していることを知った。項目しか読んでいないがそこにはセル・オートマトンの美しさを指摘した投稿も含まれていた。

当サイトでも美しさや形状の秀逸さを鑑賞するカテゴリとして「フォルムを愛でる」がある。数学の世界でとりわけ美しいと感じるものとして素数の分布が挙げられる。しかしそれは多くの読者を納得させるだけの視覚的な情報を与えるのが難しい。そこで現物が手元にあり、自分なりの理解もできているセル・オートマトンのうちのルール30を記事として試作してみることになったのである。
これから提出しようと思うが他の提出者とダブらなければ良いのだがと心配している

義務教育からもたらされる数学の世界は極めて狭い。そこでは例えば放物線や円のように「単純な数式がシンプルな図形を与える」事例が多く取り上げられるので、決定論的な数式が与える結果は常に決定的であるという誤った理解を生じやすい。このためシンプルな手続きや数式から全体像を説明するのが極めて困難な複雑性が導かれるものに逆説的な美しさを感じる。しかし実際にはそれらは特別なものではなく、恐らくは身の回りの複雑な諸々を形成しているシンプルなプログラムである。
セル・オートマトンの一形態であるライフゲームについてのシミュレーションと考察。過去にYahoo!ブログで公開していたものを Amebaブログに移植している。全3巻。(2009/11/16〜21)
出典および編集追記:

1.「Wikipedia - セル・オートマトン

2.「Wikipedia - ルール30

3.「Wikipedia - Terms of use/ja」ではすべてのコンテンツが再配布可能であることが謳われている。制作者に敬意を表しファイル名は変えることなくそのまま当サイトへ保存し参照している。

4.「みなさんにとっての『美しい』ものを教えてください。

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