阿武川ダム・平成25年度見学会【2】

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(「阿武川ダム・平成25年度見学会【1】」の続き)

ダム事務所の前には一昨年と同じく「ダム見学会開催中」の看板が出ていた。


駐車場に車を停め、ここまで結構時間をかけてウロウロしてきた。もしかすると事務所から担当者が呼びに来られるかも知れないと思った。それまでにバリケードのある場所を確認して来ようか…進入できない理由を示す掲示が出ているかも知れない。

堰堤へ向かう通路は車が間違って進入しないようにチェーンが張られている。これは一昨年と同じだ。


あの”お化け水圧鉄管”を撮ろうと思って欄干に近づいた。
さすがにこちらはダム湖よりもモロに高低差が目に入るので半端なく怖い。


相変わらず高低差は苦手だ。日常生活でこの種の高低差を眺めることに慣れていないので、どうしても及び腰になってカメラを差し出せない。あまり本気になって両腕を伸ばしていると、心配されてダム事務所から誰か出てくるかも知れないというのもあった。


眼下に見えるのは新阿武川発電所の建屋である。そこに面白い風景が見えた。


阿武川ダムの堰堤に向かってピッチング練習に勤しんでいる職員の姿。
堰堤が若干斜めになっているのでボールを投げるとちょうど良い塩梅に上向きで跳ね返ってくるわけである。見学者の足が途切れた中でお昼休みというところだろうか…
年に一回しかできないよね


カメラを上向きに戻して左岸からダムを写す。
そしてこの直後に…奇妙なことが起こった。


バリケードの少し手前を職員が歩いている。
えっ?
どういうこと?


その方は私がこれから向かおうとしている単管バリケードが設置された少し手前を歩いていらしたのだ。
私がここからカメラを差し出して撮影していたのはほんの数十秒だ。その間にサッと私の背後をすり抜けて先を歩いているというのだろうか…信じられない。ワープか?

私もバリケードの方へ歩き始めたとき、その方は気付いて私の方へ引き返して来られた。そのことでダム管理所の職員であると気付いた。私から声をかけるまでもなく話しかけられた。

「ダムの見学会にいらしたんですね?」
「はい、そうです。」
最初の疑問をぶつけていた。
「私ずっとここで撮影していたんですけど…いつ後ろを通られましたか?」
「あそこの…このエレベーターから上がって来ましたよ。」
この左側に写っている古いコンクリート建屋がそれだ。


一般には公開されていないだけで、実は阿武川ダムにはエレベーターが備わっていたのであった。私が撮影している間にエレベーターから降りて先を歩いて行かれたわけで…道理でワープしたように思えたわけだ。

「何しろ古いエレベーターで…調子が良くないので今点検中です。だから見学会に来られた方の輸送ではなく職員の移動だけに使っています。」
「えっ?それって…大丈夫なんですか?」
「まぁ…私どもも乗っていてあまり気持ちの良いもんじゃありませんが…」
整備が完了次第、ダム見学会で訪れた人の移動手段にも使う予定だという。そう言えば一昨年来たときはダム管理所では概略の説明だけで見学はダム下の新阿武川発電所からの監査廊入口までだった。堤高のあるダムだから確かにエレベーターくらいはないと定期検査も大変だろう…

私たちは問題となるバリケードの方へ歩いていた。
当然ながら私は懸案の件について尋ねた。
「この先が立入禁止になっているのは何故ですか?一昨年来たときもバリケードがあったんですが…」


「あの先にあるガントリークレーンの巻き上げ部分からグリスが垂れ落ちているんです。来訪者の服を汚すかも知れないということで締め切っています。」
しかし後になって思えばそんなに頻繁にグリスが落ちるということもないだろう。バリケードがガントリークレーンのかなり手前に置かれているのも不自然だ。堤高が高いし、右岸側はダム管理所から遠いので来訪者の行ける場所を職員の目が届く範囲に制限するためのようにも思われた。
「バリケードの先に行ってみていいですか?右岸からの写真を撮りたいので…」
同伴ならOKということだった。担当職員に随伴されてこの先に入ることができた。


こうして全くの偶発的タイミングによって平成25年度の見学会が始まったばかりではなく、望み通り立入禁止区間に入ることも出来たのであった。
この先は遠くからでも観ることができる場所なので記事は一般公開扱いとしている

歩きながら撮影しているのでピントが甘くなっている。


ワイヤロープを見上げたところ。
確かに黒々とグリスが付着していたし、その真下は不定期にグリスが落下したようで黒い跡がついていた。
しかしこれだけが侵入禁止の原因ならロープの下だけにコーンバーで囲う筈だ…


ここに来るまでに覚えていた疑問を率直にぶつけていた。
「あの後ろの山に簡易トイレのようなものが見えるのは何ですか?」
「あれは…給水用のタンクです。水道が来ていないので、山の水を溜めて供給しています。」
やっぱり…あんな場所に簡易トイレ捨て置くわけがないよね…^^;
先ほど行ってみたトイレの水が飲めない旨の表示が出ていたのも、ポンプで汲み上げた水を管で繋いでいるだけだからだ。塩素消毒されていない水だから飲料には安全とは言えないだろう。
「ダム管理事務所は職員が常駐しているんですよね?水道が来ていないってことは…煮炊きに使う水は?」
「事務所に簡易浄化設備を置いています。」
水道が来ていないくらいだから当然スーパーやコンビニなども近くにはない。宿直時は買いだしが必要だろう。

対岸へ向かう間も私はこの場所でしか撮影できないものをカメラに収めていた。
普段入れない場所からの眺めと共に、公開されていない場所に何か興味深いものが隠れていないかを探ること…それが主な目的である。


忘れずに右岸寄りのこの場所からも阿武湖を撮影しておいた。


ダム堰堤の延長上に見えるコンクリートの塊。
初めて見たときには正体が分からなかった。その後結構あちこちのダムで同種のものを見つけた。


確かこれを見たのは阿武川ダムが最初だったと思う。ダム施工時期によっては取り除かれている場所もあるし、ダムの規模や工法によっては設置されなかった例もあるようだ。
だから敢えて担当者には尋ねなかったが、正面に目立つものとして話題には上った。
「あそこまで道がなさそうですね。あんな高いところにあれほどのものを造るのは大変だったのでは…」
「本当はこういうものは工事が終わった後は取り除いて現状に戻さなければいけないんですが…」
確かにもはやそこへ到達する手段はなさそうに思える。
今更撤去もできないから、このまま昭和期の遺構として残り続けることになるだろう。


右岸の上流側にもの凄い露岩がみえてきた。
一部コンクリート吹き付けで、大部分は削られたままのように見える。


再度来ることができないかも知れない場所なので、私は担当者よりずっと先を歩いて周囲を写し始めていた。

ダムの右岸接続部。
簡素なスペースになっているだけで何の設備も置かれていない。ダム職員にしても用事がないから滅多に来ない場所だろう。


上流側には門扉があってその外側に管理道らしきものが見えた。


下流側はコンクリートの欄干が切れた部分に門扉が設置されているだけだ。
その外側は…もしかするともの凄い絶壁のようにも思われた。


この外側は多分あの場所に続いているんだろう…
想像する答え合わせをするかのようにまずはこの門扉に近づいてみた。

(「阿武川ダム・平成25年度見学会【3】」へ続く)

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