婦曽婦曽

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記事作成日:2016/7/21
最終編集日:2022/4/10
婦曽婦曽(ふそふそ)とは二俣瀬区山中の南に存在する地名である。
写真は市道杉河内線の道中、字婦曽婦曽の南側に位置する峠付近からの撮影。


大まかな位置を地図で示す。


漢字での記述や読み方からして非常に謎めいており、市内における由来解析が困難な地名の一つである。
本編では特段の事情ない限り婦曽婦曽の表記で統一し記述している。
《 地名を与える客観資料 》
この地名を明示する客観資料としては現在のところ以下のものが知られている。
【 耕地字図 】
二俣瀬と善和の双方から記述した異なる制作時期のものが存在する。



いずれも3連続溜め池を含む領域を字婦曽婦曽としている。
【 山口県地名大辞典 】
大字山中にある字名として、婦曽々々一と婦曽々々二が記載されている。


法務局で閲覧できる資料はこの表記を与えており、現行の字表記名は婦曽々々である。この意味では生きた地名と言える。もしこの領域が新興住宅地などで開発が入ったり太陽光発電所が設置されるなら、所在地表記として「宇部市大字山中字婦曽々々xxxx番」のように記載されるだろう。
【 防長風土注進案 】
2016年7月に防長風土注進案を閲覧していて、二俣瀬村の河川や堤を収録した記述の中に「ふそ〱堤 同貳畝」という記載を見つけた。この「〱」は踊り字であり、縦書きでは全角2文字分相当で記載されている。

字婦曽婦曽の大半は沢地なので、江戸期に築堤された3連続溜め池の名称が地名に継承されたと考えるのが自然であろう。
【 地名明細書 】
江戸期〜明治期にかけて使われていた地名を収録する地名明細書では、山中村のこの近辺では阿弥陀堂が収録されているだけで婦曽婦曽またはそれに近い読みをする地名は見当たらない。当初から人家が存在しなかったか、あるいは既存の地名から後年分化して発生した小字名と思われる。
《 地名の由来 》
この地名に初めて接したのは、前掲の耕地字図であった。字図には婦曽婦曽と書かれているのみで振り仮名がないので、初期では「ねそねそ」ではないかと考えられた。[1]しかしその後防長風土注進案に記載されたふそ〱堤から、読みが「ふそふそ」であることが判明した。登記簿上でも「婦曽々々(ふそふそ)」として記載されていることが報告されており、現在でも同じ読みである。
【 結局「ふそふそ」とは何なのか? 】
未だ確定的ではないが、婦曽婦曽(ふそふそ)とは水がゆっくりと流れる容態を形容したことに由来するのかも知れないと考えている。この理由は以下の2つに依拠する。
(1) 同音を反復する擬態語であること。
(2) 厚東や二俣瀬に水の流れに由来すると考えられる同種の地名がみられること。
擬態語とは形のないものや状況に充てられた慣習的な読みを有する語で、そよそよとかザブザブなどと2度反復を伴うものが殆どである。地名以前に現在では書き言葉として擬態語が使われることは少なくなっている。

このうち水の流れを形容する擬態語として「ふそふそ」は、現在では全く使われない。しかし地名が発生する程度に年代を遡れば使われていた時代があったのではと推測する。音感からは水がゆっくり流れていくさまを形容したのかも知れない。これは「そよそよ」「渋々」からの連想である。このうち渋々(しぶしぶ)は物事を進めるのに気乗りせず滞ったさまを表す語として現在も使われている。沢地を少量の水が流れるさまを表現するなら、現在だと「ほそぼそ」という擬音語を考えるだろう。

したがってこの地名ではフソフソという音だけに意味がある。基本的に地名の由来は読み先行で漢字表記は後付けなので、婦や曽は後年同じ音の漢字を充てただけであり地名の由来に関して何の意味も与えない。

厚東地区と二俣瀬地区には道々(どうどう・どんどん)という小字名が知られ、溜め池や滝の名称にみられる。船木地区には鈍々(どんど)が存在する。これらの地名は、しばしば「山から水が『どんどん』流れ出てくるさま」に依ると説明される。この「どんどん」は現在も使われる擬態語であり、更に遡れば大量の水が押し寄せてくるさまを形容した「どうどう」にある。漢字で書けば「滔々と」になる。偉容があって大きな容態は現在でも「堂々と」のように表現する。

同じ小字名は他の地区にみられてもおかしくないのだが、道々という地名はこの地区へ特異的にみられるものの岐波や厚南ではまったく知られない。これは地勢由来だけでは説明できない地名命名法の特性である。
【 現地聞き取り調査 】
二俣瀬地区や厚東地区を訪れて地元在住者と話し込んだときに数回この地名について尋ねている。しかし由来どころか婦曽婦曽という地名自体をまったく知らないという回答しか得られていない。

2016年6月に車地で二俣瀬の中島について現地住民と話をする機会があり、その折りに山中の婦曽婦曽について尋ねたが地名自体を聞いたことがないという回答だった。

2018年5月にこの地区を再訪したとき、市道沿線で畑の手入れをなさっている方に聞き取りを行った。しかし婦曽婦曽という地名であることはまったく知らないという回答だった。また、このとき近辺に太陽光発電のソーラーパネルを設置する計画があり、送電鉄塔が建ち並ぶという話を聞いている。
路線名は不明だが既に山間部に一回線の送電鉄塔が建っている
《 ふそふそ堤周辺の写真 》
情報この記事に登場する物件(婦曽婦曽堤)は名称が異なるかも知れません。正しい名称が判明次第編集し本タグを除去します。

3連続溜め池のうちもっとも下流側にある池の余水吐付近。
満水位になると余水吐から流れ出る機構である。


中ほどにある溜め池。
何処にでもあるような普通の景観をもつ溜め池である。


3連続溜め池の一番上流にある池は湿地帯のようになっている。


市道レポートも含めて本編では3連続溜め池と表記している。それぞれに異なった名前が与えられているか(例えばふそふそ上堤・中堤・下堤など)は分からない。
《 記事作成後の情報 》
小字絵図では耕地字として「婦曽々々」が記載されているだけだが、同地には表記だけ異なる耕地字(「ふそふそ」や「フソフソ」)が混在しているという読者からの情報があった。[3] これは法務局での資料閲覧の結果と思われる。

また、岡山県の岡山空港の南に「フソフソ池」が存在しているという指摘があった。


市内のみならず県外でも(漢字表記は別として)まったく同じ読みを持つ溜め池が存在することから、「ふそふそ」とは現代では使われなくなっただけで、現代の「細々と」に呼応する擬態語だったのではと推測している。この裏付けとなる資料が待たれるところである。
出典および編集追記:

1. 婦負(ねい)と読む地名が富山県にある。また、宇部市川上には祢曽ノ尾(ねそのお)という小字名が存在するため関連を推測していた。

2.「FB|2016/7/3のタイムライン

3.「FB|2016/7/21の投稿に対するコメント

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