佐波川ダム・平成23年度見学会【3】

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(「佐波川ダム・平成23年度見学会【2】」の続き)

分岐点はまだ洞内の半分も来ていない地点らしかった。


分岐から先はなおもダム湖側へ向かってゆるやかにカーブしていた。
先に明かりが見え始めた。心配しなくてもそんな極端に長い隧道ではないらしい。


真っ暗な中を一人歩くのはそう気持ちいいものではない。幽霊などそんなものは心配していないが、イノシシなどの野生動物が出てくるとか、不意に路面の穴ぼこに足を突っ込んで靴を濡らすなど、そっちが気になった。もっとも先ほど車が通ったから野生動物は居ないだろうが…

カーブをこなすと、四角い出口が見えてきた。


出口に到達。体感的に全長150mくらいだろうか。


外へ出た途端、再び夏のモワッとした熱気が顔にまとわりついてきた。
それほど洞内は気温が低かった。

トンネルを出た先も管理道はダム湖側に頼りないガードケーブルを伴いながら伸びていた。


出口から離れて撮影している。
このあたり路面は舗装されているものの、カーブミラーはない。道路幅は普通車一台の規格で、離合は軽四同士なら何とかなるかも知れないが普通車2台ならまず不可能。鉢合わせしたら、ダム事務所までバックしなければなるまい。


上流側の坑口にも扁額はなく、錆の目立つ高さ制限のバーが架かっていた。
駐車禁止の標識が立っているのが何か笑える。こんな所に駐車するアホはいないし、何よりも駐車して一体何処へ行くんだろう…


いつもの自転車ならもう少し先を追い求めようが、歩きなら道草が過ぎる。
管理道沿いには鬱蒼と茂った木々で湖面は見渡せず、写真になりそうなスポットも期待できないので早々に涼しい隧道内へ戻った。
デコボコな吹き付け天井や側面は、やはりそれなりの趣があった。


初回ブログ公開後に分かった情報だが、噂によればこの隧道は県下でもかなり有名な”心霊スポット”とされているらしい。
確かにそういう情報めいたものが現時点での Wikipedia の項目に書かれている。
「Wikipedia - 心霊スポット|中国地方」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BF%83%E9%9C%8A%E3%82%B9%E3%83%9D%E3%83%83%E3%83%88#.E4.B8.AD.E5.9B.BD.E5.9C.B0.E6.96.B9
情報源や信憑性の裏を取る意味で私のサイトでもしばしば引用している Wikipedia だが、たまにどうしようもなく「くだらない」項目や記述がある。
内容がくだらないばかりか誤りも…丸山ダムが山陽小野田市にあるとは…編集者出て来いw
上の項目はお話として読むには結構面白いのだが、およそ Wikipedia がフリーの”百科事典”を標榜するなら全く相応しくなく、閲覧者に誤解や偏見を植え付ける害悪な項目とすら言える。
根拠は簡単で「幽霊は観測者の脳内以外の何処にも存在しない」から

佐波川ダムが心霊スポットとして紹介される理由があるなら、過去に何か猟奇的な事件があったか、あるいは今私が歩いている素掘り隧道の雰囲気によるものだろう。

来客用駐車場の裏には、ダム工事殉職者の石碑があった。
手を合わせよとは言わないが、せめて血と汗の元にダムや隧道、そしてあの垂直壁などの構造物が造られたことを理解して欲しい。夜間に心霊フェチ仲間を引き連れ肝試しなどと称して面白半分に訪れるなんてのは、ゆとりのすることだ。

そろそろダム事務所側の出口が近い。
確かに隧道内は居心地の良い場所でもないが、それは人間が本能的に暗闇を怖れるという理由以外にない。古代に暮らす原人以来、暗闇に潜む野獣が襲ってくれば昼間より対応が遅れるから、通常より警戒心が高まる。今いる暗闇にそういう危険がまったくないと分かれば慣れるし平穏も得られるものなのだ。
特に今の暑い時期は隧道内の方が涼しくて快適だ


隧道と堰堤の間は、僅か数メートルだけ地山になっている。その部分に、左岸へ降りていく階段があった。


ダム堰堤の袖壁と同じ高さのネットフェンスなので、その気になれば跨ぎ越せてしまえる高さだが、関係者以外立入禁止の札が出ている。


この通路は間違いなくダム監査廊のうちの一つと繋がっているだろう。
無理して今観に行くことはない。この後の見学で訪れる筈だ。


身を乗り出して真下を撮影。
下る階段を折り返したところに、監査廊の入口があるようだ。しかしそこから更にダム下まで降りていく階段がある。
かなりの高低差があり、延々と谷底まで降りていくイメージ。カメラを構えているだけで吸い込まれそうだ。


同じくらいに吸い込まれそうで怖いショット。
ダム堰堤から取水塔の足元を撮影している。
ダム湖の水は相応な透明度がありながら、どの位に深いかも分からないような妖しい水の色を呈している。網目模様の垂直壁は湖底にも続いており、転落すれば何処からも上がれる場所はない。
取水塔付近にもボートなどを接岸できるような設備はない


取水塔全体の写真。
ダム堰堤側からは先ほどの通路は塔に隠れて全く見えなかった。


スクリーン下部のズーム写真。
六角柱の中はどんな構造になっているのだろうか…
気になるがダム堰堤からは離れているから、今回の見学の対象外だろう。


思えばダム湖の写真を撮っていなかった。
大原湖と名付けられている。大原とは、ダムにより水没することとなった集落の名前である。
水没対象世帯が極めて多く補償問題でかなりの紆余曲折があったようだ


もう一つ、怖いものがあった。
ダム事務所の横手から、ダム湖へ向かって伸びるコンクリート階段があった。
その先は…


コンクリート階段は途中で折り返し、鋼製の階段に変わっていた。
その先は水没しており、ダム湖の底へ延々と続いていた。
一体、何のために?そして何処まで続いているの?
ダム湖にボートを浮かべるときの降り口だろうか…それにしてはあまりにも無意味に湖底まで伸びているような気がするのだが…


さて、これで自分一人で堪能できそうな場所は(帰りに行くと決めていたダム下を除いて)一通り観てきた。
ダム見学会はこれからが本番だ。

一旦車へ戻り、既にぬるくなりかけているペットボトルのお茶を飲んでダム事務所へ向かった。


玄関を入ったところに見学者向けのパンフレットと見学者名簿が置かれていた。今日の見学者は私が初めてだったが、市内や近隣地域からの見学者の名前が若干名書かれていた。

すぐに事務所から担当者が出て来られた。さっき堰堤ですれ違った二人組とは違う人のような気がした。
ダム見学も初っ端の今富ダムをはじめ、阿武川ダムを経てこれで3箇所目になる。効率よく見学を進めるために、自分の希望を表明した。
厚かましいようだが見学会では最初に自分の希望をハッキリ言っておいた方が良い[1]
「監査廊など、普段観られない場所を見たいのですが…」
それで管理事務所内の見学は省略して普段は公開されないダム監査廊を含む管理区域内の見学に向かった。

(「佐波川ダム・平成23年度見学会【4】」に続く)

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出典および編集追記:

1. 阿武川ダムの初回見学会参加時にはいち早く監査廊を見たいのにダム事務所の役割をはじめ、一昨年の豪雨時でのリアル映像を見ながらの解説や防災の考え方などを延々と語られて閉口したことによる。

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