佐波川ダム・平成23年度見学会【2】

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(「佐波川ダム・平成23年度見学会【1】」の続き)

ダム堰堤の上は管理道なのか通常の市道なのか、車でも通れるようだった。左岸接続部には崖に穿たれたトンネルと、垂直壁沿いに六角形の塔が立っていた。

それは網目模様の目立つ垂直壁に接するように建てられていた。
緑色のスクリーンを伴う鋼鉄製の塔の上に、六角形の建て屋が乗っかっている。


これが何であるかは、場所柄すぐ想像がついた。そのことは後で検証するとして、現物を見てすぐ感じたのは、
これ…どうやって建てたの?
どうやってあそこに行くの?
堰堤付近はダム湖で一番深い場所だから、後から建てるなんて至難の業だ。少なくとも湛水を始める前に建てたに違いない。ダム湖の水で隠れているだけで、恐らく山の斜面に立っている格好だろう。

更に気になるのは、見たところ取水塔へのアクセス手段がなさそうなことだ。垂直壁を伝う桟橋は架かっていない。いや…それは作業通路としては怖すぎる。

トンネル入口付近から塔まで電線が引っ張ってある。多分、スクリーン操作用の電源だろうけど、あの線さえどうやって張ったのだろうかと思う。湖上にボートを浮かべ、堰堤から電線の末端を投げてもらい、塔によじ登ったのだろうか。
何よりもスクリーンに引っかかる夾雑物を取り除いたり、ゲートを操作するなどの維持管理業務を行う都度、湖上にボートを浮かべ塔をよじ登るわけでもあるまい。

そうなれば、塔への連絡手段はあれしかない。
その件の検証も含めて、まずはこのトンネルだ。


素っ気ないポータル。
扁額はない。当初からなかったようで、取り付けられていた痕跡もなかった。
最初、遠くから見たとき作業用トンネルと思った理由である


それにしても実を言うと私にとってダム左岸のトンネルは全くノーマークだった。いつもするように、アジトを出る前に地図で確認していたのだが。

これには理由があった。


上の地図の中心点はダム堰堤の中央を指している。この地図では堰堤上を通れる道が表示されているが、左岸側へ突き当たった先の表示はない。

この近辺は山間深いせいか、Yahoo!地図では航空映像とともにこれ以上拡大表示できない。表示状態ではダム堰堤を渡った先で行き止まりのように表示される。そのため車で通れる道はダム事務所までで、その先はダム関係者以外立入禁止と想像していたのである。
国土地理院の地図には堰堤上を通ってトンネルに入る道が表示されている

坑口上部には鉄柱が渡され、3.2mを越える車両が入り込まないよう規制されている。もっとも標識は著しく苔にまみれていて、何年もこの状態だったようだ。
何よりもこの標示を見た時点で気付いて慌てて引き返すなら…延々とダム事務所まで全線バックする以外ない


公道がこんな状態で放置されているとも考えがたいから、このトンネルを含めてダム堰堤上の経路は認定市道などではなく恐らくダム事務所の管理道だろう。

中はひんやりとしてかなり涼しい。外はうるさく蝉が鳴き続け、暑い中を歩いて来たのでかなり有り難かった。至る所から滴下する水の音が隧道内に反響していた。

肉眼では内部の様子は既に見えていて、近代的な隧道らしからぬ光景におおっ!!と歓声を上げていた。 当然この光景を持ち帰ろうと思うのだが、そのままシャッターを押すとフラッシュが反応し、洞内を浮遊している霧のせいではっきりと映らない。


少し後ずさりし、太陽光が差し込む状態でフラッシュ強制オフで撮影した。
この方が肉眼で見えている映像により近い。写真を眺める読者もきっと同意してもらえると思うが、

トンネルというイメージではない。洞穴だ。


殆ど素掘りの色合いが濃いこの名前もない隧道にかなり萌えた。
トンネルにありがちなコンクリートの巻き立てではなく、単純な吹き付けだ。恐らく地山部分のすべてが岩なのだろう。 何十年も前のこと、青洞門を歩いて通ったときのことを思い出した。

天井の中央部分に点灯用の電線が通されており、太陽光が届かなくなる場所から蛍光灯が設置されている。
点々と続く蛍光灯の線形からして、土被りの浅い部分を求めて左へ曲がっているようだ。その先の明かりはまだ見えない。結構長い。

この隧道を通ることに関して、一般車両は高さ以外に特に制約はない。
しかしすぐに思ったのは、
歩行者が通っても大丈夫?
あまりにも明かりが乏しい。前方は何とか見えても足元は全く覚束ない。水溜まりが有れば突っ込むし、こぶし大の石が転がっていても躓くだろう。
もっとも先ほどダム堰堤ですれ違った事務所の2人組は、私がトンネル方向へ歩いていることに関して何の注意もしなかった。もともと頻繁に人や車が通る場所でもないのだから、自己責任でということだろう。

暗闇に目が慣れても、肉眼では壁も足元も見えない。それほど暗いのだが、それでも私は進行方向左手に何かありそうな予感を抱いていた。

やっぱりそうだった。
その方向へカメラを構える。フラッシュが動作し、殆ど何も写らない。


しかし肉眼では見つけていた。
洞内分岐だ!!
その地点を過ぎて振り返り、外の明かりを一部取り込みながら撮影している。
こうしなければフラッシュが動作してしまう
写真では右手の暗がりに分岐があった。


写真ではうまく表現できないので動画を回してみた。
[再生時間: 42秒]


やはり、そうだった。 隧道内からあの取水塔へ向かう洞内分岐が伸びていたのだ。先ほどダム事務所の2人組とすれ違ったのだが、あの取水塔で作業して引き返したところだったのかも知れない。

洞内分岐部分は太陽光が射さず、フラッシュなしでは何も写らない。しかしフラッシュを焚けば洞内の霧で反射して2枚上の写真のような状態になってしまう。分かる形で撮るなら、途中で明かりの部分を含めつつ動画撮影する以外ないと思った。

カメラを動画モードに切り替えたそのとき…
こんな狭くて真っ暗な素掘り臭いトンネルを通るなんて誰もいないと思っていたら、何と車の音が近づいてきた。
私が歩いてきたダム事務所側からだ。

私は自分がたまたま洞内分岐地点に立っていたことを神に感謝した…と言えば大げさだが、満更誇張でもない。狭い洞内では歩行者が退避できる場所がない。まして運転手からすれば、まさかカメラを持った酔狂な歩行者が洞内に立ち止まっているとも思わないだろう。

車を回避するために一旦洞内分岐へ移動し、テスト撮影を兼ねて動画を回した。
[再生時間: 31秒]


車が通り過ぎた後、すぐ分岐から出て後部を写そうかとも思ったが、もし私の姿がルームミラーで見えたら相当驚かせてしまうだろう。それで若干遅れたタイミングで道路に出ている。本当に通行する車があったとは…

改めて、洞内分岐部分が分かるように動画撮影してみた。
[再生時間: 47秒]


分岐は本線隧道に対して垂直に伸びており、幅や高さは本線を縮小したような感じだった。普通の格好で歩いたら頭を天井に打ち付けそうだったので、やや前屈みで進んだ。
一般人に用事がある部分ではないので、分岐部分に明かりはない。先ほど訪れたダム事務所の人なら多分懐中電灯を持っていただろう。

前方の明かりを頼りに歩み、当然そうであろうと予想された通り、鉄格子の門扉に突き当たった。
外気が入り込んでいるようで、接近するにつれて生暖かい空気に変わっていった。


「あぶないからはいってはいけません!」の、工事現場などでよく使われる汎用の掲示が門扉に貼られていた。
フラッシュ撮影だから読めるのであって一般の通行人はこれを読める機会はないだろう
もちろん扉は施錠されていたし、その造りにもぬかりはなく、人どころか猫の子ですら先へは進めない。真っ直ぐ進めば急斜面があり、ダム湖へ転落すれば何処にも上がる場所などないから当然と言えば当然だ。

この先にあるものを観に来たのだから、やすやすと諦めはしない。
まず鉄棒の隙間から右手とカメラを通して先を窺わせた。

門扉の先はダム湖へそのまま突き進む経路と、左へ折れる通路に分かれていた。 正面通路には堆肥のようなものが積まれている。多分、スクリーンに掛かっていた夾雑物を引き上げた跡だろう。
左の方から強烈な陽射しが入って来ているので、カメラを向けられない。
ホワイトバランスが狂って正面の通路部分が真っ暗になる


少しカメラを左に振る。忽ち正面の開口部がホワイトアウトする代わりに、分岐部の壁が映るようになった。
壁には小運搬用の一輪車や熊手など清掃具が立て掛けてあった。
コンクリートの壁面が見えるので、ここは既に洞外になるようだ。


そして分岐の左なのだが…
出口があり、その先は縞鋼板の通路になっていて、再び侵入禁止の門扉があるようだ。縞鋼板の桟橋は既に湖上らしく、隙間から湖面が見えていた。


鉄棒を通した状態でカメラを操作するのは至難の業だった。 写真のような映像は、門扉の手前に立った状態からは見えない。門扉越しに両腕を伸ばしたカメラだけが見ることのできる眺めだ。

限界まで思い切り腕を伸ばしてカメラを構える。腕が攣りそうだ。
それ以前にカメラを落としてしまうと回収不能になるのが怖い

その状態で何とかズーム操作し、先を偵察させた映像がこれだ。
六角柱の建て屋に向かう昇降階段が見えている。その手前にも関係者以外立入禁止の札が見えていた。


扉のある正面の壁に、これが何であるかを物語る銘板が取り付けてあった。
明かりが足らず見辛いが、発電所の取水設備と書かれている。微かに昭和50年代後半のものと読み取れた。


ダム関連ではありながら、これはむしろ来るときに見た佐波川発電所に関する設備だ。この六角柱の建て屋から取水し、佐波川を介さず導水トンネルで発電所まで送水している。
想像する以外ないが、ダム湖の下にはあの垂直壁に穴が穿たれ、導水トンネルの入口があり、この操作室でゲートを操作して送水量を調整しているのだろう。
実際にはダム事務所など他の場所からの遠隔操作だろうか
この洞内分岐も、取水設備のメンテナンス通路として造られたのだろう。

分岐の正体が分かれば納得だ。
再び、前屈みの摺り足状態で本線に戻る。


さて、洞内分岐を引き返して本線に戻った後、ダムというテーマからはやや離れるが、この隧道の出口だけは観ておきたいと思った。
再び蛍光灯の列を頼りに歩き始めた。

(「佐波川ダム・平成23年度見学会【3】」に続く)

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